13、山頂へのロード(2)
「起きろ」
オレは少年にむりやり起こされた。くそ、髪を引っ張ってきたあら、死ぬほど痛い。いや、痛いのはそこだけではなかった。
首や背中、右足などにあいつの呪文が当たり、血が流れていた。立っているのもやっとだが、オレは倒れなかった。
「オレ一人を立たせて、何をするってんだ」
「オレはお前だけに用があるからだ」
「何?」
「オレは帝王様から命令されたんだ。ファーザン・ドウアーの山でソレイユ・ネバルという赤髪を待ちぶせし、殺せ、とな。しかしお前らは予想外に強く、オレは召喚技や上級呪文を使わなくてはならなかった。オレの魔力もすっからかんだ。剣で殺そうと思ったが、オレの持っているエスカリボーでは殺せない。本当はアンデットしかダメージを与えられないんだよ」
「ありがとよ。これでオレはあんたを殺せるぜ」
オレは剣をぬいて、ウシュナルクの方に剣先をむけた。彼はくやしそうに言った。
「ちくしょう、昨日の仕事がなければ楽に殺せたのに!」
「昨日の仕事って、何だ?」
オレは話を続ける。背中や首にダメージをうけたせいで、息をするのもつらいが、こんなチャンスはめったにない。
ウシュナルクが聞き返す。
「今、何と言った」
「昨日の仕事って、何だ?」
「ふん。オレとあと数人で、大迷宮のロード・オブ・ドラゴンを倒しに行ったんだ。最近のドラゴンは弱体化してるってんで、帝王様から命令されたんだ。結果はどうなったと思う?」
「えーと、お前ら、負けたんじゃないか?」
「当たり前だろ! 不可能なんだ。何千年にわたって魔法を磨いてきたようなやつらだ[ドラゴンは人間のように魔法が使え、エルフよりも長生きする]。でかさなんて、並じゃなかった。殺されそうになりながら、なんとか逃げのびた」
「で、あんたの仲間はどうなったんだ? まさか……」
「いや、全員なんとか無事だった。ボロボロで口も聞けない状態だったがな」
「だけど、ロード・オブ・ドラゴンが住んでる場所は、あの大迷宮だろ? 伝説で聞いただけだったけど、まさか本当にあったのか?」
「ああ。確かにあるぞ。前にも行った事があったが、あの広さは何度見ても驚くよ。お前も一度行くといいぞ」
「おいおい。それじゃあ、ロード・オブ・ドラゴンに殺されても、お前が殺すのと同じじゃないか」
「ははは。久しぶりに話をすることができた。一応、礼をいっておこう」
「いや、礼なんて」
「今回は、殺すのをあきらめよう。だが、次に会ったときは必ず殺すからな」
「ああ。待ってるぞ」
「だがな、お前はオレと戦う前にもっと強くなれ。今回は油断したから負けたが、次はそうはいかないぞ」
オレはうなずく。彼は、にやりと笑って呪文を唱える。
「テレポート!」
そして、ウシュナルク・オロドムはどこかへ行ってしまった。
「うー、いてて」
ソロイの声だ。笑うしかないだろう。
「やっと起きたか。オレよりずっと遅かったぜ」
「ん? あいつはどこに行ったんだ?」
「ああ、オレたちをみのがして、どこかへ行ったよ」
「じ、じゃあ、お前が追い払ってくれたのか?」
ここは、うそをついたほうがよさそうだな。オレのためにも、ソロイやみんなのためにも。
「ああ。あいつがどんどんビームやら爆弾やらをオレにあてにくるが、オレはそれを軽々とよけたんだ。そして相手との距離が縮まり、オレ…………」
ソロイに続いて、サリィとザーロック、そしてナオも目を覚ました。傷を治すことのできるザーロックはすでにボロボロだから、サリィがカバンからヒーリングポーションを出し、一人一本飲んだ。そうしたら、体に力がみなぎり、傷口がみるみるふさがっていった。
「だが、ずいぶん出血したから途中で貧血になるかも知れないな。ザーロックもまだ疲れてるから、ゆっくりしていこう」
オレの提案に、みんな賛成し、そろそろ暗くなってくるのでたき火の準備をした。
そして火をつける。そのときには、もう太陽はしずみ、完全に暗くなっていた。
「みんな、あれを見るんだ」
ソロイが言った。オレは彼が指差したところを見る。
それは、満月だった。
ここは山だから、あたりにじゃまするようなものはない。ああ、なんてきれいなんだろう。太陽を目指して必死に輝こうとする月は、太陽の光とはまた違った印象をうける。
太陽も充分美しい。しかし、美しすぎてまっすぐにみつめられない存在だ。まわりのものに強制的に光を与える、まさに伝説や神話のようだ。
月はというと、光をはなっているが、みつめられる存在だ。まわりをてらすには輝きがたらないが、みつめるものには光をくれる、たとえていうならば仲間たちだな。
「仲間っていいもんだな」
「もちろんだ。仲間がいれば戦うときも有利だし、荷物を分担できるからな」
そうじゃないって、ソロイ。オレのいいたいことは、こうだ。
仲間といれば安心できる
不安もなく 死んでいける
月がまわりをてらしてくれる
彼に不安という言葉なんてないから
彼はみつめると光をくれる
太陽とは対なる存在
やさしく、美しい
明るく、頼もしい栄光の月よ
わたしに光をおくれ
ああ 彼が嘆いている
わたしに光をおくれ
ああ 彼が苦しんでいる
彼が与えるのは自らの光だから
ふう。考えるのも大変だが、みんなの反応を見るのはとても楽しみだ
「いい唄ですね。『彼はみつめると光をくれる』という言葉が気に入りました。こういう唄を聞いたのは何年ぶりかしら……」
「ソレイユ、お前すごいナン。ボクがいると安心できるナン?」
「ああ、もちろんだ。ソロイ、さっきの言葉の意味、分かったか?」
「よく分かったぞ。この、にくいやつめ!」
みんな、首をかしげている。ソロイは、さっきオレが話した、とんでもない話を暴露した。
「だけどソレイユ、このあたりに爆弾のあとなんてないぞ」
「うっ、しまった!」
ザーロックの言葉で、オレはソロイに首をしめられるハメになった。
「離してくれ! 本当のことを話すから!」
「よし。またうそをついたら、ナオと二人でお前をいたみつけるぞ」
オレはすべてを話した。二人で対話をしたこと、彼の名前、目的などだ。
「オレは全部話したよ」
「うむ。じゃあ、まだ彼の目的は達成されてないから、またいつか殺しにやってくるかも知れないな」
「だけど、すぐには襲ってこないだろ。少なくとも、山にいる間は安全だと思うぜ」
オレは少し間をおいて、言った。
「あいつ、いいやつだよな」
みんな、一斉に不満の声をあげた。オレは笑いながらたき火の火を消し、深い眠りについた。




