第一幕 7話 ただの学生とは
今日も今日とて蒼玲学園に通う。ただ今日は一つだけ、いつもとは少し違う光景があった。俺の下駄箱に、得体の知れない茶封筒が入っていたのだ。
此処で過半数の人間はラブレターかとワクワクしながら中を開けるだろうが、俺はコレの中身をすでに知っている。
所謂……典型的な、いじ……あれ?
いつもなら紙の中身の内容は「凡人が怜様に気安く近寄るな!!!」
とか「死ね!!!」「消えろ!!!」といった熱意の溢れた『怜信者』からのコメントだと思っていたんだが……
あ、怜信者というのは怜の事を神のように崇め奉っている一部の生徒達のことである。
成績、運動全般共に学園一位。更に容姿も整っているやつだ、神と崇め奉られていてもおかしくないだろう。
この紙に書かれた内容はこうだ。
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今日の放課後、校舎裏に来い。
来なかったらどうなるか分かってるよな?
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短っ、このくらいなら直接口で言ってくれよ。わざわざ封筒を開けて見た俺の手間と時間を返してくれ。
「まったく、やれやれな奴らだ。」
『それで、お前はどうする?行くか、行かないか』
頭の中から聞き慣れた声にそう問いをかけられる。
「いつも通りだよ、適当に見つからない所に封筒ごと捨てて普段通りに一日を過ごす。それだけ」
そう淡々と告げるとコイツは少し黙り込んだ後に小さく呟くように言う。
『……気をつけろ、俺のただの憶測に過ぎないが、……多分これを書いた奴らは、』
『お前を、隙あれば殺そうと考えている。』
そう言われてさっきまで浮かべていた悠々とした表情は一気に真剣な物へと変化した。……死。それは世界の気まぐれ、はたまた誰かの意図された計算によって引き起こされる、逃れられない運命のこと。
そして恐ろしいのは、コイツが言った事は間違いなく的中すると言う事。それは今までの人生で嫌なほど思い知らされてた。
この世界で人殺し、は割りと普通にある。それこそ自分が生まれ持った特殊体質を利用して行うものだとか。異能力を使った殺人は痕跡が残りにくい、そのせいで証拠不十分として捜査を打ち切りになり……犯人を簡単に逃がしてしまう。
『どうする、零。……俺の提案としては少しの間、体の主導権を移していつでも襲撃に備えられるようにする。俺なら一般学生複数人を相手に奇襲されても容易に葬れる確たる自信がある。』
「それはつまり、怜信者に殺される気配がなくなるまでお前が俺の体を乗っ取ると言う事で合ってるよな?……普通に嫌に決まってるだろ」
そもそも、どう言う原理で俺の体を乗っ取れるのか謎でしかない。
でも事実として、実際幼少期に一度だけそう言う現象が起きたことがある。歩道を歩いていた時に、目の前から暴走した車が飛び出してきて轢かれそうになった瞬間、世界が一瞬で暗転して、目を覚ましたら怪我一つなく後ろの壁に激突した車の上に立ち尽くしていた。
その時のことを聞いてみたら、『あの時は主導権を無理やり俺に移した。』と言っていた。
もしかしたら、コイツは異能力を持っていてそう言う系統の異能力なのかも知れない。……何の根拠もないけれども。
『となると、何か作戦があるのか?』
全くもってあるはずが無い。ただ何故殺そうとするのかが分かれば、その要因を排除できる。
何故いきなり『命令』が『殺意』へと転じたのか、最近の出来事を振り返る。
……そうだ。思い返せば簡単じゃないか。
月城紗白と仲良くなってしまった。ただでさえ学園一の天才と仲良くしているだけでも腹立たしかったのに、それが今度は学園中で引っ張りだこにされている転校生とも仲良くしていると聞いてしまったら、、、
確かに、殺したくもなってしまうかもな。
「それなら、二人と距離を置くのが平和的解決、か」
そうやって悩んでいるのが少し面白いと思ってしまった。こうやって目的の事なんてまるで無かったかの様に、ただこれからの学園生活について悩んでいる自分の姿が普通の学生みたいに見えてしまって。




