私、きっと、おもらしする
立ち位置の確認のためクラス順に入退場の練習をしたあと、今のような並びとなって1時間ほどが過ぎようとしていた。給食のあとの2時限続き、時折風が吹き抜ける寒い室内での肌を露出した格好、身体を動かさないままの説明が、沙織の尿意を高めていったのは確かだった。
でも原因はそれだけじゃないと、沙織は感じていた。教室でブルマーに着替え、涼と言葉を交わしたときから沙織を支配している不思議な気持ちのせいかもしれない・・・
「沙織、トイレに行かせてもらえば?」
沙織の隣の友達が、沙織の様子に気づき耳打ちした。尿意を悟られないようにカムフラージュしてきたつもりだったが、友達にそう声をかけられたことで自分の気持ちを見透かされた思いになった。
実はおしっこしたくてたまらない・・・そんな気持ちをもう紛らすことができなくなった沙織は、
≪どうしよう・・・ここで漏らしちゃったら・・・≫
と、切迫する尿意に次第に自分が追い詰められていくのを感じていた。脚も下半身も、ふだんの感覚を失いはじめていった。
《どうしてもトイレに行かなくちゃ、でないと・・・》
《これからどこかで行く機会が・・・それともこのまま・・・》
沙織は答えの出ない難問に自問自答しながら、結論が出せないまま、ずるずると時間の流れに飲み込まれていった。その時間がさらに刻一刻と沙織の尿意を高めていった。
沙織は、ブルマーから伸びる片ひざを曲げるようにして耐えながら涙を浮かべていた。「はやくいっといでよ」小声でそう言った友達の声も、もう沙織には聞こえなかった。
「トイレ行かせてもらえばいいのに・・・?」
「我慢できなかったらどうするの・・・?」
遠くから、生徒がそう話す声が聞こえた。沙織は、それが自分のことを差しているのだと思い、ますます沙織の心を追い詰めた。
「はっ・・・」
沙織に突然動悸が走った。尿意がある一線を越え、沙織の身体が「我慢できない」ことを予感したからだった。
《もうすぐ、おしっこ漏らしちゃうかもしれない・・・》
沙織は、身体から血の気が引いていった。だが、それと同時に、沙織の心の奥から、シグナルが湧き上がり、それが次第に強くなっていくのを沙織は感じていた。それは、この絶体絶命の状況下にあって、それとは正反対の「甘酸っぱい」シグナルだった。
《恥ずかしい・・・あのときみたいに・・・甘えちゃえば・・・このまま・・・》
でもすぐに沙織は我に返って、その心のシグナルを一生懸命否定した。
《漏らすなんて絶対にイヤ。高校生にもなって、みんなの前で、おしっこを漏らすなんて、ありえない・・・》
限界を迎えた尿意とあいまって、沙織の心は完全にパニックになった。沙織は自分がいまにも壊れてしまいそうだった。
そんな沙織の切迫した状況とは無関係に、みんなの話し声がひときわ騒がしくなったとき、急に先生の怒鳴り声が会場に響きわたった。
「聞いてるの!? みんな静かに!!」
先生の怒鳴り声に、あたりは一瞬にして静まりかえった。
沙織はびっくりして身体が硬直した。そしてまるで気を失うように、沙織の視界が白くなっていった。
『ジャァァァァ・・・』
床におしっこが飛び散るような音が、遠くで聞こえた気がした。