1、平和と安息(1)
「ずいぶんとこの町も元気になったもんだな」
オレは宿である『天使の惰眠』の窓から、外で元気よく遊ぶ子供たちを見ながらうなずく。
「ああ。この宿だってそうじゃないか。主人が襲われた時の荒れはてた食堂は、今じゃいつだってピッカピカだぜ」
オレたちは、宝石を手に入れたあと、馬を呼んで一気にふもとまでかけ下りた。ファース兄さんは俺と一緒にジェイミーに乗っている。まあ、オレも体重は軽いほうだし、兄さんも体重はザーロックぐらいだから、ちょうどナオと同じくらいの総重量になるはずだ。
だけど、オレの馬はソロイのスピードキングよりも小さいから、列の一番後ろを走った。そして、ターナグに着くと、ジェイミーはここが天国なのかとでも言いたげに、鼻をブルルンと鳴らし、さっさと馬小屋に行ってしまった。(ちなみにシュナイドは去ってしまった)
そして、平和になったこの町で、ゆっくりビールやワインを飲んでいるんだ。ザーロックが質問する。
「ソレイユ、お前はこれからどこに行くつもりだ?」
「ん? そうだな、目的は宝石探しだけど、どこにあるのか分からないから、ザーロックたちの旅路に合わせるよ」
「そうか。私たちはカータンの町に行こうと思っている。ネフド砂漠の中にある、南国の町だ。みんながよければ、いっしょに行ってほしいのだが……」
「オレとソロイは大丈夫だ。兄さんは?」
「OKだ」
「サリィはどうする? いっしょに来てくれれば、心強いんだけどな」
それに、ジュエル・ハンターズの使命もお互いしょってるんだ……と心の中でつぶやいた。サリィは、はきはきとした声で言う。
「私は、この町を出て、北のブラット・ワールドに向かわなくてはなりません」
「そんな場所に、用なんてあるのかナン?」
「実は、ブラット・ワールドのさらに北へ進むと、エルフの住む森があるの。そこで、ファーザン・ドウアーの山で見つけた宝石とジュエル・ハンターズについて報告しなければならないわ」
「ブラット・ワールドか……兄さん、そこに行ったとき、宝石が隠されていなかった?」
「いいや、そんなのなかった。でも、ちゃんと探してないかも知れないから、もしかすると見つかるかも」
「よし。オレはサリィについていくぜ。同じジュエル・ハンターズだしな。それに、仲間を放っていくわけにもいかないよ」
オレは周りを見渡す。
「みんなはどうする?」
兄さんは、弟についていってみようといって賛成し、ソロイもソレイユを信じてみるか、と賛成した。そしてザーロックとナオも、仲間のためだから仕方ない、と賛成した。
「みなさん、ありがとう。私一人のために、苦労をかけてしまってごめんなさい」
「そんな、謝らなくてもいいよ。じゃあ、明日の朝、出発でいいかな?」
みんなが賛同し、今日一日をこの町で過ごした。店にも寄り、食料品などを買い、ついでに兄さんの馬も選んだ。プライドが高そうで大きい馬だ。兄さんはその馬にスマイルダークと名づけた。もう家の規則は捨てたと思っていたが、一応守ってはいるようだ。さすがに弟の馬と同じ名前にすることはなく、名の方ではなく姓をとって、この名前になった[どうやらネバル家では、ジェイミー・スマイルダークという女性の名前から馬の名前をつけるようである]。そして明日に備え、ビールはひかえめにして早めに寝た。
「あー、久しぶりによく寝たぜ」
食堂に行くと、すでにみんな起きて、朝食を注文している。ナオはもちろんナン、カレーを選んで、ソロイは朝からビールだ。オレもかんたんな朝食のメニューを注文した。そして食べて、一時間ほど休んで、ターナグの町から出た。目的地はブラット・ワールドだ。馬はビュンビュンかけていく。ザーロックは「このスピードだと明日の夜には着くだろう」と言っていた。
「兄さん、今までにどんな冒険をしてきたんだ?」
「オレのことか」
「そうだけど」
「まあ冒険家っていっても、国を救ったとか、ドラゴンを殺したとか、そういう話はオレとは無縁だ。ただヘーレゴニー中をうろついていただけだよ」
「それにしても、剣さばきは普通じゃないだろ」
「まあな。オレはヘブロンっていう都市にも行ったことがあって、そこで修業したんだ」
「ヘブロン市は武術の都市って聞いたんだけど、本当だったんだ」
「ああ」
ついに太陽が完全に沈み、闇が辺りを包んだ。
「今日はこのくらいで休もう。野営の準備をしたいから、どこかに洞窟はないだろうか」
「あちらの方にあるわ」
この暗がりでも見えるのか。さすがはエルフだ。オレがそっちを見ても、何もないようだが、そこに馬を走らせると、適当な大きさのほら穴があった。
「私とナオが火をたくときに使う薪を魔法でとってくるから、ファースとソロイはそこの川から水を運んでくるんだ、このバケツで。サリィは辺りを見張ってて、ソレイユは食べ物の材料を出しておいてくれ」
「了解!」
ザーロックの指示で、それぞれの仕事に映った。
「やっぱりうまいな、シチューは」
「まだ春の初めだから、温かいシチューもいいもんだろ」
「ふーっ。ごちそうさま」
ソロイは作ったシチューの三分の一を食い、なおも三分の一を食ってしまった。けっこう量はあるが、彼らは十分ほどで。たいらげたこういうバカを〈達人〉と呼ぶべきだろう。
「なかなかおいしくて、よかったぜ」
「おかわりあるかナン?」
「ないに決まってるだろ!」
ナオはナンをシチューにつけて食べている。そんな組み合わせ、ありえないだろ。想像しただけで、鳥肌がたった。
突然、サリィが食べるのを止めた。
「だれかがこっちに歩いてくる」
ふうむ。エルフが言うんだったら、間違いないだろう。だが、聞こえない足音を聞こえてるフリをしなければいけなかったから、気が気じゃなかった。
しばらくすると、はっきりと足音が聞こえるようになった。自分の剣をにぎって、身構える。




