第一幕 3話 天才と凡才《続》
「美味しいー!!このかけうどん!!この出汁がよく効いているつゆが暖かくてあっさりしてるけど、奥深い味わい。なるほど、零が毎日食べている理由が分かるよ〜!!」
決して俺は美味いだけで食べている訳ではない。
『「安いから食べているのである!!」』
怜はまるで新しい玩具を買って貰った時の幼い子供のように、目をキラキラと輝かせながらかけうどんを再度、啜り始めていた。
どうやらかけうどんは、学園一の天才の胃袋さえ鷲掴みにしてしまったらしい。……恐るべしかけうどん。
……そんなこんなで学園一の天才の怜と学園一の凡才の俺が同じテーブルの上でかけうどんを啜っている姿は、食堂にいる生徒達の注目を集めるには十分な出来事だった。
まぁ、大方金持ちでもある怜が安さしか取り柄がないと言われているかけうどんを啜っているのが、異様な光景だったのだろう。食べた事も無いのに安さしか取り柄がないと決めつける……決めつけると言う行為は一種の人間の弱点なのではないかと、個人的に思う。
「ん?どうかした零?」
「いや別に、かけうどん信者が増えてくれて嬉しいな〜って思っただけだよ。」
「かけうどん信者!!??」
鳩が豆鉄砲を食ったような表情を怜がするのは滅多にない事だった。
***
怜は結構いろんな所に足を運んでいる。それは学園一の天才という不動の称号を持っているからなのか。なにか事情が存在するのか。
「変に考え込むのはやめにしよう」
俺は海の中底に沈んでいる宝石を拾わない側の人間だ。変に疑い深く探ってもいいことなんて一つもありはしないのだから。
もし、海の底に一生遊んで暮らせるくらいの価値ある宝石が沈んでいたら、多くの人は死に物狂いで取りに行くだろう。
ただ冷静に考えれば分かることだ。この広大な海の中からそんな宝石一つを見つけるのなんて、あまりに無謀な挑戦チャレンジだと。
「もしその宝石をあっさり見つけたら見つけられたで、きっと苦しいだろうな」
一度簡単に宝石を見つけてしまえば、人は欲が働いてしまう。
もう一つ、あと一つって。
結局宝石と言う名の偽りの希望に照らされた時点で、どう転ぼうがバッドエンドっていうね。
『まるでギャンブルだな』
「人の欲を上手く利用した、面白いギャンブルさ」
そんな事を考えながら俺は屋上への階段を登っていた。
この学園の屋上は飛び降り自殺者が出たあと閉鎖され、今では鍵を持っている先生か特定の人しか入る事が出来ない。
といっても、先生が来る事は全くなく一人で時間を潰すには絶好の場所なのだ。
着ているフード付きパーカーの右ポケットを探り、錆びた古い鍵を取り出す。それがどこの鍵かなんて容易に見当がつくだろう。
ガチャッ と言う音と共に屋上へ繋がる扉のドアノブをゆっくりと回して、ギィィィという音を鳴らしながら扉を開ける。
扉を開けた先には、見慣れた広い屋上と……
…………一人の少女が佇んでいた。……




