体育館に飛び散るしずく
『ジャァァァァ・・・』
床に激しくおしっこが飛び散る音が、遠くで聞こえた気がした。
「聞いてるの!? みんな静かに!! ・・・」
「あらら、サオリちゃん、もらしちゃった・・・」
「はやく、おしっこ行ってらっしゃい」
「リョウくん、サオリちゃんをトイレに連れてってあげて・・・」
そんな先生の声が次第に遠くなり、代わりにみんなのざわめきが聞こえはじめた。
「えっ、うそ、おもらし?」
「かわいそう、漏らしちゃうなんて・・・」
「ずっとトイレ行きたそうだったのに・・・」
「我慢できなかったんだ・・・」
《おもらししちゃったの、私・・・?》
周囲のざわめきで我に返り、遠のいていた意識が戻ってきて、沙織は恐る恐る自分のブルマーを触ってみた。
《え・・・濡れてない》
自分のおしりが濡れていないことを不思議に思った沙織が、音のするほうへ振り向くと、斜め後ろに立っていた涼の足もとに、透明な水が滴り落ち、周囲にしずくを飛び散らせていた。
涼の周囲の人が驚いて、しずくを避けるように逃げた瞬間、沙織から涼の姿が丸見えとなった。涼の紺色の短パンからは、そのふくらみのあたりの広い範囲から透明な無数のしずくがあふれだしていた。
涼が時折目を伏せながら、はにかんで沙織を見た。沙織は涼が飛び散らせているしずくが脚にかかるのもお構いなしに彼に駆け寄った。
「涼くん、おしっこしちゃったのね?」
涼はおしっこを漏らしながら、小さな声で沙織に言った。
「沙織・・・」
「うん」
「僕を保健室に連れてって。沙織、保健委員でしょ?」
「うん、わかった」
沙織は涼の手を引っ張ると、急いでその場から涼を連れ出した。
涼の手を引き沙織が体育館を出ると、そこは渡り廊下のはずなのに、なぜか見覚えのあるベランダだった。そこで立ち止まると、沙織は涼に話しかけた。
「涼くん、漏らしちゃったんだね」
「うん・・・」
「我慢できなかったの?」
沙織がそう言うと、涼はまるで乗り物に酔ってたくさん吐いたあと、再び吐いてしまう子のように脱力した表情で、ふたたび短パンを濡れ光らせると、まだ身体に残っていたおしっこをあふれさせた。
「あ、涼くん」
沙織は思わず涼の腕を抱きかかえた。
「したかったのね?」
「うん・・・ずっと我慢してた・・・」
「うん」
「急に先生の怒鳴り声がして・・・」
「そうだったの、とにかく保健室行こうね」
緑色をした衝立に囲まれた部屋は少し薄暗いけれど暖かみがあって、まるで幼稚園で着替えたときの教室だった。
「靴と靴下は脱いで、このタオルの上に立ってね。着替えさせてあげる」
沙織はまるで勝手を知ったようにてきぱきと準備をした。さっき心の中を駆け巡った思い出が鮮明に残っていて、そうすることに全く違和感がなかった。そして涼の前にしゃがんだ。
「涼くん、いっぱいおしっこしたね」
涼の体育着をひざまで下げたとき、彼の下腹部のふくらみを包み込む純白のブリーフが前もうしろもぐっしょり濡れているのを触って確かめながら、沙織は言った。
「うん、でも、おしっこ漏らしてすごくすっきりした」
この格好で立たされていること自体恥ずかしいはずなのに、涼はいまも背筋を伸ばし、おしりを少し突き出して、凛としていた。
「じゃあ、脱がせてあげるね」
「うん・・・」
沙織が、下腹部とおしりのふくらみに濡れて張りついている彼のブリーフを、剥がすようにして脱がせはじめても、涼はその姿勢を崩さなかった。幼稚園のとき、涼が自分のためにわざとおもらしして、先生に叱られながらパンツを脱がされたときもそうだった。
大人になってはじめて見る涼の素肌も、ほんとうだったらおしっこを漏らしてみっともないはずなのに、パンツに包まれたまま溜まっていたおしっこを出してすっきりと濡れている様子が、何か特別なことをしたみたいに、輝いて素敵に見えた。その隅々まで綺麗にしてあげたいと思い、沙織は力強く包み込むようにタオルをあてがった。