日雇いコリーの滑稽な週末
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その日は本当に突然始まった。
「――ッ! 離せッ! 離せってんだよ!」
用心棒の依頼を受けてやってきた酒場では、軽い乱闘騒ぎが起きていた。しかもその原因は本の小さな子供だと言う。俺は大きくため息を吐いて店内で暴れ回るそいつの首根っこを掴んで持ち上げた。年は十四、五くらいだろうか。ここで生きていくにはあまりに線が細かった。
「……はぁ」
「なんだよそのため息は!? って、うわぁっ! やーめーろ! 追い出すなぁっ!」
暴れながら絶叫する子供を無視して、俺は店を出た。ある程度店から離れ、子供を降ろす。地面に降ろした反動で被っていたフードが落ちる。可愛らしい顔立ちは少女のようだった。
「子供に乱暴するなんて大人げないぞっ!」
「酒場で乱闘するなんて子供らしくないな」
左手を腰に当てて右手で俺を指差しながら子供が言う。俺はそんな子供に冷静に言い返した。子供は反論に詰まって少しずつ指を降ろし、ついにはフードを目深に被ってしまった。
「それで、なんであんなトコにいた? ここはガキの来る所じゃねぇぞ」
「ガキじゃない! ボクにはラウラって名前があるんだ!」
ラウラと名乗った子供は、降ろした右手を腰に当てて胸を張った。再びフードが落ちる。ラウラは諦めたようだった。
「ラウラって、お前女か?」
「な、なんだよっ! 女じゃ悪いか?」
俺が聞くと、ラウラは小動物のような動きをした。
「悪かないが、なんか、なあ……」
「何だよそれっ! あーもう怒った! 絶対許さないからっ! さぁ、名乗れっ! パシリにしてやるっ!」
いちいち弾んだ声のラウラが、木箱の上から俺を見下ろして言う。俺は深くため息を吐いて、木箱の上からラウラを降ろしながら言った。
「俺はコルネリウス・カーラー。気楽にコリーとでも呼べ」
「……おうっ! コリーだなっ! ボクはお腹がすいたぞ。なんか食わせろっ!」
まさかそんなことのために酒場に入ったのか、と、内心呆れながら俺は再びため息を吐いた。いつもの倍ぐらいため息を吐いているような気がしたが、気にしないことにした。
「俺はお守りじゃねぇよ……。まぁ、いい。満足すんなら連れてってやるよ」
「本当か? わぁい、コリーっていい人だねっ!」
俺の言葉に、ラウラが歓喜の声を上げる。その満面の笑みにつられて、俺も少しだけ微笑んだ。
このあとは激動だった。食事だけかと思えばそうではなく、様々な買い物につきあわされたのだ。服・家具、果てには宿代まで払わされた。しかし俺は日雇いコリー。こんな過酷な日は今日限りだ。
しかし、そうはいかなかった。
「おはよう」
「……はぁ」
別れるためにわざわざ別の宿をとったというのに、宿の入り口ではラウラが待ち伏せしていたのだった。
「なんだその反応はっ! もっと喜んだらどうだ?」
「この状況をどう喜べって言うんだ」
俺が冷静に指摘すると、ラウラは嬉しそうな顔をしてフードを被った。そして、俺の手を取り歩き出す。何だか変な感じがした。
「どうした?」
「散歩だよ、散歩っ!」
散歩、と言ってラウラがやってきたのは昨日の酒場の前だった。こんな所へ来てどうするつもりだろう。俺は気になって彼女を見た。ラウラは俺とは離れた場所で、笑っていた。
「それじゃ、またね。日雇いコリー」
「は――?」
名乗っただろうか、と訝しく思い、俺は酒場の張り紙を見た。そこには、“Wanted”ラウラと書かれていた。
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