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16、悲哀(1)

「さあ、ついに完成しましたぞ」


 マーナリンの市長は冷たくも温かい声で言った。オレたち四人は、弱々しい目で完成したソロイの墓を見る。


 石碑には、こう書いてある。



 命を懸けて仲間を守った勇敢な戦士

 ソロイ・グラブド ここに眠る



「これならソロイも居心地良く休めるな」

「本当にありがとうございます、市長殿」


 サリィのお礼に、市長はうつむいた。


「できれば、もっと豪華に作ってあげたかったんだがの。君たちが急いでいると聞いたもんだから、手早く作業を進めたのだ」

「充分ですよ、これで」

「いやいや。マーナリンを救ってくださった感謝の気もちとしては、あまりにも小さい墓でありまする。ですが、どのようにしてそのファントムとかいう男をやっつけたのですかな?」


 それにソラは落ち着いた口調で答える。


「運命のいたずらです」


 市長は首をかしげたが、それ以上しつこくきいてこなかった。


「分かりましたぞ。きっと、世の中で公表してはならない事柄なのですな。それならば、あえて知りたいとは思いませんぞ」


 オレたちは、都市の中央にそびえ建つ城塞の中庭にいる。市長にさっきの戦いを報告すると、食事を準備させ、死んだソロイのために墓まで手配してくれたんだ。城にいたハイプリーストに彼の肉体をゆだね、三十分くらいの祈祷をし、棺に入れて埋められた。あ、もちろん埋められる前に彼のおびただしい傷は治してもらったんだ。


 市長がしんちょうに話をする。


「私は、城で君たちをもてなすぐらいしかできないですぞ。さらに恩返しをしたいのだが、あいにくハイザックとの貿易で忙しいのです」

「それでは、少し都市を歩き回ってからまた城におじゃまします」

「いつでも用意はできていますぞ」


 オレは城で休みたかったが、ある人物に会うために行くハメになった。


「ドル・スペラー老人だな?」

「そうよ。助けてくれたんだから、会うべきでしょう」

「あーっ、まだファントムとの戦闘の疲れが残ってるぜ」


 オレがぶつぶつ言っていると、ダイスが話しかけてきた。


「あの光景は、いつ思い出しても興奮しますよね」

「死ぬまで忘れないだろうな。あの最強の魔法発動の瞬間は」


 そうだ、あれには本当に驚いた。




「さあ、ファントム、出てきなさい!」


 ソラのとげとげしい声が、今いる空間全体に響いた。いくらもたたないうちに、前方で黒い煙が噴き出た。ファントムだ。


「前の戦いの疲労がずいぶんたまっていますね。それじゃあ、私に[(正しくはあなたたちに)]勝ち目は無いですよ」


 サリィがソラにこっそり話す。


「ファントムは、私たちに秘策があるのを知らないようですね」

「あいつは、完全にうぬぼれてるわ。そこを、一気に叩くわよ」


 サリィは不安そうに言う。


「ファントムがうぬぼれているのは、自分に相当な実力があると確信しているからです。むやみに呪文を唱えてもよけられる可能性があります」

「じゃあ、どうする?」


 ソラがたずねると、暗い顔で答える。


「私が使える魔法の中で最も強力なものを唱えます。数秒程度ですが、相手を動けなくできると思います」

「どうして、そんなに暗い表情をしてるんですか?」


 会話にダイスが入ってくる。サリィは顔色を変えずに言う。


「魔法は、唱える時間と呪文の強さが比例しています。この呪文の場合は、三十秒くらいかかります」

「てことは、その三十秒間サリィさんを守らなくちゃいけないんですね。僕ら三人で」


 状況は絶望的ってわけだな。少し離れたところでは、ファントムがあくびをしている。


「無駄な作戦会議は終わりましたか? そろそろ攻撃をしかけますよ」


 オレたちはびくっと反応する。サリィが呪文を唱え始めると、彼女をかこむように位置についた。


「ギガフレイヤソード!」


 ファントムの手が光り出す。やがてそれは、十メートルはある巨大な剣になった。普通の剣と異なり、鋼ではなく光線のようなものが形を変えて剣になった感じだ。ファントムはそれをオレたちの頭上へ振り下ろした。


「よし、死んでみよう! みんなは別の場所へ!」


 オレは剣を上段防御の構えにした。スパイであったザーロックからもらったライジングソード。今回も助けてくれよ!


「くっ! なんて重さだ」


 ファントムの剣がオレにのしかかる。仲間たちはその間に逃げる。どうやって、こいつを始末しようか。渾身の力をこめて、オレからの狙いを外すか? だがやつは、オレだけを攻撃するほどバカじゃなかった。


 ファントムは剣を持ち上げて、仲間のいる地点に斜めに振り下ろす。


「うおおっ! 危ない!」


 全力で走り、ぎりぎり防ぐことができた。まだ、十秒ほどしかたっていない。オレの体力は、すでに限界だ。受け取めている腕も、プルプル震え始めた。


 やつもそれに気づき、上に持ち上げては振り下ろすの動作を何回も行っている。その度に体力は奪われていく。


「も、もう駄目だ。みんな、ごめん……」


 オレはバタンと倒れてしまった。ファントムはにやりと笑い、剣を振り下ろす。その時だ。


「ガルメトロ・グラビム・ボールゾーン!」

「お、おい。あれは一体……?」


 オレが言うと、魔法を使った疲れでぐったりしたサリィが答える。


「あれは……球です」


 オレとしては、その球の効果が知りたかったんだが。ファントムを見ると、彼の顔は白くなっていた。


 サリィの証言通り、ファントムのちょうど上にあるのは球だ。大きい球体の中に小さくて黒い球が入っている。巨大な剣は、そこに吸いこまれてしまった。ファントムも吸いこまれないように、必死にふんばっている。絶好のチャンスじゃないか。ソラがあの呪文を使おうとした時、サリィが止めた。


「今出せば、その魔法もあの球の餌食になります。ファントムが反撃呪文を使用したすきをついてください」

「分かったわ」


 サリィの予想が的中し、苦しそうな声でファントムは言う。


「アンチマジック!」

「今だ!」

「ラギージア・ゴア・ドラクス!」


 ドドドドド!


 ファントムが黒こげになるのと、物を引き寄せる球が消えたのは同時だった。


 やつはかろうじて立っているが、腕は四本とも脱力し、ダラーンとたれている。シュー、と煙のたつ音が聞こえた。


 オレは見た。ファントムの体からまばゆい光がはなたれたのを。ダイスは目をぱちぱちさせているし、魔法を使ったソラ本人も顔をしかめている。サリィでさえその光景に目を奪われているんだ。オレの表情は、どうなっているだろうか。


 とりあえず立ち上がり、やつの方に歩く。とどめをさすためだ。


「ちょ、ちょっと、ソレイユ?」


 もう答える元気もない。不意に怒りがわきあがった。ソロイが死んだのは、こいつのせいだ!


「うわああーっ! ソロイのかたきー!」


 疲れがふっとび、走り出す。剣を水平に構えて突進する。


 そして、ファントムの体を貫く。


「ぐおおおお!」


 オレは意識を失った。




「で、そのあとはどうなったんだ?」


 オレは期待に胸をふくらませてダイスに聞く。彼が口を開こうとした瞬間、ソラが先に答えた。


「すごかったのよ。ファントムが悲鳴をあげると、肉がとけて骨になったの。で、崩れてばらばらになったのよ。そしたら、私たちはいつのまにか地上に戻っていたわ。地下へ行く階段は無くなっていたのよ、何故か」

「ふむ。じゃあ、あの空間の事とか、ファントムと『双子』を手下にした人物については謎のままだな」

「そうだわね」

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