22、マスター(3)
「なかなかやるナンね。まさか四人で全員倒す、いや殺すなんて、ちょっとは実力を認めてやるナン」
「ありがとよ」
今気づいたけど、知らないうちに剣の扱いにも慣れてきたみたいだ。というか、体の動かし方、OSGの特性、剣の長さとかも体で覚えてしまった。これで一人前の剣士になれたかな?
「だけど、オイラとAさんは最強のコンビだハラ。今までと同じだと思っていると、きっと痛い目を見るハラ」
「まさか、二人とも魔法が使えるんですか?」
ダイスの質問に二人はオレたちをあなどるように言う。
「もちろんだナン。ボクは攻撃的な呪文でー、」
「オイラは戦略的な呪文を得意とするハラ。しかも剣術はマスターの中でもトップクラスだハラ」
「もしかすると、今まで戦ったやつで一番てごわい相手かも」
オレは額からにじみ出てくる汗をぬぐいながらさらに言う。
「でも、オレたちは必ず勝つ。こんなとこで、足踏みしてる暇なんてないんだ」
さっきの戦闘の疲れが、今ごろ出てきた。オレは肩で息をしながらAさんとBさんをにらんだ。
「さあBさん、まずどいつを殺そうかナン?」
Bさんはオレを指差す。
「あのソレイユとかいうガキだハラ。さあ行くぞ、Aさん」
「ナン!」
Aさんは独特のかけ声とともに、瞬間移動して切りつけてきた。ぎりぎりでよけ、切られた髪が宙を舞う。
「くらえっ!」
オレはがら空きのAさんの背中をねらう。だが、Bさんはいつのまにか呪文を唱えていた。
「ショック!」
「がああっ!」
しまった……と思ったら、それほどくらってなかった。どうやらまたライジングソードが助けてくれたようだ。
「ありがとな、ザーロック」
そのままAさんの背中を切った。だが、刃が触れる寸前に姿が消えてしまった。
「くそっ、フリングかっ」
だがダイスが彼の居場所をつかんだ。矢の射る音が聞こえ、Aさんの声がする。
「ナン――! はい、そうやってー」
「無事ハラか、Aさん」
「Bさん、矢をぬいてくれナン」
二人がもたもたしている時間を使い、サリィが唱え始める。ソラはサリィの前に立ち、サリィを守っている。
「ナナナナナーン!」
ダイスの矢がまたつきささった。一本目で背中、二本目で左腕に矢を受けたAさんは苦しそうに倒れている。
「フィラマ・オブ・ドラクス!」
サリィの右手が不気味に動く。指先に黒い色をした力がたまっていく。彼女が短い言葉を言うと、空間をひきさくギザギザのブレードが五本現れ、Aさん、Bさんのところへ向かった。あんなのをくらったら、ひとたまりもないだろう。
けどサリィは、こんな邪悪な魔法は使わないぞ?
まさか、ヴォストークの領主、ドルットからゆずり受けた腕輪のせいか? 強い魔法が使用できるからいいが、ちょっとにおう。
「Aさんは……オイラが守るハラーっ!」
ガガガガガ! 五本のブレードは、すべてBさんに当たった。いや、自分から当たりにいったのか? だが、まだ生きてはいると思った。なぜなら、Bさんは倒れなかったからだ。
だが、Bさんの鎧はバターみたいに裂けていて、血がポタポタと地面をまっ赤に染めていく。Aさんは、どうしてたらいいか分からないようだ。
「Bさん……ボクのために、かばってくれたのかナン?」
「もちろんだハラ……Aさんは、あの最強の呪文、カストルでやっつけてくれハラ……ごほっ、ほげっ」
「いや、あいつらをやっつけるのは、ボクのお気に入りの呪文、コバルトだナン」
「カストルがいいと思うハラ」
「違うナン、コバルトナン」
「カストルだハラ!」
「コバルトだナン!」
「カストル!」
「コバルト!」
その後もずっと意見が対立したままだった。ほんの三分前までは、あんなに息の合ったコンビはないと確信してたのに。オレたちがあっけにとられていると、サリィが口を開く。
「次の攻撃で絶対に殺す……殺して、死んで、私がその魂を食べるの……」
「サ、サリィ?」
彼女を見た瞬間、ぞくっと寒気がした。
彼女の身体から黒いオーラが出ていて、目つきは鋭く、口は大きく裂けている。そして、また魔法を使う気だ。ファンジャウ人でなくても、充分殺気が伝わってくる[(ファンジャウ人は、他のものの殺気を感じ取る力を持っているのだ)]。
突然、心の中で声が響いた。
(彼女は腕輪の魔力にのっとられています。実は悪魔の腕輪には二種類あって、一つは支配、もう一つは希望なんです。ドルットはそれを見極める事ができなかったの)
な、何だ、これは? 支配と、希望? じゃあサリィがつけた腕輪は支配ってわけだな。
ダイスとソラは、彼女を止めようとがんばっているが、口の動きだけは止められない。
「オレはどうすればいい?」
(私に強く願いなさい。希望の腕輪は、黒い闇の一点にのみ存在する光です。強く念じれば、光を支配の腕輪に送れます。ちなみに私は希望の腕輪です)
「オレは……彼女を……助けたい……」
すると、オレのつけてる腕輪が光り始めた。なんだか、この輝きを見てると、希望がわいてくる。
(もっと……もっと願うんだ……サリィを、助けるために!)
思いが通じたのか、彼女の呪文を唱えていた口が止まった。不思議そうに、自分の手、いや腕輪を見ている。ダイスとソラもわけがわからん、とでも言いたげにオレとサリィを交互に見ている。
(もっと強く願いなさい。私がそれに答えてあげるから……)
「サリィを救え! 希望の光よ!」
そして、勝手に口が動いていた。
「ライトマター!」
おお、彼女のつけている腕輪から光がほんの少しもれている。さらに願うと、輝きが増し、彼女の体から殺気がなくなっていく。サリィの腕輪は、苦しそうにオレの心に語りかけてくる。
(だめだ、そんなに希望をもっては! 願うな、おい、こら!)
軽く無視して、もっと願う。やがて、支配のほうの声は聞こえなくなり、サリィはついに意識を取り戻した。
「サリィ!」
みんなが彼女のもとへ走り、喜びの時間をしばらく味わった。サリィはオレだけを見ている。
「腕輪に支配されている間、ずっとソレイユの声が私に届いてました。本当にありがとう」
「サリィは知ってたのか? 希望と支配、二つの腕輪があった事」
「全然知らなかったわ。え、じゃあ私がつけているのは支配で、ソレイユがつけているのは希望なの?」
「そういうわけだ。もうこんなの、はずしちゃおうぜ」
「そうね」
オレは腕輪をとろうと引っ張る。だが、OSGをつけていてもとれなかった。サリィのも同じ結果で、オレたちはしょんぼりした。
サリィは、はしゃぐダイスとソラに気づかれないように小さい声で言う。
「また迷惑をかける事になるわ。その時は……」
「私を救ってくれ?」
彼女は申し訳なさそうにうなずく。ここで助けないなんて言ったら、オレはKYになってしまう。
「もちろんだ。いざという時には、オレたち仲間が助けてやるよ」
これで彼女も安心するはずだ。彼女は、湖のほうを見て言う。
「AさんとBさんは逃げてしまったようね」
「ふむ……。まあいいさ。オレたちは、キングフェアリーに用があるんだから」
オレたちは、湖へ走って行った。




