じゃじゃ馬ラウラの辛辣な現実
ご閲覧頂き誠にありがとうございます。
フェルトの襲撃を受けてから丸一日が過ぎた。星屑の休憩所は相変わらず騒々しい。フェルトは追いかけてきてはいないようだ。俺はほっとため息を吐くと、俺の部屋に集まっている二人に向き直った。二人とも真剣な表情でこちらを見ている。
「とりあえず、小夜鳴き鳥の止まり木に戻ろうと思う。あそこなら人目もあってフェルトは手が出しにくいだろうし、頼れる情報屋もいる。ここで留まってるよりかはずいぶんマシだと思うぜ?」
「情報屋さん、ですか。コリーさんが仰るのであれば大丈夫でしょうが、その手の方というのは何やら怪しいと感じてしまいますね」
俺の言葉に、パティーは神妙な顔つきで呟いた。眉を寄せて唇を尖らせながら、顔を埋めるようにクッションをだき抱えている。そして、ぱっと手を離してクッションを解放すると、潰れたままのそれを見て残念そうに肩を落とした。
「けど、その人はいい人なんだろう? それなら頼らない手はないよ。今は少しでも、本当に、少しの情報も大切だからさ」
不服そうなパティーの横で、ラウラが口を開いた。彼女はまっすぐに俺を見つめる。その瞳に迷いはないようだ。
「……それなら、俺は、お前に事情を聞かねーといけなくなる。そうじゃないと、俺はお前に協力できない」
「……」
ラウラは今にも泣き出しそうな顔をして黙り込むと、唇を噛み締めて俯いた。その隣では、パティーがクッションに顔を埋めている。
「話したくない、って言うのが本音だなぁ。自分でもまだ消化しきれてないことだし、それを人に話すっていうのは正直――辛い」
ようやく口を開いたラウラは、震える声で呟いた。パティーが口だけ動かして何かを言う。俺にはそれが何なのか分からなかった。
「でも、話さなきゃってのも、仕方がないって、思うよ。だから――話せる範囲で話す」
「ああ。無理はしないでいい。状況が理解できりゃそれでいいさ」
俺がそう言うと、ラウラは無理して笑顔を浮かべた。かなり辛そうだ。
「まず、ボクの両親のことを話そうか。二人とも研究者でね、何の研究かは知らないけど共同研究してたんだ」
「実の娘なのに知らなかったのか?」
俺が質問すると、何故かパティーが睨みつけてきた。赤い瞳が鋭く光る。
「家と研究所は別々だったし、ボク、あそこの空気が苦手ですぐ貧血起こしてたからさ」
ラウラはパティーの視線に気づかないまま話を続けた。ずっと窓の外を見ている。どこも見ていないように見えた。
「その日は、研究所に遊びに行ったんだ。でも、二人ともどこにもいなくて。探してたら銃声が聞こえたんだ」
ラウラの声のトーンが落ちる。長いまつげが瞳に影を落としていた。
「それでボクは、音がした方に向かったんだ。そしたら、その当時助手だったフェルトに会ってさ。左手に拳銃を持って、血塗れで、さよならって言うんだ」
「あいつ助手だったのか……」
ふと、白バラにナイフを突き刺すフェルトの姿が思い浮かぶ。あの女性がそんなにもラウラの目的に関係しているとは思っていなかった。ただの殺し屋だと思っていたのだ。
「その後は、コリーが想像する通りだ。それでボクは、事件に関係する人物を探しまわった。そしたら、知らないうちに賞金首になってたってワケ」
軽い調子で彼女は言う。重い空気が部屋を包む。
「ロットーは落ちこぼれの資産家。ようは金目当て。レティは研究結果を盗んだ技術者。フェルトは……なんでだろうね」
吐き出すように言うと、ラウラは嘲笑じみた笑みを浮かべた。それはおそらく、他でもない彼女自身に向けられたものだ。
「……悪い。――話してくれて、ありがとな」
「何で君が謝るんだよ」
小さく笑いながら言ったラウラに、俺は少しだけほっとして胸を撫で下ろした。ふとパティーに目を向けると、どこか寂しそうな表情が見える。
「パティー、どうしたんだ?」
「いえ、ただ」
ようやく気づいたラウラがパティーに問いかけた。パティーは相変わらず淡々としている。
「人の身というのも、なかなかもどかしいのだなと思ったのです」
俺にはそれが、皮肉に聞こえた。
お読み頂き誠にありがとうございました。