19、最凶の敵(後編)
ハドルゲドンは、怒りにまかせてこっちに飛んできた。そして、その勢いでオレに拳を振り下ろした。
「おりゃあーっ!」
オレも負けじと、両手をにぎってやつのでかいグーにダブルパンチをおみまいした。ドドーン! OSGがなかったら、オレはこの世とおさらばしていただろう。これをつけてても、死ぬほど痛い。肩の関節がハズレそうな衝撃をくらったが、それは向こうも同じだったようだ。力は互角のようだな。
「くらえっ!」
オレとハドルゲドンの奮闘のスキに、やつの背中を兄さんが切りつけた。だが、なぜか兄さんの方がふっとばされた。やつの背中は無傷だ。
「くそっ、ドラゴンスケイルか!」
「そうだ。だから、この鋼鉄の鱗はすべての攻撃を無効化するのだ」
「カオスビーム!」
兄さんとハドルゲドンが話している時間を使って、ナオが呪文でビームを発射した。だが、それが当たっても、まったく平気そうだ。
「ムダだ。私と同じくらいのパワーを当てないと、ドラゴンスケイルは攻略できないぞ?」
同じパワーか。オレは黙ってやつの後方にむかう。そして、両方の拳を後ろにひいた。ハドルゲドンがオレの方を見て、顔を恐怖にゆがめた瞬間、ひいた拳が背中の鱗に当たり、すさまじい音を立てながら、ドラゴンスケイルは粉々にくだけちった。
「グオォオー!」
だが、皮膚までダメージを与える事はできなかったようだ。ハドルゲドンはすぐに体勢を立て直し、空へ上昇した。そして、大きな口で思いっきり息を吸いこんだ。
「火をふくつもりだ! 逃げろ!」
だが、ソロイの叫び声よりも速いブレスが、俺たちの方へとんでくる。
「もうだめだナンー」
だが、ちょうど兄さんが呪文を唱え終わった。
「シェン・ポラーレオ!」
すると、兄さんの手から変な渦ができた。炎はそれに当たると、角度がゆがみ、違う方向に行って、壁に当たった。
「兄さん……すごいや……」
オレが感嘆していると、やつは翼を広げ、上から急降下してきた。次はサリィの番だ。
「グラビム!」
何の呪文だ? すると突然やつは空中でバランスを崩し、地面に勢いよく墜落した。
「私はこの呪文でドラゴンの片翼に数十倍の重力をかけました。走っているときに片足だけ重りをつけるようなものです。そのうえすごいスピードでしたから、バランスを失うのも当然です」
ふむ、なるほど。固い岩に叩きつけられたハドルゲドンは、今も重力にてこずっているようだ。しかし、残念なことにやつの体は異常なしだった。それを見たサリィは顔をしかめ、呪文を唱え始める。
「ソレイユ。私が呪文を使ったら、ドラゴンを攻撃しに行ってください。他の者はダメージを与えられないから」
オレがおろおろしていると、兄さんが話しかけてきた。
「ソレイユ、心配するな。サリィを信じて、やつを殺して来い。きっと彼女なりの策があるんだろう」
「……分かったよ、兄さん」
「それとも、オレにOSGを渡してくれれば、お前は行かなくて済むが?」
「絶対に貨さねーぞ! どうせ、返してくれないんだから」
オレが反論すると、兄さんはけらけら笑いながら後ろに下がった。前にいるのは、オレ一人だ。サリィの声がした。
「ギガ・グラビム!」
「ギャアアアッ!」
今度は、やつの体全体に重力がかかったようだ。いいのか? 行っていいのか?
「早く行け、このうすのろ」
ザーロックの言葉で、恐れがふっと消えた。言い返してこそ、ソレイユ・ネバルだ。
「ドラゴン殺したら、お前の脳天をかち割ってやるからなー!」
「ははは! ドラゴンを殺さないと、オレを殺す資格はないぞ」
「当たり前だ! オレを誰だと思ってる!」
「ソレイユ・ネバル」
うう、負けた。ザーロックの意地悪を聞き流し、まっすぐハドルゲドンに向かって走る。だが、すぐに足を止めた。いや、無意識に止まってしまったんだ。後ろをふりかえると、仲間たちもびっくりしている。
やつは、立ち上がっていたのだ。
「この程度の……呪文で……私を……封じることはできぬ」
そしてドラゴンは静かに呪文を唱えた。
「アンチマジック」
すると、やつを苦しめていた重力が消えた。兄さんがくやしそうに言う。
「やつめ、こんな高度な呪文が使えるとは!」
ハドルゲドンはその言葉は無視した。まるで虫ケラを見るような目でオレを見おろしている。
「まずい……ソレイユが危ない!」
仲間が走ってくるが、もうおそい。やつは息を吸った。火をふこうとしているのか。さっきまでの自信は何だったんだ? 今は足がガクガクふるえて動けないじゃないか。オレはその場にへなへなと座ってしまった。ドラゴンはにやりと笑い、炎をとばした。火がこっちに迫ってくる。ファイアーボールのようなものが、無慈悲に焼きつくそうとしている。オレの人生、ここで終わりか。死を待った次の瞬間だ。
当たる寸前、何かにはじきかえされて消えてしまった。
よく見ると、オレの周りをバリアーが包んでいる。何が何だかさっぱり分からない。仲間たちが守ってないのは確かだ。あんな短い時間で呪文を唱え終われるはずがないんだ。だとしたら、いったい?
そのとき、この部屋の人口で声がした。
「やれやれ。まにあってよかったよ」
そこに立っていたのは……サリィを救出する前に出会った、シュナイドとかいう男だったのだ。




