2、死にゆく仲間
「おいっ、さっさと思い出そうぜ。くそったれ。なんでこういう時に合い言葉を忘れてしまうんだよ」
「みんな、落ち着いて考えるんだ。そうすれば、おのずと答えが浮かんでくるはずだ」
「セネリックがいれば、合い言葉なんてものに立ち止まる必要がなかったのにな」
「いない人のことを言ってもしかたないわ。セネリックが言っていた合い言葉を思い出して」
ちくしょう、よりによって合い言葉を知っている人間が死んでしまうなんて。オレたちはめんどくさくなって、[合い言葉を]ちゃんと覚えようとしなかった。とくにオレときたら、言葉を聞いただけで後頭部が痛くなるんだ。ちょうどそんな事を考えていた時、門がしゃべりだした。
「合い言葉を忘れてしまったか。しょうもない虫ケラが。百円ショップで売っていそうな鳥頭しかもつことができぬ、おろかな旅人どもよ」
ここまで言われたら、言い返すしかなくなるだろう。
「なんだと。この……ムグッ、ムググッ」
なぜだかしらないが、サムがオレの悪口を両手で制してしまった(つまり、口をふさいだということだ)。サムが早口で言う。
「お前は口を閉じているんだ。わたしにいい考えがある」
そう言うないなや、門に向かって手を広げながら語りかけるようにしゃべった。
「たしかに、私どもはおろかで、ちっぽけな存在です。こんな私に、賢者であるあなた様に助言をもらいたいかと」
「なに、助言を? わっはっはっはっはっ!」
門は狂ったように笑うと、こう言った。
「ようし、なかなか気に入った。それなら助言をしよう。クイズ式でいくぞ。その答えが、きっとお前の求めている助言だろう」
「ありがとうございます」
サムは、うやうやしく頭を下げた。よかった、サムの口が達者で本当によかった。そして門がしゃべりだす。
「まず一つ目の質問だ。こじきがもっていて、金持ちがうらやましがり、死人が食べるものは何だ?」
オレたちはじっくりと考えこんだ。こじきがもっている? 金持ちがうらやましがる? これが一番ひっかかる。金持ちに不可能はないはずだ。金で解決できるから。そして、死人が食べるもの。それは……オレの口が動く。
「答えは、無だ」
すると、門が聞き返してきた。
「なぜ、その答えにいきとどいたのか、教えてくれぬか」
「なぜなら、金持ちは、こじきが何ももたないことをうらやましがる。死人は、答えるまでもない。何も食べないから、無を食すということだ」
「正解。みごとだ。だがもう一つの質問がある。答えてみよ。ユピネーとヘルカネーの娘であり、それの前では、だれもが同じところにたどりつく。それはなんだ?」
この問いにはアーリアが答えた。
「それは、時間です。ユピネーとヘルカネーは共存するために時間を作りました。なぜなら、時間がないと、万物が流転しないから。そして、時間の前では、誰もが無力。〈約束されし憩いの場〉に、死ぬまで一生しばられたままだから」
「正解。さすがにここまできただけのことはある。クイズはここまで。あとは自分らで考えろ」
そのとき、今まで口を閉じていたサムが言った。
「合い言葉は、ユピネーはヘルカネーがいないと存在せず、ヘルカネーはユピネーがいないと存在しない、だ。セネリックがいつも口ぐせで言ってたっけ。やっと思いだしたよ」
門がゆっくりと開いた。
「まったく。門を開けるのに思いのほか時間がかかってしまったな。帝王は、どんどん力をつけているから、すぐに倒さなきゃいけないのに」[帝王の存在は、この世界にとっては魔王のようなものなのだろう]
「しょうがないさ。だが、門を開けたからには、帝王はわたしたちの存在に気付いたはずだ。手下の怪物どもがどんどんおしよせてくるだろうな」
「そうですね。ここからは気をひきしめていかないといけません。私もすぐに魔法が使えるように準備しておきましょう」
すぐにアーリアは精神を集中し始めた。魔法を使うには、こういうふうにして始動語を唱えなければならない。唱え終わって初めて、呪文が使えるようになるんだ。レベルの高い魔法は、始動語もだらだらと長ったらしいから、それだけ相手にスキを見せることになるんだ。オレたちは敵にみつからないようにしんちょうに歩き続ける。
「おかしいな。私たちのしんにゅうを帝王が許すはずがないのに。妙に静かすぎるな」
「それは私のせいだ。帝王の部隊でもなかなかいない精鋭部隊だからな。お前らの始末は私一人で充分だと帝王様はお考えだ」
今しゃべったのは、アーリアでもサムでもオレでもない。オレらの前に立っている人間の形をしたガイコツがしゃべったんだ。
オレたちはじりじりとあとずさった。ガイコツがしゃべりだす。
「私の名はポロミウスだ。帝王様が全力を注いで作りだした兵隊だ。精鋭部隊は私の他にも数匹いるが、今回は私が始末をまかされたんだ」
ちくしょう。そのポロミウスとかいう骨は、全身で三メートルはありそうな巨体だ。手には杖を持っていて、それにかかれている紋章はものすごい光をはなっている。ポロミウスが言う。
「言葉は必要ない。殺されないようにせいぜいあがくんだな。ウム、言葉はいらない。ここまできた実力、見せてもらおうじゃないか」
突然、杖が太陽のように光りだした。来るぞ! オレたちは身がまえた。
「エアロカッター!」
ポロミウスが杖をふると、風でできた刃がおそろしい速度でオレたちの方に向かってきた。ちくちょう! オレを正確にねらってとんできやがった! オレは横に転がってそれをよけた。しかし、刃は一八〇度向きを変えて、またオレにとんできた。ちくしょう、スピードが速すぎるからよけられない!
「マジックバリア―!」
アーリアが呪文を唱え終わると、刃とオレをはさんで盾のような膜ができた。そして、刃がそれにあたると、消滅してしまった。
「はっははは! それはまだ初級呪文だ。次は中級魔法で攻撃してやるぞ」
また杖が光りだした。しかし、それより先にサムが走りだす!
「受けてみよ!」とさけびながらふりおろした剣が[ポロミウスの]腕につきささった。そして杖を持った方の腕が地面に落ちた。
「まだ片方の腕が残っているぞ! このおろかものめ!」
そう言いながら、残りの手に杖をにぎり、それと同時に、杖が光りだす。やばい! サムは、最初から死ぬのを覚悟でポロミウスにとびこんだんだ! さらにサムは、地面におりると、後ろに回転して片足を切りつけた。しかしポロミウスは、痛みを感じないのか、不気味な笑みを浮かべて呪文を唱えた。
「カオスビーム!」「フリング!」
ポロミウスとアーリアが同時に唱え終わった。ポロミウスのにぎった杖から、直径二・五メートルはある光線がサムをおそう。しかしアーリアがすばやく唱えた呪文によって、サムが瞬間移動して、なんとか光線をよけることができた。そして、移動した場所は……ポロミウスの後ろだ!
呪文を唱え、スキができたポロミウスの後ろは、攻撃の絶好のチャンスだ。
「いけ、サム! あいつの頭をぶったぎれ!」
オレは思わずさけんでしまった。だが、サムの様子がおかしい。目をこらしてよく見ると、オレは思わず「うっ!」とうめき声をあげてしまった。
サムは、アーリアの呪文でうまくよけたと思っていた。だが、それはまちがいだったのだ。サムの体は、片腕と片方の肩がなく、腕と肩がない方の顔は、耳はもちろん、目やまゆ毛までが光線によってざんこくにもとけてなくなっていた。傷からはどくどくと血が流れだし、頭からは脳みそが地面にポトリと落ちた。そして、サムは静かに倒れた。うめき声ひとつあげずに。つまり、死んだのだ。
次の瞬間、オレはポロミウスに向かって走りだしていた。
「うわぁぁぁぁ!」
「はは! むだ死にする気か! それこそお前にふさわしい死に方だ」
そう言うと、杖をオレの方に向けた。いや、オレの方じゃない。アーリアに呪文を唱えようとしているんだ! そして、呪文の完成。
「ドラゴンエナジーギガ!」
その呪文は、巨大なドラゴンだった。炎の化身であり、雷の神であり、氷の王として君臨する、ポロミウスの数十倍の大きさのドラゴンは、まっすぐにアーリアにおそいかかる。オレは思わずさけんでしまった。
「アーリア!」
しかしアーリアは、オレに向かってにこりと笑った。その瞬間、オレは、アーリアは死を覚悟しているんだと悟った。アーリアが呪文を唱える。
「ハイゴット・サンクチュアリ!」
その呪文は、ポロミウスの唱えたドラゴンよりも大きい鏡だった。ドラゴンはそれに攻撃しようとした。しかし、ドラゴンの姿が鏡にうつった瞬間、なんとその鏡からポロミウスのドラゴンとそっくり同じ姿のドラゴンがでてきて、ドラゴンどおしがぶつかり合い、消滅してしまった。
しかし、その時に起こった炎や雷、氷がオレやアーリア、ポロミウスをおそった。オレは身をかわしてよけたが、呪文を唱え終わった後で身動きができないアーリアとポロミウスの体を容赦なく痛みつけた。
「きゃぁぁ!」「があぁぁ!」
アーリアとポロミウスの悲鳴だ。オレはその時をのがさずに、ポロミウスの頭めがけて、愛用しているバスタードソードをふりおろした。
「はぁぁ!」
その剣は、ポロミウスの頭をきれいに切断した。そしてその巨体は、呪文を唱え終わったままの姿勢で後ろに倒れた。ドスーン。
オレはポロミウスを殺した。仲間の命を犠牲にして。
「アーリア! アーリア!」
何度か呼ぶと、アーリアは苦痛に顔をゆがめながら、オレに言った。
「ここからは、あなた一人で行ってください。私はそう長くありません。これから言うことを、よく聞くのです」
「アーリア! もうしゃべるな!」
「ここから……右に行ってください。そこにある……階段を上ってください。下から……九段目に……隠し通路が……あります。階段の……左です」
「アーリア……どうか……もう……」
「あとは……あなた一人です。この大陸を……世界を救ってください」
そう言うと、アーリアは目をつぶり、がくりと力がなくなってしまった。
「ちくちょう!」
オレは涙を流しながら、立ちあがった。そして、アーリアが言った通りに進むと、隠し通路が見つかった。喜ぶべきところだが、それはひかえめだった。
オレは大粒の涙を流しながら、通路を進んだ。




