19、魔法の聖地(2)
オレは急いで走る。けっこう離れていたが、三十秒でおいついた。ドルットが声を荒げる。
「おい、ソレイユ。今はいてるのは、まさかESBか?」
「そうだよ。ところでこの建物はあんたの家か?」
「邸宅と呼べ。もちろん、わたしの家だ。さあ入れ。仲間はすでに中で待っているよ」
すると自動で門が開き、地面が動いた。突然だったから、倒れそうになった。
「ここの地面はベルトコンベヤーになっていて、自動で運んでくれるんだ。便利だろう?」
「ああ」
そして中に入ると、仲間たちがいた。
「遅れてごめん」
「考え事でもしてたの?」
「うん」
オレはさっき思い出していた昔話をみんなにきかせた。ころころと表情が変わるソラ、そわそわしているダイスがオレを楽しませてくれたが、サリィとドルットは無表情だ。ちぇ、この話を知ってるのかよ。
話し終わると、ダイスがつぶやく。
「翼の生えた人……帝王軍の攻撃……ホビット……そうか!」
「えっ? 何が?」
「何が、だって? 翼のある人の正体さ!」[ここでは何故か、ダイスは敬語を使っていない]
「正体?」
「ダルゴン族だ」
今、ダイスが言ったんじゃないぞ。まぬけな表情でオレたちは声の聞こえた場所を見る。
Cさんだ。
「ドルット。オレを呼び出した理由は、これだったのか?」
今度は視線がドルットへ移動した。
「いいや。別件だけど、まさか知り合いかい?」
「そうだ。マーナリンで一度、会っただけだが」
もうCさんはヴォストークに着いたのか? まあたしかにCさんは一日早く出発したけど、オレらはバイクだぜ? どうやってこんなに早くきたんだろう。
「また会ったな、Cさん」
「お前は……ソレイユか。なぜ邸宅に?」
「ヴォストークに来る途中、ドルットをオーガから救ったんだ」
「そうか。いや、そんな事はどうでもいい。急ぎの知らせがあるんだ」
「言ってみてくれよ」
Cさんは少しの間ためらったが、やがてぽつりと言った。
「帝王の特殊部隊がお前らを探している」
「特殊部隊?」
あまりきいた事のない言葉だな。でもオレはそれよりも気になるものがあった。
「なあCさん。ダルゴン族って何だ?」
Cさんは絶句した。急ぎの知らせより重要か? とでもいいたげな目だ。残念ながら、オレはつねに疑問をいだく素朴な少年だからな。代わりにダイスが答える。
「ダルゴン族は、ドラゴン、人間、エルフ、ドワーフ、ホビット、フェアリー、オークに並ぶ八種族目の生き物です。背中にはダルゴンとドラゴンにしか見えない翼をもっています。でも、空を飛ぶときには翼が見えるといわれています。ドラゴンとホビットの友で、昔から帝王と対立していたそうです。それに、絶大な魔力が備わっていますから、兵士をたくさん殺すのなんて簡単でしょうね」
「へえー。そうなんだ」
「どうでもいい! やつらは今、ヴォストークに向かっているぞ。あと三十分ほどでたどりつく。数は六」
「一匹一匹が強いか?」
「おそらくな。それに数も多い」
「じゃあ正面から叩き潰すか」
オレは剣を抜いた。ライジングソードの刀身が太陽の光を反射させる[きっと邸宅の天井は吹き抜けになっているのだろう]。だがCさんは首を横に振った。
「だめだ。逃げろ。特殊部隊はお前が想像してる以上に強い。今なら間に合う。他のみんなも……」
Cさんは途中で言葉を失った。仲間たちはもうそれぞれの武器を構えていたからだ。
「どうなっても知らんぞ!」
だがそう言ったCさんも剣をなでている。おや、ドルットはどこに消えた?
「あいつはこの領地でも有名な魔法使いを呼ぶつもりだ。オレたちは、先に行ってよう」
「よし」
見張りの兵士をはねのけて、邸宅の外へ出た。なんだか、ぞくぞくしてきたぞ。剣も血を見たい、と騒いでいるようだ。
「あっちだ!」
Cさんの指示で走り出す。遠くでは、何かがぞろぞろと歩いているのがかすかに見えた。あんなにでかいのか? こんな遠くでも姿が認識できるんだから、だいたい五メートルはある。
「さあ、ここら辺で待ち伏せだ」
そう言うとCさんは近くの草むらに入ってしまった。オレたちもそれに続く。
「きゃあーっ!」
「どうした、ソラ! まさか、敵か?」
オレが彼女の近くに行ってみる。すると背中をこっちに向けた。
「ケ、ケムシが、背中に、い、いるのよ! は、早く、取って」
「ケムシかよ」
オレはそこらへんにあった木の棒でケムシを追い払い、再びこっちに歩いてくる巨体を見る。六匹のうち五匹はでかいが、中心にいるやつは人間と同じくらいの大きさだ。
あっ、あいつは!
「ザーロック……!」
「あいつを知ってんのか」
「この前までオレの旅の仲間だったやつだ。だろ、サリィ、ソラ?」
「あっ、そう言われてみれば。でもずいぶん目がつりあがってない?」
「それに、手に剣をもっていて、服装も戦士みたいだわ」
「やっぱりザーロックは帝王の手下だったんだな」
「そろそろおしゃべりはやめろ。あいつらに気づかれる」
オレたちは慌てて口を閉じた。なんで隠れる必要があるんだろう。今すぐにでもやつらの血を見たいのに!
「そこにいるのは分かっている。出てきたまえ」
鳥肌がたった。ザーロックが命令してきたのだ。まさかオレらに言ったのか? そうとしか考えられない。
「仕方ない。出るぞ」
「もうばれてたなんて」
「さすがは、特殊部隊」
いよいよか。オレたちは順々に草むらから出て、ザーロックをにらみつける。
「私のライジングソードは役に立っているか、ソレイユ?」
「もちろん。今、あんたを殺すのにも役立つはずだぜ」
「ふっ。やってみるか? 一対一の勝負を」
えっ? これは思わぬ展開だな。きっと自分の剣術に自信があるんだろう。オレだって強くなったってのを思い知らせてやる。
「いいぞ。サリィたちは、すまないけど下がっててくれ」
「来い。先攻はゆずろう」
「はっ!」
オレは瞬間的にジャンプして振り下ろす。ザーロックは防いだが、これは始まりにすぎない。
「ギガボルト!」
よし、決まった……と思いきや、全然電撃が流れない。距離をとりあえずとり、彼を見る。
「ははは。この鎧はな、雷を吸収するんだ。つまり、電撃なんかにたよってたら、お前死ぬぞ」
「だったら、作戦変更だ!」
剣を振り回す。上に振り上げて振り下ろし、横に突いての回転切り、そして斜め切り。だがザーロックはすべてを防いだ。
「つまらん。まだこの程度にしか上達していなかったのか」
そう言うと剣がきらっと光る。
「ちっ。太陽光かっ」
「まぶしいだろう? はっはっはっ」
今度はザーロックが攻めてきた。なんとか防ぐが、やつの拳がオレの腹に命中する。
「ぐはっ」
オレのバランスが崩れると、ザーロックはしゃがんで足を切りつけてきた。オレはなんとかとんでよけたが、また足を狙ってくる。
「調子にのるのも、いいかげんにしろー!」
全身の力をこめて、彼の剣を叩きつける。剣はこなごなになった。
「勝負あったな」
「くそっ! OSGをつけてるのを忘れていた」
「どうする?」
首に剣先を向けた。だが、ザーロックはにやっと笑った。すると、彼の姿が消えてしまった。
「どこにいった!」
「ここだ」
あっ。ザーロックは巨大な怪物の中心にいた。どうするつもりだ、あいつ。しばらくして、彼が手をあげた。
「やれ」
「グゴォォーッ!」
五匹の巨体が突進してくる。地響きもそうとうなものだ。立っているのがやっとの状態だから、サリィも魔法が使えない。
「ダメだ……やつらは防げない」
Cさんがあきらめたように言った、その時だ。
「いや、止められるぞ」
とっさに後ろを向く。なんとそこには、ドルットと何十人もの人間がいた。一斉に呪文を唱え始めると、ザーロックはたじろぐ。
「まずい……逃げろ」
「もう遅いぞ、ノロマな帝王軍よ」
「ドラクス!」
「ギガ・グラビム!」
「ファイヤーボール!」
「ショック!」
「プロキオン!」
「ミストルテイン!」
「ダームス!」
「ジェット!」
「プロミネンス!」
「テティス!」
「ウプシロン!」
「そして最後にこのわたし……カルバトロ!」
ドドドドドドドドドドドカ――――ン!
視界におさまりきらないほどの大爆発が起きた。その上で、かろうじて小さなダメージ(他の巨人に比べればだ。体はもうボロボロだ)ですんだザーロックはすばやく呪文を唱えて消えてしまった。
「大丈夫だったか、ソレイユたち?」
「ああ……ちょっとオレは疲れたけど、他のみんなは何もしてないよ」
「そうかそうか。じゃあ、邸宅に戻ろうか」
オレたちは灰になった怪物どもを無視して、歩きだした。




