第一幕 6話 失いたくない日常
「おはよ零さん。」
隣の席から軽快な挨拶が向けられた。
「おはよう月城。」
教室で怜以外から名前を呼ばれる事なんて全くなかったためか、少し違和感を感じる。
「……零が、転校生と挨拶を交わした。?」
呆気に取られた顔をしながら怜が俺の顔をジロジロ見る。
「……偽、物?」
「んな訳あるか、どっからどう見てもいつもの俺だろ。」
「いや、まさか零が他人と話すことが出来るだなんて夢にも思わなかったからさ」
「馬鹿にしてんのか」
ツッコミたい衝動がどうしても抑えきれなかった。すると怜は少し考えるような素振りを見せてからポツリと呟いた。
「……浮、気?」
「お前は馬……俺がどんな奴とどんな関係になろうと浮気にはならねぇよ。つかお前男だろ」
そう言うと怜は少し考える素振りをしてから、
「いや、零なら僕は割とアリ……」
「俺がナシなんだからナシに決まってんだろ」
爽やかな笑顔をしながらそんな事言うんだから余計気色の悪い奴である。
「ハハハッ……今のは半分冗談だよ零」
半分?全部って言ってくれないと恐怖で夜しか寝れなくなってしまうじゃないか。
「あ、確か貴方は、学園一の天才さん?」
不意に背後から落ち着いた声が怜に対して向けられる。
「その呼び方はやめて欲しいな。怜って呼んでよ月城さん?」
その声の正体は案の定月城だった。二人とも容姿といい、頭の良い雰囲気といい、なんか俺だけ場違いな気がする。
「うん、そうさせてもらうね怜さん。」
それで……と二人の声がタイミングよく重なる
「零になにか大切な用事?」
「零になにか大事な用事かい?」
怜と月城の互いに向ける視線が鋭くなったのを、見てしまった。
「……もし、零さんが暇なら少し学園な事について教えて欲しいなって」
「それなら残念だ。零は僕との会話に花を咲かせていた途中でね、生憎暇ではないんだ」
怜は勝ちを確信した余裕の笑みを月城に向けていた。この二人は一体何の争いをしているのか、イマイチ理解できなかった。
「零お願い、私に少しだけ付き合って。……っあいや、付き合ってって言うのはそう言う意味ではなくてっ」
月城は自分の言った言葉で頬を赤らめながら目をクルクル回しながら混乱してしまっていた。
「ハハハ、零を動かしたいなら『付き合う』程度覚悟しなきゃね〜?僕はいつでも零と『付き合う』覚悟は出来てるよ〜??」
怜の圧倒的な攻撃を受けて月城のいつものクールさや落ち着いた表情はいとも容易く破壊されていった。
いつものクールさとは一味も二味も違う、月城紗白の本性。不服ながらその姿に思わず笑みを堪えきれなかった。
***
日は落ち、空は澄み渡る青から黒へと変わってしまった。辺りに街頭一つ見つからないのが、此処が人のあまり来ない場所と言う事実を示していた。
木の葉が音を静かに立て、その後に風が吹く。その風に心地良ささえ感じてしまった。
「久しぶり、父さん。兄さん」
目の前の墓石に向かってそう語りかけた。
『だから、俺がお前の兄だって』
頭の中から聞こえるそんな幻聴すら、此処では耳に入ってこない。
この墓地には今を生きている人間達から忘れ去られてしまった過去を生きた人の墓しかない。その事もあってか、他の墓は何年も掃除されてなく苔に蝕まれていた。その点、父さんと兄さんの墓は綺麗に磨かれている。
いつもは金が無いため花の代わりに四葉のクローバーを見つけてはそれっぽく飾っているのだが今日は黄色い薔薇バラを一本添えた。
「今日、面白いことがあったんだよ」
一人でにそんな話を墓石に向けて話しかける。
学園であったこと、楽しかったこと。
……それから、これは言っておかないと。
「父さん、兄さん。こんな俺にも関わってくれる新しい友達が出来たよ」
『……今のお前、いい顔してる。少し前のお前とは別人かと見間違うほどに。』




