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20、マスター(1)

「もう夕方だな」


 Cさんがつぶやく。オレも、邸宅の窓から顔を出して言う。


「だけど、まだ暑いぞ。夏に近づいたからかな?」

「いや、まだ五月の終わりだぞ? 暑いのは、さっきの戦いの興奮のせいじゃないのか?」

「そうかもな」

「みんな、ドルットが呼んでるわ。どうやらソレイユとサリィに用があるみたいよ」

「じゃあ行くか」

「ええ」


 扉をでて、左の通路をまっすぐ。つきあたりの階段をあがって左に曲がる。で、四つ目の扉が……ドルットのいる部屋だ。オレがコンコンとノックすると、やけに小さい生き物が開けてくれた。ドルットだ。


「まあ入れ。適当に椅子に座っててくれ」

「オレたち二人に何の用だ?」

「ちょっと待っててくれ。ある物を持ってくる」

「お、おい」


 だが呼び止めるオレを置いて部屋を出てしまった。


「ったく、くだらない用だったら、はりたおしてやる」

「うふふ。もしかしたら、あのホビットさんが宝石を持ってきたりして」

「もしそうだったら、わざわざオレとサリィだけを呼ぶ必要なんてないだろ。いや、その前にあんなくそホビットがオレたちの目的なんて知ってるはずないぜ」

「そうね」


 バターン! 扉を勢い良く開けたのはドルットだった。


「さあ! これをプレゼントだ」


 二人に渡されたのは、きれいな腕輪だ。ところどころに星のマークがついていて、星は七色に光ってる。


「これは?」


 サリィが問うと、ドルットは声を小さくした。


「聞いて驚くなよ。この腕輪は、悪魔の腕輪だ」

「な、なんですって……」


 サリィの様子が変だ。悪魔だって? 見た目は、そんなイメージなんて全くないけど?


「どういう腕輪なんだ、サリィ?」


 彼女はそれこそ文章をそのまま読むように答える。


「悪魔の腕輪、つけたものの魔力を高め、いくつもの呪文が新たに使えるようになる。しかし、魔法が使えない者がこれをつけたとき……」

「つけたとき?」

「一瞬で死ぬ」

「まじで」


 サリィは目をかっと見開き、オレが持っていた腕輪を奪いとり、ドルットにつき出す。


「こんな物は、もらえません」


 だが彼は押し戻した。


「わたしは怖い。これを持ち続けていると、気に入らないやつを何度も殺そうとする。だが幸いな事にそいつは魔法が使えたがな。そしたら、気がつくと手にダガーを持っていて……ううっ」


 ドルットはひざをつき、涙声で言った。


「ルアンパバーンの賢者なら、この腕輪の闇を取り除いてくれると聞く。わたしは行こうとするが、腕輪が話しかけてくるんだ。行くな、行くな、と。わたしは意志が弱いから、負けてしまうんだ。もうお分かりだろうが、一つお願いがある」


 そして、オレたちの手をにぎる。


「それをルアンパバーンへ運んでもらいたい」


 こんな危険な代物を? まさかだろ。しかしサリィはうなずいた。


「わかったわ」

「サ、サリィ」


 オレは助けを求めるような声で言う。サリィはそれでもゆずらない。


「このホビットさんは困っているわ。見捨てるわけにはいかないでしょう」

「言われてみればな」


 オレが悩んでいると、ドルットはうるうるした目でこっちを見てくる。ちっ。しょうがない。


「わかったよ」

「そうか。助かった。それは魔法使用者には何の害もないから、旅に役立つだろう。くれぐれも、仲間にばれないようにしてくれよ」

「じゃあ、もう行くぞ?」

「おう。よろしくな」


 なんかにおうが、まあいいか。腕輪をつけて、OSGでうまく隠して仲間のもとに急ぐ。




『作戦は上出来か、ドルットよ』

「もちろんです。やつらはまんまと腕輪をつけました。これで三日後には……」

『ふふふ。これでジュエル・ハンターズはもう私のものだ』

「でも魔力を持つものにしか力を発揮できないなんて、変わってますよね」

『二人いれば充分だ。こちらからはウシュナルク・オロドムを送るから、彼にあいつらの行き先を言うのだ。我が娘の、居所をな……』

「何日間ほどかかりますか?」

『二日はかかるだろう』

「わかりました。準備しておきます」

『うむ。それまでは絶対にわたしの娘は傷つけるでないぞ』

「承知しました」




「さあ、宿探しだ」


 オレが話題をそらす。ソラにさっきの事をきかれたからだ。ソラはほおをふくらませたが、オレは見ないフリをする。


「せっかくだから、ゴージャスな宿にしようぜ。Cさんのおごりなんだし」

「それ、賛成!」

「こら! ぶっとばすぞ!」

「ソラをぶっとばせるのか?」

「うっ……」


 Cさんは金の残りを確かめている。オレはそんな彼を見てもまるで同情できない。やがて『ゴールド・ホテル』といういかにも高そうな宿、いやホテルを見つけた。オレとソラがまっさきに中へ入ると、Cさんは泣き顔になった。


「金を払うって言ったのはCさんなんだから、最後まで責任とってくれよ」


 オレも相当のワルだな。ソラが受付に話しかけると、オレたちが今日最後の客だという。残り一つの部屋しかなく、全員で泊まる事になった。


「えー、こちらがあなたがたが使用される部屋になります」

「……なんだ、この広さは?」

「ふざけるな、いくらだ?」

「えー、この部屋ですと、お一人様三万八千円となります」


 Cさんは気絶してしまった。彼の金を見ると、ちょうど十九万円あった。今後Cさんがどうやって旅を続けるのか、ちょっと楽しみだ。何度も言うが、オレはかなりのワルだったらしい。




 その後、Cさんはオレたちが風呂に入ってるときに、金十五万二千円をおいて消えてしまった。


「まあどうでもいいか」

「そうよね」

「うん、たしかに」

「お金を出してくれたのは感謝したいわ」


 口々にCさんの話題でいっぱいになった時、放送が流れた。


『あと十五分ほどで食事の準備が整いますので、早めに各部屋のテーブルをお願いします』


 えっ? 食堂へおいで下さい、じゃなくて? 部屋に料理が来るのかよ。さすが、高いだけある。


 テーブルを出して待つこと十五分。扉が開き、ホカホカの肉料理や、年代のよさそうなワインなどが運ばれてきた。もちろん、そこにはビールの姿もある。


「うわあ! 肉だー」

「ワ、ワインですよ、サリィさん!」

「ええ、とてもおいしそうだわ」

「全部おいしそう! 私、今からナオ・チャンになるナン。あはははっ!」


 オレたちは三十分ほど幸福なひとときを過ごしたが、やがて地獄に変わる。三人(誰がそうでないのか予想してくれ)でトイレの取り合いになり、最後には他の部屋のトイレまで使った。そして夜遅くまでビールやワインを飲み、倒れるようにベットに転がり、寝た。




「起きるナンよ、ソレイユ! こら、また寝るなナン!」


 寝起きは最悪だ。ソラのものまねに叩き起こされたオレは顔を洗いにいく。あー、昨日は久しぶりに飲み過ぎたみたいだ。頭がガンガンして、はき気がする。


 ベットに戻ると、ダイスやサリィも目覚めていた。


「おーはーよーうー」


 ダイスもひどいな。あれだけ飲んでたら、体に悪いぜ、きっと。まだ十五歳なんだから。


 サリィはいつもと変わらず、髪をとかしている。エルフにはどうやら人間のようなものにはならないらしい。


「朝食をとったら、すぐ発つぞ」


 誰も返事してくれない。やがて食い物が運ばれてきたが、全員ほとんど食べないでホテルを出た。


「そうだ、Cさん探してみるか」

「いや、多分もういっちゃいましたよ」

「何で?」

「ほら」


 ダイスは時計台を指差した。時刻は、えー、ただいま、じゅうじ、よんじゅうななふん。って、まじかよ!


「ま、いっか。Cさんだし」

「そうですよ。しょせんCさんです」

「よし、行くぞ」


 オレたちは騒がしい音をたてながらバイクのエンジンをつける。近くの人間が「暴走族だ! 逃げろ!」とかいっているが、全然頭に入ってこない。


「目指すは……キングフェアリーの湖、アガラス湖だ!」


 オレを先頭にバイクを走らせる。

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