異端という悪4
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「オヤジ!ついにアウトコードの奴らが仕掛けてきやした!」
「正面の所で迎え撃っていますが、抑えきれそうにねぇっす。オヤジは裏口から出てください!」
オヤジと言われた男は部屋の中央で胡座をかいたまま報告を聞き、だが慌てることなく返す。
「おいておいた迎撃組はどうした」
「それが向こうも奇襲をかけられたみてぇです!」
「場所が割れてたっつうことは内通者でしょうか……クソッ、恥知らずめ!」
皆が浮き足だち、やり場のない怒りを声にして漏らしている中、やはりオヤジと呼ばれた男は落ち着き払い、静かな声音で呼びつけた。
「葛本」
「何だ、オヤジ」
間髪入れずに若い青年の声が返ってくる。
「オメー、ちと追い払っておけ。できんだろ?その間に俺は粋がってるガキを捻ってくるからよ。数人は俺についてこい。後の連中はここに残って葛本の指示に従え。」
「了解だよ。それからオヤジ、高瀬の嬢ちゃんからだ。アウトコードの根城と、構成員の現在の位置らしい。これ使えば鉢会わせずに行けるらしいぜ。」
言いながらスマートフォンを投げ渡す。
「あと、情報通り嬢ちゃんと同類の力を使える奴らが多数雇われてるらしい。気をつけてくれ」
オヤジは暫く画面を見つめてから思わず苦笑する。
「相変わらず、本当に仕事のできる嬢ちゃんだな。どうだ?オメー、いっそのこと娶っちまったら良いんじゃねぇか?惚れさせんのは得意だろ?」
「冗談よしてくれ、あんな得体が知れないのが隣にいたら気が気じゃねぇよ。」
「そりゃ、最もだ」
その頃、善雄は因縁深き公園へと足を運んでいた。
(なんの因果なんだろうな、本当に)
自嘲気味に笑う口元は彼の心を的確に表現していた。
入り口から数歩入って片手を地へ向けて翳す。
探知系一般魔術、ウェーブリアクトをプロジェクションで素早く展開する。
(いた。反応15。大きさ的にみて大人。広い公園ではあるが、こんな真っ昼間からトイレの中に15人も集まってるのは黒とみて良いだろう)
ウェーブリアクトはソナーと同じような原理で魔力の波動を流し、その反射で敵の位置を割り出す魔術だ。
ソナーと違うのは魔力に物理法則は通じないため障害物の影響を受けないという点と、魔力はもともと生命エネルギーを変質させたものであるため形や熱ではなく、生体に反応を示すという点だ。
善雄はもう一方の手をトイレへ向けて翳す。
プロジェクションで作り上げた別の魔術に位置情報を入力していく。
すると、一般人には感知できない、魔術の起点がトイレの中心辺りに生じる。
(距離、威力、問題なし)
「……インビジブルボミング」
呟くと同時にトイレの中央で小さな爆発が起こる。
それはトイレの内側だけを破壊し、溶かしながら、外側には大きな変化をもたらさない、計算された爆発だった。
中にいた男たちは自分たちの知らぬ間に死んだことだろう。
小さな罪悪感を抱きながらもと来た方向へ足を送る。
小さな爆発とは言え、音はした。近くにいる歩行者や住民がここに来ないとは限らないからだ。
そうして振り返った目の前には、
銃口があった。
咄嗟に手へと魔力を流し、クラップフリューゲルを起動、顔を横に振って銃口をさけようとする、が、
『動かない……!?』
驚きに目を見開き、銃を握る少女へと視線を移す。
一言で言い表すとしたら、不吉な少女だった。
全体的に黒いイメージを与える中、不自然なほど大きく真っ赤な彼岸花の髪飾りが見るものに血を連想させ、その印象を濃くさせているのだろう。
『何なんだこの子は……!いつから後ろにいやがった!?
ウェーブリアクトにかからなかったということはその後に近づいたということか?
だとしたら、あのほんの数秒の間に?
いや、魔術を使っていたなら魔力で気がついていたはずだし、俺は念のために100m以上ウェーブリアクトを撃った。その範囲外から生身の人間、ましてやこんな少女が数秒で近づけるはずがない!』
様々な憶測が善雄の頭の中で往き来し、検証するが結論は出ない。
そんな善雄を面白がるかのように見つめ、少女はゆっくりと口を動かした。
「まずは一匹。見つけましたわ」