13、死闘(1)
「ここを左に曲がって、そこにある階段を下りればファントムのいる場所だな?」
「そうだ。私はあの方に殺されたくないから、どこかに逃げることにした。すべてお前たちが強いせいだ」
「またどこかで会えるといいな」
「……私は二度と会いたくない」
そんな会話をして、案内してくれた男は去ってしまった。オレはアジトに圧倒されているソラにたずねる。
「びっくりだよな?」
「本当に。まさか都市の地下にこれほどのものが潜んでいたなんて。市長もきっと腰をぬかすはずだわ」
「じゃあ、ファントムを倒したあと、あのでっかい城に入るのか?」
「たぶんね。見張りの兵士が私たちの話を信じてくれたらの話だけど」
「ソレイユさんとソラさんは、まるで緊張してないみたいですね。僕なんて足がガクガクですよ」
オレとソラは、ダイスの滑稽な姿に、思わずふきだしてしまった。ダイスの腕には常に鳥肌が立っていて、足も一歩踏み出す度に転びそうになっている。深い影を宿した顔は、同情よりも笑いを誘う。
オレたちはこんな状態で階段で下の階に行った。
「今までとは全然違う感覚よ」
サリィが言う。この部屋に、完全体のファントムがいるのか。運がなければ、入った瞬間に消されるだろうな。ソラがドル老人からもらった魔法の紙、ファントムを弱らせる最高の呪文「ラギージア・ゴア・ドラクス」を使う前に、みな殺しにされる可能性だってあるんだ。
あ、違った。ファントムの目的はソラを捕らえることだったはずだ。破壊力の大きい魔法を使えば、彼女も巻き込まれてしまう。少なくとも、入ったときにはもう死んでいた、という結末にはならないはずだ。
「いいか。扉を開けるぞ」
落ち着きを失っていたソロイは、みんなの返事を待たずに明けた。中の光景を見たオレたちは、口をあんぐりと開けた。
アジトの壁などは今まですべて岩だった。だが、この場所は例外だ。一言でいえば、異世界。壁も床も天井も、すべて七色に光っている。今オレたちが立っているところはキラキラ輝くクリスタルの道だ。そしてこの空間の奥には、二人の男と性別不明(?)の生き物がいた。
二人の男はどちらもハゲで、一人は珍しい形の剣とあいている手に痛そうなツメを装着している。もう一人は重そうなローブを着ていて、片手に杖を持っている。顔はそっくりだが、一つ違う点は、剣士の目にくっきりと切られた跡があった。こいつらがドル老人の言っていた『双子』か?
そして二人の中心にいるやつ、予想ではファントムだが、分身と全く似てない。腕は四つあるし、髪は伸び放題だし、手は一つ一つ特徴がある。それぞれ巨大なツメ、クラゲのような触手の集まり、とがった槍の先端部分、ドラゴンの頭で構成されている。
「私が完全体のファントムです。そしてこの二人は『双子』だ」
「このふざけた空間は何だ?」
ファントムと『双子』がゆっくりとこっちに歩いてくる。
「答える義務はありません。私とおもしろいゲームをしましょうか」
「ゲームだと?」
「私の一番弱い攻撃にたえる事ができれば、この空間の秘密を教えます。でも、あなたのお仲間の一人でも死ねば、王女をこちらに渡してもらいますよ」
ファントムは目をつぶてぼそぼそつぶやいた。すると、唯一の足場であるクリスタルが何億という数で出現した。足元は、これでずいぶん広くなった。
「全力で防いでくださいよ。でないと、呼び出した甲斐がないですからね」
そして、ファントムの体から一気に暗黒のパワーがふき出た。くるぞ! 身構えて、オレとサリィは彼の攻撃を防ぐ魔法の準備をした。
「ゴア」
「うおおっ!」
その呪文で巨大化したドラゴンの手が襲いかかってきた。口からよだれをたらしながら、オレたちを食おうとしている。
「ギガ・グラビム!」
「キシャー」
やつの勢いは、サリィの呪文で求められなかった。ここでオレの必殺呪文を使ってやるか。
「ルーン・エクセリア・ライジング!」
初めて使用したが、消費する体力が大きいようだ。瞬間的に視界がまっ暗になり、ひざをついてしまった。倒れなかったおかげで、オレの魔法を見ることができた。
それは、雷の竜だった。
でかさなんか、ファントムの比じゃない。少なくとも、口は十二メートルはあるだろうか。目は赤黒く光り、不気味だ。いともかんたんに手を食いちぎった雷の竜は、迷いもなしにファントムに突っ込む。
「困ったドラゴンだ。『双子』、始末しろ」
「まかせてください」
一人がうつむいて呪文を唱える。だが、今さら遅いぜ! そのとき、剣を持ったやつが前に出る。
「私の力すべてを懸けてこいつを防いで見せる」
こんな言葉を吐き捨て、目を閉じた。そこだけ時間が止まり、力が一点に集中している感覚になった。雷の竜が間近まで迫ってきたタイミングで目を開き、勢いよく飛んだ!。
「受けてみよ、魂の一撃を!」
ドドーン。ありえない事態に、オレたちは慌てる。魔法で反撃するのかと、誰もが確信していた。その確信は、伝説に値する一人の剣士によって打ちくだかれた。
「し、信じられない! 剣でたたき切るとは!」
まっぷたつに切れた雷の竜は、消えてしまった。すぐに聞こえる、魔術師の声。
「アルシード」
仲間の息づかいも荒々しくなった。ファントムはニヤニヤ笑っている。
「『双子』、あとはまかせた」
そう言って、ファントムはどこかにスッと消えた。ソロイがどなりつける。
「おい、ファントムを出せ!」
「私たち兄弟を殺せば、現れると思うぞ」
「そうか」
ソロイは愛用のロングソードを振り回した。
「さあ、どっちが先にあの世行きか?」
「ふん。まあいい。やるぞ、弟よ」
「わかった」
いきなり、呪文の嵐。
「ファイヤーボール」
「何ー!」
この呪文はオレも知ってる。火の玉を一つ、相手にとばす。そう、一つだけだ。でもみんなが見ているのは、五つもの火の玉だった。おぞましい音を立てながら、こっちに落ちてくる。
「はあっ!」
少し離れた場所では、ソロイが剣でもう一人の進撃を妨げていた。なんとか戦っているが、危ない。相手の剣さばきが激しくて、思うように動けず、苦戦しているようだ。
「ハンド・イベリフォ!」
ソラが呪文を使った。いったい、何枚魔法の紙を所持しているんだ? 心の中でそう問いかけ、上を見る。
五つのうち二つが巨大な手で停止し、火の玉をにぎって鎮火させた。でも、あと三つも残ってるじゃないか。そんなことを考えていると、サリィの呪文が轟く。
「ポンプ!」
聞き慣れない魔法だ。あまり実用的なのじゃないみたいだ。サリィの手から水が噴射して、火の玉を次々と消火する。
「やった。こんなおもしろい呪文があるなんてな」
オレがはしゃぐ。ダイスは弓を魔術師に向けた。
「これでもくらえっ」
ピュッ! 矢は正確にやつにとんだ。だが瞬時に呪文を唱える。
「グランドスパーク」
ババババッ。 矢はすぐに燃え、電流が広い範囲に流れる。クリスタルをつたってこっちに来る。さすがにこれはよけきれなかった。
「ぐああああっ」
くそっ、体全体がビリビリする。けど、サリィやダイス、ソラほどダメージはくらってない。きっとライジングソードが電流を多少吸収してくれたみたいだ。訓練すれば、もっと吸収できるかも知れない。
「ファイヤーボール」
ああっ、また五つの火の玉だ。サリィとソラは気絶していて、何もできない。オレが止めてやる!
「キャッチ・マジック!」
どんな効果かわからないが、オレの両手からビリリッと電気が流れている。とりあえずバンザイしてみると、電気が拡散して、火の玉と手を電流がつないだ。
「仲間の復讐だ」
それを魔術師に投げつけた。火に加えて雷の力ももらった五つの玉は、おそろしい速さで落ちてくる。
「ぎゃーっ」
魔術師は叫びながら、死んだ。火に焼きつくされて、黒コゲになって身動き一つとらないから、俺が勝手に[そう]判断しただけだが。




