10、城塞都市マーナリン
「信じられないよ」
「どうした、ソレイユ」
「こんな砂漠に、池や木、草があるなんて」
「本当だな」
オレたちは今、オアシスという場所にいる。洞窟を出て馬に乗ろうとした時、サリィが偶然見つけたんだ。そこへ行ってみたら、楽園と数人の男たちがいたのだった。
一番近くにいた男が話しかけてきた。
「君らは冒険家さんたちかい?」
ソロイが代表して答える。
「まあ、そのようなものです」
男は首をかしげたが、あれこれ聞いてこなかった。
「なら、ここに泊まっていったほうがいいぞ。そろそろ日が暮れるからな。ここレンジャーの野営地は、ホカホカの食い物があるし、寒さなんて心配ない部屋もある。魔物もあまり近よらないし、温かい馬小屋だってちゃんと設備されているんだぞ」
その男の案内で、レンジャーの宿に宿泊する事になった。
「あなたの名前は」
「ゲンシュ・サニセリアだ。レンジャーのボスをやっている」
「なぜ砂漠にレンジャーが?」
「私たちは、オアシスの南にある都市マーナリンから命令されたんだ。ネフド砂漠は広く、迷いやすい。そこで私たちが泊まれるところを提供したり、モンスターに出会ってけがをした人たちを見てやったりするんだよ」
「そうなんですか」
「さあ、この建物が寝るための場所だ。ベットの他にも、食堂や訓練場、風呂などがある」
すると、二人の女性はまっ先に風呂へ行ってしまった。
「ゲンシュさん。オレたちの他にも、客はいるのか?」
「いや、君らだけだ」
「じゃあ、オレたちだけでこの建物を使っていいんだな?」
「もちろん。私たちレンジャーが泊まったり食べたりする建物は別のところにあるからな」
「いやっほーい!」
ソロイはうまそうな香りがする部屋に走っていってしまった。だが、オレも実は腹がペコペコなんだ。ずいぶん洞窟で歩いたし、ウシュナルクと激しい戦いをしたからな。
「オレらも食堂に行ってみるか」
「そうしましょう」
着いてみると、腹を空かしたブルドックみたいに肉に食いついた恐怖の化け物がいた。
「すっごくうまいんだ、このモグラのこんがり串焼き」
「よし、オレも。おーい、コック! モグラのこんがり串焼きを五つ!」
「へーい、まかしときな」
十分くらいして、やっと料理が運ばれてきた。ふむ。これがモグラの肉なのか。おそるおそる食べてみる。
「うわーっ、これ、超うめえぜー!」
「だろ」
「ダイスも食ってみろよ。こんなうまいもん、他では味わえないぞ」
「じゃあ、いただきます」
パクッ。
「うわ、舌がとろけそうですよ」
「ビールも持ってきてくれ!」
「はいよ」
サリィとソラが食堂に入ってきた頃には、オレたち三人はほぼ祭りに近い状態だった。
「本当に敵は心配しなくていいんだな?」
「こっちには魔術師が六人いて、夜の間は交代しながらオアシス全体をバリアーで包んでいる。さらに私たちが見張りをしてるんだから、安心していいぞ」
「わかったよ。それにしても、すごい寒さだな」
「ああ。でも、私たちは平気だ。厚着してるし、昔からこういう仕事をやってたからな」
「じゃあな」
「仲間によろしくな」
オレはソロイに頼まれて、敵の進入にはどんな対策をたててるのか、ゲンシュに聞いてきたんだ。不安だったが、とりあえず安全だろう。オレは仲間のいる部屋に戻った。
そこでは、ダイスの元気がないみたいだった。
「ダイス。まだ両親と妹が死んだことを悲しんでるのか?」
「はい」
両親は、ウシュナルクが切りきざんで死んでしまったんだ。ダイスは思い出してしまったんだな。
「じゃあ、あの男に復讐してやろうぜ。次に会ったら、お前も全力でをはなて」
「そのためにも、まず寝て力をつけなきゃいけませんね」
「そういうことだ。まず風呂に入ろう」
ささっと体を洗い、話をしていた一時間後には全員眠っていた。
朝になった。起きてみると、別の部屋にいるはずのソラとサリィがいた。ソラがオレに一言かける。
「おはよう、ソレイユ!」
「おはよう。今日も元気そうだな」
「みんなを起こさないと。早い時間に出発しないと夕方までにマーナリンに到着しないだろうって、ゲンシュさんが言ってたじゃない」
「おお、そうだったな」
急いで二人を起こす。そして軽い朝食を済ませて、荷物をまとめた。ゲンシュが見送りに来てくれた。
「やっぱり安心しても大丈夫だっただろう?」」
「いろいろありがとうございました、ゲンシュさん」
「さあ、早く行かないと間に合わないぞ」
「バイバーイ、ゲンシュさん!」
ソラの元気な声を聞き、オレたちはマーナリンに馬を走らせる。サリィに質問してみる。
「なあ、この前みたいに呪文で馬の足を速くすれば?」
「それはダメよ。前にも話したと思うけど、私たちが魔力を使えば、相手に存在をばらす原因になってしまうわ」
「そうだよな」
ダダッ、ダダッ、ダダッ。馬のひづめの音が鳴り響く。馬も暑いのにがんばってるんだ。人間が弱音をあげてどうする!
「うりゃあーっ!」
「ここが城塞都市、マーナリンだ」
「ひゃー、中央に大きい城があるぞ」
「たしかダイスはマーナリン出身だよな」
「そうですよ」
「だったら、迷いそうだから案内してくれ」
「わかりました」
なにしろ想像を絶するにぎやかさだ。家や店も多く立ち並んでいるから、仲間とはぐれないようにしなければいけない。
一番目をひくのは都市の中心のでっかい城だ。建っている場所の面積だけでも、この都市の三分の一は占めているみたいだ。
「オレたちもあの城に入れんのか?」
「残念ながら、僕たちのような旅人は入れません」
「そうなのか……」
残念。いつか必ず入ってみよう。
「ヘイ、そこのソルジャーさんたち!」
えっ? オレたちか? 呼び止めてきたのは変な服装をしていて、顔もおもしろい男だ。鼻はまっ赤なのをつけている。
「ミーたちに勝つことができれば、賞金十万円だよ。トライしてみるかい?」
「どうする、みんな?」
そういえば、もう金にもさびしくなってきている。これはいいチャンスかも知れない。
「よし。チャレンジしてみよう」
「よーし、それじゃあ、参加する人を三人決めてね。ちなみに、魔法は禁止だよーん」
「じゃあ、私は無理ね」
「とりあえず、オレとソレイユは決まりだな。残りはソラとダイスか……どっちが行く?」
しばらく二人が話し合ったが、三分後、ソラが手を上げた。
「私が行く」
「決まり。こっちにおいで。観客もたくさんいるよ」
その男のあとについていくと、小さいがしっかりしたバトルフィールドが設置してあった。その横には、この男とそっくり同じ姿をした男が二人、立っていた。
「最初の相手はボクだよ。まずルールを説明するね。剣などで戦い、血を流して倒れちゃった方の負け。勝つためなら手段を選ばないこと、いいね? 挑戦者はボクたちに三連勝しないと賞金はナシだから、気をつけてね。さあ、ボクの相手は誰だ?」
「オレだ」
行ったのは、ソロイだ。きっと彼なら楽勝だろう。だが、ちょっと気になる言葉があった。
(勝つためなら手段を選ばないこと、いいね?)
「ソロイ、気をつけろよ」
「まかしとけ」
剣を両者とも抜いた。初めはソロイがしかける。
「おりゃあーっ!」
どんどんおしていく。だが、男も確実に防御していた。足元を切りつけると、ジャンプしてすっとかわした。
「どうした、こんなものかい?」
相手が水平に剣で切ってきた。なんとかすれすれのところでよけたが、顔にけりが入ってしまった。
「くっ!」
「ははは」
ソロイは攻撃を再開するが、全部よけるか剣で防がれてしまう。一方、男の剣さばきはかわすのがやっとだ。反撃に思うようにふみこめない。
いったい、どうして?
その瞬間、ある言葉が脳裏に浮かんだ。
(私は危険を察知する能力と、瞬間移動のできる能力を持った最強の騎士です)
(危険を察知する能力……)
そして、すべてが分かった。
「ソロイ、逃げろ! そいつらはファントムの分身どもだ!」
「よく分かりましたね」
「やっぱり、ファントムだったのか!」
「ばれちゃあ、しょうがないですね」
オレとソラのところにソロイが戻ってくる。後ろからはサリィとダイスもかけつけた。
「市民のみなさんは、逃げてください!」
ざわざわと口々に文句を言っていたが、場の空気を読んだのか分からないが、とりあえず行った。
「意外と早くマーナリンに着きましたね。これには少々私も驚きましたよ」
「オレたちに何を望む?」
「王女を渡して下さい。ただそれだけです」
オレたちはあっけにとられた。
「えっ? 宝石は必要ないのか?」
「そんなものにあの方は頼ったりしません。欲しいのは、王女だけです」
「あんたは帝王の手下じゃないのか?」
「違いますよ。今までずっとそう思っていらしたんですか?」
ま、まさかだろ。ファントムの話は続く。
「あの方は帝王なんかより強く、邪悪で、私の力を思うぞんぶん発揮させてくれるんですよ」
「そいつの名は?」
「私のアジトを見つけてごらんなさい。そして完全体の私を倒せたら教えてあげましょう」
そういうと、ファントムたちは消えてしまった。




