1、青二才戦士の決意
「そして、ファーザン・ドウアーの山についたネバル家の子孫は、ぶじに山をくだって、後世にこの英雄伝説[第一章で語られた物語]を話したんだ」
「その話は、いくらなんでも信じられないな。今までに『千匹のオークと眼球モンスター』とか『青いドラゴンの前足を防いだ男・ミツバチモンスター』とか、いろんな話を聞いてきたけど、その話はいくら自分の子孫[正しくは祖先]だからって、信じるのは難しいな、親父」
すると親父は、手に持ったコーヒーをいじりながら話す。
「まったく、けしからん息子だな。年配の言葉は素直に受け入れたほうが、身のためだぞ」
「どういう意味だ?」
「お前がその話を信じることで、剣法を始める気になるだろう」
代々ネバル家では、十七歳になると、パーシュダル流剣法術を学ぶことになっている。なぜパーシュダル流というのかは、初代伯爵[?]であったチーフ・ネバルが、ハイザック国の大英雄、サンド・パーシュダルから学んだ剣法だということが元の由来だからだ。しかしそのチーフ・ネバルが「ネバル家はドラゴンに呪われている」といううわさを広めた原因なのだ。
チーフ・ネバルは子供を授かったあと、年末に首都に行くことになる。しかし、その途中で、レッドドラゴンに殺されたのだ。そして代々このような事件が起こるようになったのだ[つまり、チーフ・ネバル以降、ネバル家の者たちは全員、ドラゴンに殺される運命を辿ってきたのだ、ということ]。
オレはそんな事を考えながら言う。
「そうだな。誕生日が過ぎてもう二ヶ月になるんだ。もうとっくに剣をにぎる覚悟はできてるよ」
「よし。決まりだ。じゃあ、明日から早速剣法を学ぶことになるが、それでいいな? ソレイユ?」
「分かったよ。ただし、今日は自由に遊ばせてくれよ」
「うむ。だが、こちらからも条件を出すぞ?」
「その条件って何だ?」
「明日になって、もし剣法をさぼったら、この領地をパンツ姿で、『私は天才に値するバカです』って言わせながら三歩進んで二歩下がるを実現させてやるからな」
「分かったよ。交換条件でいいな?」
「よしっ。交渉成立。今日は一日中遊んでこい」
「やっほーいっ!」
オレは勢いよく外へ出た。なんと嬉しいことか。思わずふらふらと踊りだしたくなった。明日から本格的にネバル家を継ぐ準備を整えるってわけだ。だから今日は、思いっきり話し、遊び、笑ってやる! オレは嬉しすぎて、涙がでそうになった。
しかし、うかうかしすぎてはいけないな。さっきの親父との会話で剣をにぎる覚悟はできている、と調子のいい言葉を言ってしまったが、実はオレ、とても不安なんだ。剣をにぎったら、オレという存在が消えてしまうという恐怖感があるんだ。そして、オレはふと、ソロイの家に行ってみようか、と考えた。ソロイなら警備兵だから剣の扱いに関しては最も信頼できる男だからな。オレは体の向きを変え、ソロイの家へと進んだ。
ソロイの家は、にぎやかな領地の中心部とは少し離れたところにある。しかし、離れているといっても、一〇〇メートルくらいしか距離がないから、よくソロイとオレは中心部であきるほど語り合ってきた。
そんな事を考えていたら、ソロイの家に着いた。オレは中にはいって言う。
「おーい。ソロイ・グラブドはいますかー」
すると奥から誰かが走ってきた。家の中がかなり暗かったから、顔がよく分からなかったが、近くで見てみると、見覚えのある顔だった。
「ソロイ!」
「おや、ソレイユじゃないか。何だ、またおごってもらおうかと考えているんじゃないか?」
オレはきりりとした顔で言う。
「たしかに、それもあるんだけど、明日から親父に剣術を教えてもらうんだ。だから、剣を持つうえでの心の置き方をあんたから学ばせてもらいたいんだ」
「ほおー、そうなのか。それじゃあ、近くの居酒屋で食い物を前にじっくり聞かせてやるからな」
「うん。じゃあ、近くといったら、やっぱり中心部の超有名な居酒屋、『ドラゴンの口笛』で決まりか?」
「賛成だ。じゃあ、早速行くとするか!」
「ここの領地の中心部に行くたびに、一段とにぎやかになっていくような気がするな」[とソロイは言った。それにソレイユは答える。]
「ごもっともだ。さーて、『ドラゴンの口笛』は……あった、ここだ」
「待て、ソレイユ。あっちの方から何か来る」
オレはぞくっとした。まさか!?
本当だ。東の方から大きな足踏みの音が聞こえる。やがてその姿が分かった。オーガだ。
ソロイとオレは東へ走った。ソロイは俺よりも速いスピードで走り、その勢いでオーガの腹へ[剣を]つきさした!
「グワァァァ!」
しかしオーガは剣を手でぬくと、剣をどこかへ投げてしまった。ソロイはにやりと笑うと、代わりの剣をぬき、みがまえた。
ソロイとオーガのにらみあいが続く。オレは、近くにある石を投げてみようか、と考えた。このままじゃ、じれったいだろ。そこで石ころを四つほど手でつかみ、オーガに向かって投げつけた。
ヒューン。石ころは正確にオーガの腹に命中した。さっきソロイが剣をつきさした傷[のある箇所]だ。
「グワァァオォォォ!」
オーガは痛みに少しふらついた。そして、ソロイはこの時をのがさなかった。ソロイは前に走り、頭めがけて剣をふりおろす。それに負けじとオーガは腕で剣をかわした。そのかわりに防いだ方の腕が切れて使えなくなったが。
ソロイは続いて足を切る。オーガは今度はよけられず、おぞましい音とともに切れて、ひざをついてしまった。そこへソロイの剣が頭にとびこんだ。オーガは叫ぶ。
「ガァァァ!」
そして前に倒れた。ソロイは傷一つおわずに勝ったのだ。ソロイは言う。
「剣を持ったら最後、死ぬまで戦いというくさりにしばられたままなんだ。ソレイユ、お前にはその覚悟があるのか?」
オレは決意をせまられた。オレは答えられなかった。
ここ一帯に来ていた村人は、この戦いを見ていて、黙って立ちつくしていた。それは、オレも同じだ。
ソロイはにやっと笑みを浮かべると、「さっさと行くぞ、ソレイユ」という言葉とともに、去ってしまった。オレはただその後について行くしかなかった。




