9、味方軍スパイの活躍(1)
オレたちは呆然とナオ・チャンを見ていた。ナオは三人のところへ速足で近づいてきている。そこでオレが質問する。
「さっきのナオの言葉だけど。あれはどういう意味なんだ?」
するとナオはベットに座りこんで言う。
「ボクは悪の集団の手下によって、アジトに連れていかれたナン。だから、アジトの場所が分かるナン。みたところ、君たちはアジトが見つからなくて困っているナンね? だからボクは君たちを助けられるナン」
「できれば、くわしく話してくれないか、ナオ」
すると、ナオは頭をポリポリかいてから言う。
「少し長くなるけど……いいかナン?」
全員がうなずいた。オレたちは、味方軍スパイの活躍を本人からじっくりと聞くことにした。
胸の奥からこみあげてくる、ナンとカレーを食べたいと言う欲求。ナオはそれをぐっとこらえて、走り続けた。
しかし、ナンが力の源であるナオの体力はそう長くは続かなかった。歩き考え、魔法でナンを食べようか、と思ったが、すぐにあきらめた。すでにへろへろで魔法を使える状態ではなかったのだ。
歩くのにも疲れ、ナオはその場に座りこみ、何も考えずに足音の聞こえる方をぼんやりと見つめた。
その歩いてくる男は、ナオの顔をまじまじと見つめている。そして、声をかけてきた。
「お前、食い物が欲しいか?」
ナオは即答した。
「ナンとカレーが死ぬほど食いたい!」
「そうか。なら、私に連いて来るんだ。ナンを望みどおり、食べさせてやろう」
するとその男はつぶやき始めた。魔法を使うつもりだと、ナオは魔法を使う者として予想した。男は叫ぶ。
「テレポート!」
シューン。一瞬で、周りの風景が変わった。どうやら、ターナグの北にきたらしい。なぜなら、ここからブラット・ワールドが見えるからだ[ターナグの町と、ブラット・ワールドという場所の間には、ファーザン草原が広がっている。そのため、ターナグからよほど北に行かないとブラット・ワールドは見えないのだ]。男は地面を探っている。
「えーっと、ここらにたしか秘密の入口が……あった。ここで始動語を言うんだったな、たしか」
そして男は言葉を言う。
「悪の集団の部下、今戻った。入口を開けろ」
すると中から「入れ」と声がして、鈍い音とともに入口が開いた。
「さあ、アジトへようこそ」
「ブラット・ワールドって、何だ?」
オレの質問だ。ザーロックが答える。
「血の神といわれる魔物、ガーステンが住んでいるといわれる聖域なんだ。そこは『死の海』に匹敵する恐怖の場所といわれているが、すごい宝物が隠されているともいわれているんだ」
へぇ。一度でいいから、行ってみたいな。そんな機会、無いだろうけど。
「で……話を続けていいかナン?」
「あ、ああ。ぜひ頼む」
ナオはまた話し始めた。
長く暗い階段をひたすら下りていく。時々手下と思われる男が、ナオを案内している男(名前はたしか、ケルンと言う)に親しげにあいさつを交わしてきたが、ケルンはそれをまるっきり無視して、黙々と歩き続けている。ナオはそれについていくしかなかった。
ずいぶん下まで降りていった時だ。
「入れ。お前の望むものがきっとあるぞ」
ケルンが扉を開けると、ナオはしんちょうに中へ入る。すると、いきなり扉が閉まった。この部屋の奥には、人間にしては以容に[異様に、ということだろう]大きい男が立っている。腕の太さはナオの足三本分ぐらいあり、体もオーガのようにひきしまっている。その男がしゃべる。
「お前がナオ・チャンか。オレに魔法を当ててみろ。使える中で最強の魔法だぞ。さもなければ、ナンとカレーを食う機会を失うことになるぞ」
ナオは空腹で死にそうだったが、ナンのために、精神集中し始めた。そして呪文の完成。
「ディスバオール!」
何万というとがったイバラが、その男をおそう。
グジャ! おぞましい音とともに、男の全身につきささった。狂いそうな量の血がとび散る。そんな状態にもかかわらず、男がしゃべり出した。
「ふん。なかなかだな。だが、やはり力不足だ。オレに比べれば、ひよこ同然……」
そう言って、男は呪文を唱え始める。
「グランディンキース!」
イバラがすべてバラバラに散った。呪文の正体は、超巨大なオノを持つ悪魔だった。この呪文に、ナオが勝てるわけがない。ナオはじりじりと後ろに下がった。しかし、男はその悪魔を、なぜかひっこめてしまった。
「お前を今殺すのはもったいない。帰って仲間に伝えろ。捕らわれている人々を助けたければ、アジトへ来て、オレを倒すんだ、と。なぜ戦いたいかは、アジトで言うことにしよう。さあ、とっとと帰れ!」
ナオはおそるおそる言う。
「あの……ナンは?」
すると男はおやっ、という顔で言う。
「あ、忘れていた。そら、望みどおり、ナンとカレーだ」
男が指をパチンとはじく。すると、閉まっていた扉が開き、どたどたっと部下が、手に手にナンやカレーを持って入ってきた。
「さあ、食うがいい。体力満タンでオレと戦ってほしいからな」
男はそう言うと、呪文を使った。
「ケアラド!」
フォーン。男の体の傷は、きれいにふさがってしまった。ナオはそれには驚いていたが、空腹に勝てず、ナンとカレーを夢中で食べた。そして食べ終わると、急いで宿に戻った。
「そんな事が……他にどんな情報を聞いてきたんだ?」
オレの質問に、ナオは答えた。
「ボクを案内してくれたケルンから聞いたところによると、悪の集団の人員は、ボスをふくめて一四六人いるらしいナン。そのうち、魔法を使えるのは十人で、話に出てきた大男は悪の集団のボスらしいナン。そいつは、この大陸を支配している帝王に忠誠を誓って、闇の魔法によって恐ろしいパワーを手に入れたらしいナン。それと、その大男は帝王の精鋭部隊だということも聞いてきたナン」
「ひえっ。精鋭部隊!?」
帝王の手下だと。ううむ。すごい事に手を出してしまったらしい。ザーロックの顔はまっ青になっている。ソロイはうなり、サリィは下を向いたまま、動かない。ナオはあわてて言う。
「で、でも、ボスはきっとバカだナン。だって、ボクにナンをあげる事をすっかり忘れていたからだナン。ケルンもボスは頭が非常に悪いって言ってたナン」
「だが、魔法を使う大男だぞ。勝ち目なんて無いに等しくないか?」
「けれど、うまく相手をたぶらかす事ができれば、勝つための歯車が回る気がするわ」
「けど、何でオレたちと戦いたいんだろう?」
「結局、アジトへ行くしかないって事か。ナオ? アジトに案内してくれ」
ナオはうなずくと、宿から飛びだした。みんなはナオの後に続き、戦いの場へと急いだ。




