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18、魔法の聖地(1)

「ソラ」

「うん?」

「オレ、風がこんなに快いものだったなんて、考えもしなかったよ」

「そうね」


 オレたちは今、ヘーレゴニーで一番広い草原、トムスク大草原を疾走している。五時間ほどで砂漠を抜けたオレたちはそこにあった関所で休む事になった。バイクを見た兵士が「暴走族だ、暴走族だ! 関所を守ってみせる!」と果敢に剣を構えてしまったが、マーナリンの市長からもらった通行許可証を見せて兵士を落ち着かせた。そして軽い昼食をとって東に走り始めたんだ。


「砂漠だとしょっちゅう口に砂が入ってたのを考えると、ここは天国だな」

「本当ですよ。花の香りもするし」


 ダイスは鼻をくんくんさせて言った。遠くではオーガ二匹とホビットが仲良くじゃれ合って……オーガだと?


「みんな、あれを見るんだ!」


 他の三人は状況を察知して、進路を変える。オレたちはオーガにバイクで突撃するつもりだ。でもホビットに当たったら終わりだからあまりスピードは上げてない。


「そこのホビット! あんたが死ぬか、オーガが死ぬか、どっちも死ぬかはあんたの行動しだいだ!」


 ホビットはうなずき、逃げるふりをしながらオーガたちとの距離をとった。そこへバイク三台が魔物の肉をひきちぎる。オレが一体、ダイスとソラで一体倒し(サリィはエルフだから、なぜオーガを殺さなかったのかだいたい分かるだろ)、バイクを停車させてホビットに事情をきく。


「いやー、助かりました。わたしがちょっと気をぬいて歩いてたら、近くの草むらからオーガが襲ってきたのだよ。今日は久しぶりに肉を味わえるってわけだ」

「ホビットといえば、普通四、五人で行動するんじゃないか」

「わたしにも仲間はいたぞ。ビーダとアイヌシャ、それにロバースだな。けどマーナリンで別れたんだ。わたしはヴォストークへ帰ろうとしていたのだ」

「私たちの進路もヴォストークよ。一人じゃ危険だから、いっしょに行かない?」


 ホビットはしばらく考えていたが、周りを見て言った。


「そのほうがいいですな。この草原は、魔物が多いから」


 だがまた問題がおきた。ホビットを誰のバイクに乗せるのか、という議題で討論するハメになった。仕方なく(本当はみんなにおどされて)オレが乗せる事になった。


「お前、身長のわりには重いな」

「いや、これでもわたしは軽いほうですぞ。きみぐらいの体重をもつ巨体も中にはいるから。さあ、ヴォストークは目前だ。東へ向けて進め進め!」

「うわあ! バイクを勝手にいじるな! 走ってるときに放り出すからな!」


 まあこんな調子でバイクを再発進させた。だがこのホビット、おしゃべりで本当に運転の気がちるんだ。


「きみの名前は」

「ソレイユ・ネバルだ」

「ほおっ、いい名じゃないか。父がつけてくれたのかい?」

「いや、親父じゃなくてお袋だよ。お袋は体が弱くて、オレを生んだときに死んでしまったんだ。死ぬ直前にオレをソレイユと呼んでたらしくて、それから親父もオレをソレイユと言い続けてるよ」

「なんと不幸な。ヴォストークでなら、体を強くじょうぶにする魔法の薬など腐るほどあったのに。故郷はどこなんだ?」

「ヘーレゴニーの西にある、ウルベーン領地だ。北にファーザン・ドウアーの山がある」

「ああ、そこならわたしも行った覚えがあるぞ。あまり魔法は発達していないところだった」

「じゃあ、今行くヴォストークはどうなんだ?」

「世界的に有名な魔法の聖地、ヴォストーク領地だ。わたしも少しだけなら呪文を使えるぞ」

「えっ、ホビットが?」

「ソレイユ、前、前!」

「わあー!」


 キキーッ。オレはブレーキを踏み、かろうじて歩いてた女性をひかずに済んだ。急いで謝りに行く。


「すみません。このくそホビットのせいで運転に集中できなくて」

「……危ないでしょ、クズ!」


 バシーン。ううっ、またビンタを……。ソラをはじめとするみんなが笑っている。ホビットはバイクの上で大笑いしていたが、バランスを失って落ちた。それでも地面を転がって笑っている。


「ははは! 女のあつかいには気をつけんとな」

「これで少しはこりたでしょ。オーホッホ」


 あまりの痛さに(体の痛みと心の痛みだ)しゃがんでいたが、オレはゆっくり立ち上がる。そして無言でバイクに乗った。仲間も笑いをこらえながらそれぞれのバイクのエンジンをつける。ゆううつな気分の中、ホビットを乗せて走らせた。ふふふ。世の中で最も強い攻撃を思い知れ!


「うーっひゃっひゃっ。うひゃひゃ。くすぐった……ひゃーほう」




「ここがヴォストーク領地ですね」


 ふむ。言われなくても、横に大きい字で『ようこそ、ヴォストーク領地へ』って書いてあるのに。ダイスに話しかけようとしたが、やめた。めんどくさいから。


「実はこの看板、わたしが作ったのだよ。どうだ、ホビットにしては上手い字だろう?」


挿絵(By みてみん)


「じゃあ、他のホビットはもっと下手なんですか?」

「ああ。とてもじゃないが、読めないなあれは」


 いや、あんたのも読むのに苦労するぞ。でも、勝手に看板を作ってもいいのか?


「あのさ、この領地には法律が無いのか?」

「えっ?」

「あんた、勝手にこれをたてたじゃないか」


 するとホビットはオレの肩をポンポンと叩いた。


「ふっ。まだまだ甘いな、少年よ。たしかに看板は領主以外たてる事ができない」


 ま、まさか。うそだろ、こんなの。ソラの顔は土気色になっているし、ダイスはつばをのみこんだ。しばらく沈黙が続いたが、ついにサリィが重い口を開けた。


「あなたが領主ですね」


 ホビットはうなずく。


「そうだ。わたしこそ六十三代目領主、ドルット・ヴォストークだ。驚いたか? がはは」


 ホ、ホビットが領主だって? ドワーフとオークが仲良くなった、という話よりもびっくりするぞ。


 あっ、そういえばもともとはここはホビットだけが住んでた町だっけ。聞いたところによると、およそ二百年前あたりから、人間がその町に入ってきたそうだ。その後は大規模な改革が行われて、完全に人間の色に染まり、ホビットはしだいに追い出されていった。


 その町はハイザックから近いというのもあり、昔からいろんな物や魔法、人などが集まっていたが、住んでいたホビットは受け入れなかった。しかし人間がその町を支配すると、町の様子はありえないほど変わったらしい。中でも魔法の発達には誰もが目を丸くするほど成長した。


 そんな時、帝王の黒い手がこの町にメスを入れた。必死に帝王軍と戦ったが、住民の四分の三が死んだ。この町も終わりか……とあきらめかけていた次の瞬間だ。


 なんと帝王軍の兵士たちが次々に消えていったのだ。そこに立っていたのは、背中に翼が生えた人だったといわれているらしい。でもそいつはすぐに去っていった。


 でもそいつは去る前に死体をすべて焼き払い、破壊された建物を元どおりにした。最後に言葉を残して。


「ホビットを追い出したから、こうなってしまったのだ。そなたたちが生きるために、ホビットは必要なのだ。彼らが戻ってきたら、ホビットを領主にして共に働くがいい」


 それから、近くの洞窟にひっそりと暮らしていたホビットを呼び戻し、また平和な町をとりもどした。


 ふうー。ソロイから聞いた昔話だが、まさかここがそうだったとは。あれ? みんながいない。


「おーい。早くしないとおいてくぞー」


 こ、このくそホビット! オレがぼーっとしてる間にドルットはずいぶん遠くへ行ってしまったらしい。大きな建物の前にいるみたいだが、あれは……領主の邸宅か?

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