8、砂漠の宝石(1)
やっぱり昼の砂漠は暑い。風は冷たいが、上からの太陽光と下からの熱で死にそうだ。
「ハースト!」
呪文の力も使わないと、砂漠の洞窟まで二日ぐらいはかかる、とギリエドの市長は言っていた。この魔法は速度を十倍にするから、二日は四十八時間で……つまり、五時間も走れば洞窟に着く計算だな。
「暑い、暑い、暑い、暑い」
「そんなん言ってたって、暑さはどうしようもないぜ、ソロイ」
「そうですよ。みんながんばってますから。とくにハイブラクさんは」
「きみ、きみ。どうしてそんなにかしこまったおしゃべりをしてるの?」
「そ、それは……初めて会ったばかりだし、みんな僕よりも年上だし……」
困ったもんだ。『かしこまったおしゃべりの少年』とソラにからかわれている少年、ダイスは、背中に弓矢を装備している。顔はまだ幼く、髪はぼさぼさだ。質素な服に安物の靴。どう見ても貧乏だな。特徴があまりない、普通の十五歳だ。
「おっ。洞窟が見えてきたぞ」
ソロイが疲れきった声で言う。そういえば、足元は砂じゃなく、岩に変わってきていた。
「きっと私たちが歩いてる下まで洞窟が続いているでしょうね」
「うわっ。だとしたらすごい拡大[広大、の間違い?]な洞窟だな」
まさか地下まで続いてるとは。その奥深くに、宝石が眠ってるのか?
「さあ、ここが洞窟の入口だ」
「いよいよだぜ」
「ねえみんな、馬はどうするの?」
「つれていくしかないだろう。外にいたら、焼け死んじゃうからな」
「中に入るぞ」
急に暑さがなくなった。ここも、ファーザン・ドウアーの山みたいに、気温はそれほど暑くないし、寒くもない。
そこは、下に行く坂道があり、その途中でいくつもの道に分かれている。いったい、どこが正しい道なんだろう。
「とりあえず、まっすぐ進んでみようぜ」
「そうだな」
坂だから、下まで降りるのは簡単だ。軽快に走っていった。だが、すぐに行き止まりになった。
「じゃあ、奥から順々に入ってみませんか。僕が一度入った道を覚えて、まだ行ってない道を行けば、きっとたどり着くはずです」
「ところで、お前の家族は?」
「その時は進んだ道を覚えていなくて。適当にうろつく妹を追うのに必死でした」
「ダイスは記憶力に自信があるのね」
「はい。小さい頃からそういう異能力を持っていました」
そこでオレたちはダイスを信じて近くの道に進んでみた。だけど、どの道も同じような地形をしているから、オレはもうここがどこだか分からなくなった。
「うわっ!」
ソロイが転んだ。[彼が]つまずいたのは、なんと白骨だった。
「これ、まさかダイスの家族のじゃないか?」
「いや、違います。僕の家族はどこかの穴に落ちて、見動きがとれません。ですから、こんな場所に家族の骨があるはずがありませんよ」
だが、オレには分かる。ダイスは、明らかに動揺していた。家族がもう死んでいるかもしれないと思っているんだ。
オレは、彼に声をかけることができなかった。
オレたちは行くあてもなくうろうろしている。
ダイスが時々「この道は通りました」と言っているから、オレたちはそこをさけて進めばいいんだ。
「まるでモグラの巣だな」
ソロイのつぶやきだ。オレは質問する。
「おい、モグラって何だ」
「地中に穴をほって、そこで暮らしているモンスターだ。小さいし、おとなしいが、仲間意識が強く、同じ種族を痛めつけたり、殺したりしたら、その者に言葉で表現できないほどの仕返しをするみたいだぞ」
「でも、ここにはいないみたいだ」
「いや、どこかに隠れているだろう。この地下迷路がモグラに見つからないわけがないからな」
洞窟に入ってすでに三時間だが、まったく成果がでない。サリィがみんなを止めた。
「少し休みましょう」
「よし、そうするか」
全員座り、無言で食べ物を口に入れる。ソロイは焼き肉弁当だ。
「オレにもちょっと肉くれよ」
「じゃあ、お前のからあげと交換だ」
そう言って、強制的に焼き肉とからあげを交換しやがった。
「ずるいぞ、ソロイ! こんなちょびっとだぞ」
「しょうがねぇな」
笑いながらオレの弁当箱に入れたのは……ちくしょう、肉といっしょに入ってたたまねぎじゃないか!
「もうゆるさねぇぞ」
ソラが声をかけてきた。
「ちょっと、静かにして。サリィが、向こうから声が聞こえてきたんだって」
ダイスがおそるおそる言う。
「じ、じゃあ、僕の家族かも!」
「行ってみましょう」
急いで弁当箱を片付け、声の聞こえた方へ歩く。
「だんだん近くなってきてるわ……もうすぐよ」
「声がするんなら、生きてるって事だろ。よかったな、ダイス」
「本当によかった……」
しばらくして、オレたちにも聞こえるようになってきた。
「近い……近いぞ」
ソロイがつぶやいた瞬間、オレたちは足元の大きな穴に気づかず、落っこちてしまった。
「うわああーっ!」
ドシン! うう、どうやらケツをうったようだ。次々に仲間たちが落下してくる。
ドシン! ドーン! ドシン! ドシン!
きっと、一つだけ音の違うのはソロイが原因だろうな。
「くそっ、寿命が五年縮んだぜ」
「オレは、十年!」
くだらない冗談を言い合っていると、奥に人影が見えた。他の仲間も気づき、ダイスが悲鳴をあげた。
「父さん、母さん!」
「おお、ダイスか……」
ゆっくりと立ち上がったダイスの父は、あごで端を示した。
「あそこにある小さい骨が見えるだろう。妹は、穴から落ちたときに頭を打って死んでしまったんだ」
「そんな……」
「で、死んだ妹の肉や皮はあっちにいる変な化け物に食べられてしまったんだ」
「どんなやつですか」
「見ただけで震えてしまうような怪物だ。腕が四本あり、一本一本にノコギリやらドリルやらが付いている、変なキツネだ。二本の足で動き、しっぽはとても長く、ムチのように使ってくるようだぞ」
「わかった。オレたちがたおしてきてやるよ」
すると、ソラが耳うちする。
「ねぇ。この人たちに、私の正体とかジュエル・ハンターズの事教えても大丈夫かな」
「信用できるかどうか様子見だな、ひとまずは」
「行くぞ、みんな」
奥へ進んでいった。だぶん、そのキツネが宝石を守っているんだろうと思った。きっとみんなもそう思っているみたいだ。ソロイはダイスに話しかけている。
「ダイス、お前も行くのか?」
「もちろんです。妹の復讐です」
「死ぬかもしれないんだぞ」
「弓矢はちょっと得意なんです。敵が追いかけてきたら、自慢の速い足で逃げ切ってみせます」
「なんだ、足も速いのか」
「はい。幼いときから走るのは大好きでしたから」
「じゃあ、オレと競争してみるか?」
「いいですよ。じゃあ、父さんのいる地点で折り返し、ここに戻ってきましょう」
「わかった。おーい、ちょっと待っててくれ」
やれやれ。しかたなく待つことにした。
「ソレイユ、スタートの合図を」
「よーい、ドン」
ビューン! すごい音がして、その数秒後、ダイスがこっちに来た。全然、疲れてないようだ。
一分後、ぜいぜい息切れしながらソロイが帰ってきた。ふらふらとこっちに走ってきて、ゴールしたらバタンと倒れてしまった。
「はーっ、はーっ。速すぎる」
「あたり前だよ。この前、ESBをつけて勝負したけど、オレの完全敗北だった」
ソロイが動けなくなったから、しばらく休んでから行くということになった。
「はーっ、はーっ、はーっ」
十分後。オレたちは動き始めたのである。歩いてる間、ソロイは一度も口を開こうとはしなかった。
「何か音がするぞ」
「本当に。どうやら岩をけずってるみたいね」
やがて、そのキツネが現れた。やつはオレたちに気づかず、せっせと手のドリルで……ん? 手のドリルだと?
ダイスの親父さんが言った通り、四本も腕があった。そのうち二本が大きいドリル、もう二本がノコギリになっていた。
[キツネの]大きさは三メートルくらい。しっぽは長さが普通じゃない。ところどころに血が付着していた。
「おーい! あんたは何してるんだ!」
岩をけずる音が大きいから、オレはどなりつけるように言った。
そのキツネは仕事をやめて、こっちを向いた。
「人間とエルフ。うまそうだ」
下をペロッと出して言った。こいつ、まさかナオか? 聞いてみる必要がありそうだな。
「おい、あんたの主人は誰だ」
「オレ様の主人? そりゃ、大魔術師ハンドルートに決まってるじゃないか」
「よし。じゃあもちろん宝石を持ってるんだろ?」
「もちろん。ここにあるぜ」
そいつはしばらく自分の体を探っていた。
「あったあった」
宝石だ。目をおおいたくなるような黒い光だ。オレの持っている銀色の宝石と二つの本が光っている。共鳴しているようだ。
「それをゆずってくれないか」
「いやだ」
「なら、オレたちと戦え。殺してまで奪わないといけないんだ」
「よかろう。勝てるものなら」
そう言うと、ドリルとノコギリが回転した。あれに当たったら、即死だろうな。
「オレ様の名はゲスドラン。戦いを申し込まれたからには、こちらも全力でいかせてもらう」
ノコギリがオレに近づいてきた。剣で受け止めたが、ふきとばされてしまった。
「力の差がありすぎだ」
「くらえっ」
ダイスが矢をはなった。うまく腹に命中した。
「ハエが止まったような感じしかしないぞ」
「矢が効いてない」
ドリルが今度はサリィに迫ってきた。なんとかよけられたみたいだ。ドリルが岩にぶつかる。
「おっと、しっぽでたたいてくる」
切りつけようとするが、よけられてしまう。オレはジャンプしたりしゃがんだりしながらしっぽ攻撃に対処している。
少し離れた場所でダイスが矢をはなっているが、ちっとも痛くないようだ。しかし、やつの体には矢が何本もささっていた。
「くそ、やばい」
あ、ソロイとソラがピンチだ。ドリルやノコギリが彼らを襲っている。
「もう限界だ」
ソロイは剣で、ソラは槍で防いでいるが、もう通用しないようだ。そのとき、サリィが呪文をとなえる。
「ギガ・グラビム!」
「重力をかけるやつだな」
これでゲスドランの動きが鈍くなった。しっぽは完全に動かなくなったから、オレは助かった。
で、後ろから一本腕を切り落とした。(頭にしようとしたが、高くてとどかない)
ソロイも一本切って、ソラは槍を投げた。そしたら、相手の目に当たった。
「ぐおおー!」
ダイスもねらいをしぼり、主に顔に攻撃している。オレは呪文でダメージを与える。
「クロス・ライジング!」
直撃したが、まだ生きているようだ。
「まだまだ、物足りないぞ」
あっ。ゲスドランの腕が元どおりに再生していた。
「こいつ。再生能力があるとは!」
「はははっ。体力も回復するから、もう重力は効かないぞ」
「そう。わかったわ」
サリィはさっさと重量の力を消した。そしてまた呪文を使おうとしている。
「また魔法かっ!」
切りつけてくるが、彼女は後ろに下がってよけている。それにオレたちもゲスドランの動きをちょっと遅らせている。
「さあ、早く呪文を」
「キル!」
ゲスドランの動きが止まった。そして、肉がドロドロとけだして、骨になった。
「やっと終わったな」
「いや、まだ始まったばかりだぜ」
どこからかは分からないが、声がした。オレたちが来た方向から、誰かが歩いてきている。十人くらいの集団みたいだな。オレは息をのむ。
先頭を歩いていたのは、ウシュナルク・オロドムだったのだ。




