11、町のヒーロー、大ピンチ!
「わあぁぁ! ターナグのヒーローが来たぞー!」
「きゃあぁぁ! ソレイユ様―! 私にも太陽の光を分けてー!」
「ちくしょう、こいつらうるさすぎるぞ!」
ザーロックの不満にも、歓声はますます大きくなるばかりだった。
オレたちは、町を救ったヒーローとして、民衆にひっぱりだこにされている。とくに、オレに寄ってくる娘たちの数はハンパじゃない。ソロイはすっかりあきれて、話しかけてくる人を無視している。ザーロックも似たような状態だ。
そしてナオは、「トイレに行ってくるナン」と言って、それっきり帰ってこない。いったいどうしたんだろう?
狂ったんじゃないかと錯覚したようなわきあがる熱気の中、やっとボスにつかまっていた町長と対面することができた。
「私や多くの人々を助けて下さり、本当にありがとうございました」
まず町長が声をかけてきた。オレが話を続ける。
「いや、この町を救えたのは、全部ナオという戦士なんです。今ここにはいないけど」
「もう行ってしまわれたのですかな?」
「おそらく違います。ナオはトイレに行くと言ったきり、戻ってこないんです。今からでも探して……」
「いいや、その必要はない。感謝のしるしに、あるものをきみたちにあげようかと思っていたんだ」
そう言って、町長は下男から本を2冊、受け取ってそれぞれソロイ、ザーロックに手渡した。
「その本は光の書と闇の書というんだ。我が町に残っている伝説では、『光は太陽であり、闇は月。闇で太陽を吸収し、光で月の光をうばうべし』だそうだ。意味が分からないが、あなたがたの旅に役立つよう祈っているよ」
そしてオレたちは、一人に一頭ずつ、馬をもらった。ソロイの馬は屈強そうな馬で、彼にスピードキングと名づけられた。本当に速いのかは分からないが……。
ナオとザーロックの馬は、たて髪が純白のきれいな馬だ。ザーロックは馬にロンリースターと名づけた。ナオの馬の名前は、彼を尊重して本人に決めてもらうことにした[この場にナオはいないのである]。サリィも自分の馬にエルベーヌと名づけた。
最後にオレの馬だ。そいつは全身まっ黒で、白くなびく髪がかっこいい。体格はソロイの馬「スピードキング」よりも小さいものの、筋肉はみごとについている。やつの目は、自信に満ちあふれ、それと同時に主人であるオレを少々みくびっているように思えた。名前は、ネバル家の決まりで、ジェイミーと名づけた。
しかし、馬を従わせるのは簡単だった。エルフであるサリィが全ての馬をしっかりしかりつけておいたからだ。馬で走るのも、オレをふくめ全員が経験済みで問題なし。オレたちは、町の人々の熱い声援に答えながら、ターナグをあとにした。
「行くナン、フードファイター! ファーザン・ドウアーの山頂に向かって、死ぬ気で走るナン!」
まったく……。ナオは元気よく、メンバーの先頭に立っている。さっきとは、全く別人のようだ。
オレたちが町を出たあと、すでにナオが待っていた。その時のナオの顔は、怒りが爆発した、ナオじゃない顔だった。
「おい、いったいどうしたんだよ、ナオ?」
「うるせぇ……ほっといてくれ!」
そして、何もない草原、ファーザン草原に呪文を唱えた。
「コメット!」
すると、空から隕石が降ってきて、草原の一部分をきれいに燃やした。オレたちは呆然となった。
しかし、ナオはみんなが持っていた馬に気づいたようだ。ザーロックが急いでナオに馬をわたした。すると彼は大喜びではじけた。しかも「フードファイター」と名前をつけて、果敢に走っているのだ。まったく……。
馬だから山を登るのも楽だった。オレたちは一時間たらずで山頂付近まで来て、三十分ほど休憩した。ザーロックは疲れきった馬たちを回復させて、ナオを先頭に山のてっぺんを目指す[このあたりから、二章の終わりまで、ソレイユたちの旅の目的は錯綜している]。
五分ほどたっただろうか。突然、どこからか呪文を唱える声が聞こえてきた。
「フレイヤ!」
「ぐあっ!」
いきなりの光景だったから、あんまり覚えていないんだ。記憶に残っているのは、何のまえぶれもない大爆発とみんなや馬の叫び声、そして地面に思いっきりたたきつけられたこと、などだ。
「ケアポインター!」
だんだん体の痛みが消えてきた。オレは立ち上がって、前方の少年を見る。
見たところ、オレと同じ、十七歳くらいで、髪も偶然、オレと同じ赤だ。黒いローブで体中をおおっていて、目はぎらぎらと緑の光を放っている。
「遠くへ行きなさい! 用が済んだら合図を送るから!」
サリィが、馬たちに命令したようだ。ソロイやナオ、ザーロックも立ち上がって彼女のところへ向かう。オレもそこに行こうとした、その時だ。
「コロナ!」
少年の手から黒いかたまりがすごい速さでオレの腹に直撃した。オレは後ろにふっとんだ。
「ソレイユ―!」
ソロイの大声を聞いて、ようやくオレは意識をとり戻した。どうやら岩に頭を打ったようだ。立ち上がろうとした瞬間、腹に激痛が走る。
「ぐっ! はあっ、はあっ」
なんとかして仲間のいるところまで歩くことができた(本当は仲間がオレのいる場所まで来てくれたのかも知れないが)。ザーロックが少年に向かって言う。
「おい! お前、いったい何のまねだ!」
その言葉をまるっきり無視して、少年は呪文を唱え始めた。
くそっ! オレは、少年に向かって走っていた。呪文を唱え終わる前に、剣を振り落ろせ! しかし、呪文の方が早かったようだ。
「ショック!」
バリバリバリバリ! オレは体中に電撃が流れ、そのまま前に倒れてしまった。そこに少年が持っていた杖がつきささろうとした時だ。
「フリング!」
ナオの呪文で杖をぎりぎりかわし、仲間のところまで瞬間移動した。ソロイが何度もオレをゆさぶっている。
「ソレイユ、大丈夫か? おい、ソレイユ!」
やめろ、そんなにゆさぶると、どんどん意識が遠くなっていく。ザーロックが急いで回復呪文を唱えている。しかし、また次の攻撃がおそってくる。
「コメット!」
何だ? 何もないじゃないか。しかし、ナオの「ンナ~!」という声を聞いて、ようやくオレは空から隕石が落ちてくるのに気づいた。そしてサリィの呪文。
「ミーティアドレイク!」
小隕石が何発も当たるが、勢いを少し落としただけですぐに消滅してしまった。
ザーロックも回復呪文をやめて、防御呪文を唱え始める。そしてナオが剣をつき立てて叫ぶ。
「パーフェクトバリア!」
すると、隕石とオレたちの間に超巨大な結界ができた。隕石がぶつかってもそれは消えず、逆に隕石を少しずつ破壊し始めた。
「効果は数十秒だナン。このスピードだと全部は破壊しきれないナン」
あ、本当だ。大きさは十分の一くらいになって、[小さくなった隕石がオレたちに]突進してくる。
「ギガマジックシェルター!」
結界が、今度はオレたちを包みこんだ。そして隕石がそれに当たると、長い時間をかけて消滅させた。
「やったぜ!」
ソロイが言う。しかし結界が消えると次の呪文がオレたちを苦しめる。
「ドラクス!」
唱え終わると、少年の頭上に円盤がでてきた。何だ、あれは? それは光をチカチカとはなっている。光が最大限の輝きをはなつと、そこから直径で五メートルはあるであろうビームがすごい速さでこっちにとんでくる。
「カオスビーム!」「ディスバオール!」
コラーピアヌスとかいう呪文の半分くらいの大きさしかないビームと、数はあるが一本一本が弱々しいイバラが巨大光線に勝負をいどむ。
「ムダだ」
少年が鋭い声で言いはなつ。暗くてまるで特徴のない声だ。予言通り、パワーは落ちたもののスピードは変わらないビームがオレたち全員にダメージを与えた。
全身が焼けていくような感じがする。その前のダメージも残っていたから、どうしようもなく体に直撃した。まるで、数匹のオーガにけられたような痛みだ。いや、実際にけられたことは無いが……ただ……そんな感じが……しただけだ……。
「ぐああ!」
どれほど時が過ぎただろうか。オレは立ち上がった。なぜか体の痛みも消えていた。
「やったナン! ソレイユも意識をとり戻したナン!」
声のした方を見る。躍って喜ぶナオと、呪文をたくさん使いすぎたのか、すっかり動けなくなったザーロックが見えた。ソロイの声がする。
「ザーロックは、最強の回復呪文『ケアグランド』を使って、体の傷をすべて完治させたんだ。だけど、呪文に使うパワーまでは回復できなかったようだな」
オレは軽くうなずくと、少年の方を見た。そいつはいやに長ったらしい呪文を唱えている。オレたちがもたもたしてる間に、その呪文が完成した。
「ホワイトホール! イフリートを召喚!」
また頭上に円盤がでてきた。そして、そこからでてきたのは、全身を火に包んだ怪物だった。




