14、死闘(2)
「大丈夫か、ソラ! サリィ! ダイス!」
何故かは分からないが、回復呪文は使えない。そこで、ゆさぶることしかできなかった。
最初に起きたのは、ダイスだった。
「ん……。ソレイユさん、あいつを倒したんですか?」
「ああ」
「でも、あと一人残ってます。僕がみんなを起こしますから、ソロイさんを助けに行って下さい」
「そうだった」
急いで助けに向かう。二人は剣を交わらせたまま、静止している。敵の剣士はオレに気づくと、ソロイの剣を下にたたきつけて、後ろにジャンプした。
「ソロイ、オレも戦うぜっ!」
「よし。お前は頭を狙え」
ESBで瞬時に切りつける。だが、やつは軽くよけ、回転切りを使ってきた。オレはギリギリのところでそれをかわした。ソロイがやつの背後で攻撃する。
「くらえっ」
「はあっ」
オレとソロイの連携技だ。敵がソロイに目を向けている間にオレは体勢を整えて、ふりおろす。つまり、前後に一撃をくらわせる技だ。
しかし、ライジングソードは変な形の剣で、ロングソードはツメで防いできやがった。どうしたことか、両手のOSGでも、全く動かない。やつは片手で俺の剣を止めている!
「まさか……ありえない!」
すると、やつへ矢がとんできた。ダイスだ! どうやら、ソラとサリィも意識をとりもどしたようだ。ソラは槍を構えてこっちに突進してくるし、サリィは静かに呪文を唱えている。
「ちっ。矢が邪魔だ」
そう言うと、とんできた矢を剣で切り、横からのライジングソードをツメで受け止め、ソロイの上段切りを足で受け流した。
すごいテクニックだ。一度に三方向からの攻撃だったのに、やつは傷一つ負う事もなく防いだ。この緊迫した状態でなかったら、武器を放り投げて拍手していたところだ。今は拍手の代わりに雷をおみまいだ。
「エレキショック!」
「うわっとと。危ないじゃないか、ソレイユ!」
狙いがそれて、あやうくソロイに当たりそうになった。電撃が双子とソロイに触れる直前、やつは剣を振りかざした。なぜか分からないが、魔法がその剣に吸収されてしまった。
「な、なんだ、その剣は?」
すると双子は鼻をふんっと鳴らした。
「それに答える前に、まずこの空間については知りたくないか?」
「教えてくれるのか」
「ああ。だから戦いの手を止めて、あっちのエルフの呪文を止めてくれないか」
「サリィ、聞こえてだろ」
「ええ」
オレらとサリィ、ダイスとの距離はけっこう離れているが、エルフなら聞き取れるはずだ。遠くでよく見えないが、彼女は光った手をおろし、ダイスも矢をはなたなくなった。ソラはいつのまにかオレの近くにきていた。
「ソレイユ、もう戦いは終わったの?」
「いいや、少し休むだけさ」
「何で?」
「そこの男がここの概要を話すって」
「いいかげん、おしゃべりをやめてくれないか」
男がいらいらしながら言った。オレとソラはびくっとして話をやめた。ソロイはあきれたようにため息をついた。
「で、説明してくれよ。ふざけた空間について」
「ふざけた空間などではない。神聖な場所なのだ。あの方が力を隠せるようにと手配してくれたんだ」
「あの方って、ファントムか?」
「違う。もっと偉大で、凶悪なお方だ。あえて言うならば、このヘーレゴニーを支配する帝王よりも強いと思うぞ」
「そんなやつが、まだいたとは」
「話がそれたな。とりあえずそのお方は体力を半分以上削って、ここマーナリンの地下に現実とかけ離れた異空間を作ったんだ」
「理由は」
「それは私も知らない。ファントム様なら知っているかも」
するといきなりソロイは剣をそいつに向けた。
「それで説明は済んだか?」
男は首を縦に振った。
「ああ」
「死ねっ!」
不意打ちで突いたソロイの剣は、正確に男の腹をひき裂いた。
「ぐはっ」
男は血を吐いて倒れた。ソラはオレに寄りそって泣いてるし、サリィとダイスもそわそわしている。オレは……。
ん? ソロイの様子がおかしい。足はふらついて、背中からは剣がつき出ている。という事は? その瞬間、オレは固まってしまった。
男が立ち上がった!
「ついに……この私の封印を解いてくれたのだな」
男の体は黒く変色している。剣をソロイの腹から抜きとった。ソロイはうめき声をあげながら倒れた。
「ソ、ソロイ!」
「無駄だ。こいつはもう助からん」
急に男の体から光が発した。オレはそのスキに、ソロイを運ぶ。いつのまにか、サリィとダイスも来ていたようだ。そこに寝かしておき、ソラにたずねる。
「回復する魔法はないのか」
「ない! 魔法の紙に回復呪文は皆無よ!」
「ソロイ、ソロイ!」
オレは助けを求めるような目でサリィを見る。彼女は首を横に振った。
「ちくしょう! どうすりゃいいんだ!」
「オレは……まだ生きてるぞ……」
「ソロイ!」
全員が見守る中、ソロイはゆっくりと体を起こした。彼は徐々に怪物になりつつある男の方を見た。
「何としても……止めなければ……」
「えっ?」
「あいつは……オレが殺す……」
剣を持って、彼はふらふらの足で立つ。今にもバタンと倒れてしまうほどのダメージだが、ソロイは倒れなかった。
「どんな姿か……楽しみだな、ソレイユ?」
オレは答えられなかった。涙があふれて、どうにもならなかったんだ。
「どうやら……あと数分が限界のようだ。絶対に……倒して、ソレイユたちを守るぞ?」
ふらつきながら前に一歩進み出た。男を見ると、巨大な姿に変わっていた。熊のようで、目は赤く光っている。どうやら怒り狂っているみたいだ。大きさは約四メートル。キバは剣先みたいに鋭く、ツメの長さは一メートルくらいある。言葉は通じそうにないな。サリィがオレにたずねてきた。
「あの、ソレイユ。人間は死んだら熊になるんですか?」
「そんなの知るか! そもそもあれは熊か?」
「いや、違うぞ、あれは」
ソロイがオレに言ってきた。男を見てみると、いつのまにか首がにゅっと長くなっていた。しばらくたつと、両手や両足やしっぽもありえないほど伸びていた。
「気持ち悪いな、ダイス」
「同感です。あれはとにかく熊じゃないですね」
「改めてお聞きします。ソレイユ、人間は死んだら熊のようになったあと、首や手、足、尾が伸びるんですか?」
「……そうかも」
でたらめにうそをついて、再び男を見る。近くでダイスとソラが『熊のようで四肢が長い気味悪い生物』について、激しい討論をくりひろげているが、そろそろ襲いかかってきてもいい頃だ。顔に汗が流れる。




