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もらしちゃった・・・

「きいてるの!? みんなしずかに!!」



幼稚園の先生の怒鳴り声に、急に身体がびっくりして硬直したサオリだった。


『じゃぁぁぁぁ・・・』


そして、次の瞬間、自分の真下から聞こえてきたその音に、誰よりもびっくりしたのもサオリだった。


パンツの中が熱くなった。それまで感じていた尿意から解放されて、身体がすうっと楽になっていった。視線を落とすと、自分の短パンから無数の水滴があふれ出していた。


《おもらししちゃったの、私・・・?》


サオリはまだそれが自分のおしっこだとは信じられずにいた。透明でほのかな匂いのするその温かい水は、激しい音を立てて床に飛び散っていった。



《聞いてるの!? みんな静かに!! ・・・》


先生が怒鳴ったその言葉とともに、沙織の心に、幼稚園のときに体験したはずの情景がよみがえっていた。それはとても衝撃的な出来事だったため、当時幼かった沙織の記憶から自然にかき消され、心の奥に仕舞われていたものだった。



「あらら、サオリちゃん、もらしちゃった・・・」


壇上の先生が呆れたように苦笑いした。


「はやく、おしっこ行ってらっしゃい」


ベランダの近くにいた先生が、まるでいつもの決まり文句のように言った。しかしすでにおしっこを漏らしはじめているのに、今更トイレに走ってもどうにもならないことは、幼いサオリでも分かっていた。



「サオリ!」


斜め後ろにいたリョウが、急にサオリの手を引っぱった。サオリはリョウに連れられるまま、トイレのある隣の教室へと続くベランダのほうへ、両脚を濡らしながら歩いた。


「リョウくん、サオリちゃんをトイレに連れてってあげて・・・」


先生の声がうしろに聞こえて、次第に遠くなった。



ベランダの、みんなから見えない衝立の向こうまでたどり着くと、リョウはサオリのほうへ向き直った。


《だめじゃない、サオリ、おしっこしちゃうなんて》


いつも自分といっしょに遊んでくれていたリョウは、そんなふうに、おもらしした自分のことを叱るのだとサオリは思っていた。



「リョウくん、ごめん・・・、私・・・」



サオリが涙を浮かべながらそう言うと、リョウはやさしくサオリに話しかけた。


「サオリ、おしっこ、我慢できなかったの?」

「うん・・・」

「恥ずかしい?」

「うん、ふぅん・・・」


サオリは泣き出した。サオリの両脚を、まだいくつもの水滴が伝うのを見て、リョウはサオリの両手を握って言った。


「サオリ、もう泣かないで。僕がなんとかしてあげる」

「でも、もう、私、もらしちゃったし」

「だいじょうぶ・・・」

「え、だいじょうぶ、って、どうするの?」


リョウは、腰をくねらせて脚を少し開くと、声を震わせて続けた。


「サオリにだけ恥ずかしい思いはさせないから」

「リョウくん、どういうこと?」

「見てて・・・」


リョウはサオリと両手をつないだまま、サオリを見つめていた綺麗な目を少し伏せた。


《リョウくん・・・? まさか・・・?》


サオリはリョウが何をしようとしているのか最初は分からなかったが、もしかしたら・・・と気づいた。


《そんな、恥ずかしいでしょ、リョウくん・・・だめ》



すると、ほんの少し間をおいたそのとき、


『ジャァァァァ・・・』


リョウは穿いているデニムの短パンの下腹部をじわっと濡れ光らせたかと思うと、そこから幾筋もの滝のようにおしっこをあふれさせた。それらは音を立てて足もとのコンクリートに落ち、大きな水しぶきを作っていった。



「ほら・・・サオリ、ぼくも・・・おしっこ・・・もらしちゃった」


リョウはおしっこを漏らしながら、頬を赤らめてサオリに言った。


「リョウくん・・・」

「うん・・・」

「私がしちゃったから、わざとしたの?」

「うぅん、僕も、我慢・・・できなくて・・・トイレ間に合わなかっただけ」



リョウが自分のためにわざと、パンツを濡らしてくれていることに、サオリは涙が出るほどうれしかった。


「だめだよリョウくん・・・」


でもサオリは、リョウへの感謝の気持ちを、どう伝えていいか分からなかった。



「おしっこ漏らすと、パンツってこんなに、あったかいんだね」



サオリの目の前で、まだ短パンから水を滴らせながらそう無邪気におどけてみせるリョウを見て、少し気持ちが楽になったサオリは、さっき自分がおもらしの途中でリョウに手を引かれたため、おしっこがまだ残っていることに気がついた。


《私にできること・・・そうだ》


「ねぇ、リョウくん・・・」


サオリは思いきってそう言うと、目を伏せて少しためらったのち、わざとふたたびパンツの中におしっこをあふれさせた。自分の下腹部からおしりにかけてもう一度熱い水流が渦巻き、両脚を伝っていくのを感じた。


「あ、サオリ、わざとしちゃったの?」

「うぅん・・・私も、我慢・・・できなかっただけ」

「パンツ、あったかいでしょ?」

「うん・・・すごくあったかくて・・・気持ちいい」



リョウとサオリは、はにかんで微笑みあった。


パンツの中に広がる温かさを感じながら、足もとにおしっこが広がっていくのを見下ろしていたサオリは、器楽の総練習を前にして今まで自分を支配していた不安や緊張感が、一気に解けて身体ごと楽になっていくのを感じていた。


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