第二幕 9話 強盗集団には『裏』がある《中局》
急に目の前に現れた俺を見た二人の男女は一瞬、呆気に取られた表情を見せたが俺が一人だけな事を知ってか、次第にその表情は余裕の笑みを浮かべ始めていた。
「俺が最初に見つけたんだから、俺の獲物って事で良いよな?」
「いいけど殺しちゃダメよ?ボスに受け渡せばご褒美が貰えるんだから」
ケラケラとひとしきり笑った後、一気に間合いを詰めてきた。
さっきの見張りとは別次元の戦闘能力、少しでも油断したら間違いなく瀕死に陥る!!
「オラァアア!!!」
そんな雄叫び声と共に何処からか取り出された長斧が真横から思い切り襲ってきて、その刃が横髪にかする!!
――咄嗟に体制を下げかろうじてその攻撃を交わす!!俺に当たらなかった長斧は途轍もない轟音を立てながら空を裂いていった。その体制のまま足に力を込める。
当たらなかった事に困惑した表情を浮かべた男の首元を視界に捉える!!瞬時に距離を詰め、首元に向かって短剣が上手く突き刺さる!!
「てっ、テメェ……」
そう吐き捨てて首元を抑えて床に倒れていった。
「えー、これ私も殺されちゃう?」
目の前で仲間を殺されても尚余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)でいる姿が、狂人らしいなと思う。
「言っておくけど私、そこの男より強いから」
ふふふ、と不気味な笑みを浮かべて腰に巻いているポケットの中からジャラジャラと小型ナイフのナイフをいくつか取り出す。
恐らくそのナイフを投擲して戦闘すると言ったものだ。であれば下手に動くのは危険かも知れない。
両者一歩も動かない、緊迫した時の流れは永遠に終わらないようにまで感じる。
何か企んでいる?いったい何を、目の前の女は未だナイフを投げる素振りすら見せない。
そこで気づく今ニヤリと口角が上がったのを、何を仕掛けて来る?
『後ろだ』
その言葉が聞こえたと同時に短剣で防御体制をつくり後ろを振り返る!!──その直後、重い金属音と共に短剣の剣先から火花が散った!!
何が起きた!?短剣の剣先に目を向けるとそこにあったのはさっきの男が持っていた長斧だった。
一旦距離を離す。そこでようやくこの異様な事態が起こった事を理解する。
『しっかり殺したはずの男が生き返った。まるで魔法の様に……』
呼吸を整える間もなく三本のナイフがどこからか飛んでくる!!顔に刺さる直前で、頭部を僅かに左に動かしてその攻撃を回避する。
「ちょろちょろ逃げ回るのが好きな子ネズミちゃんだね?」
ナイフを手で遊ばせながらその女は乾いた笑い声を上げる。その隣には先ほど息の根を止めたはずの男が長斧を持ちながら呆然と立ちつくしていた。
男の首元をよく見ると、傷口が不自然に塞がっている様に見えた。
「……異能力者」
だとしたらどう言う体質だろうか、一見すると男の傷口を回復させたことから治療系の可能性が高い。治療系とは動物、植物などに安らぎを与える特殊体質の事を言う。
けれど、治療系と決めつけるには何処かが不自然だ。
その不自然を見つけようとするのを妨げるようにナイフの嵐が襲う!!それを交わして行くうちに、女が腰にかけているポケットの中にあったナイフのストックが空になったのを把握する。
ようやく隙が出来たと考えている隙に、今度は背後から男の長斧が力任せに振られるッ!!短剣を逆手に持ち替えて防ごうとするも威力が高すぎる故に遥か後方へ吹き飛ばされる。
吹き飛ばされながら、空中で体制を整えて懐にしまっていた拳銃を取りして……一発男のこめかみに向かって発砲する。
「うおおああおお」と雄叫びを上げながら床に倒れると共に、地面に着地するはずだったが壁に背中から激突してしまった。
どうやら、想定していたより小部屋だったらしい。
「……ァア……ウゥ」
首元を短剣で刺し、こめかみに弾丸を一発命中させた……なのにまだあの男は息をして立ち上がろうとしている。ゴキブリ並みの生命力、いや……ゴキブリを超えた生命力だ。
『それだけじゃないはずだ、女の方を見てみろ』
途中から余りにもベラベラ喋らなくなるもんで、すっかり忘れていた女を見て、違和感に気づく。
「あの余裕の笑みは何処へいったのか、青白い顔で腕時計をチラチラ見てるな」
いくら手持ちのナイフが無くなったとて、状況は未だあちらが有利なのにどうしてそこまで焦っている?
短剣で首元を刺した後から、あの男がまるで傀儡の様な動き方で猛獣のようにまともに言葉を喋らなくなったのは、何故?
──ひとつの推測が脳裏をよぎる。あの女の特殊体質は治癒系なんかではなくて……死者を冒涜するモノなのじゃないかと。
一歩、一歩、長斧を引きずりながら今にも倒れそうな歩き方で近づいて来る男に哀れみの表情を向けざるおえない。
『どうやら、俺と同じ結論に着いたようだな』
瞼をそっと瞑る、目が見えなくても男が目の前まで来たのがなんとなく分かった。
長斧がゆっくり持ち上がっていく音が間近で聞こえる。
余裕の無い焦った表情、
腕時計で時間を確認する理由、
何度もアンデットの様に立ち上がる目の前の男、
その姿は、とても生き人と呼ぶには程遠い……
操り人形、傀儡、そっちの方が今の彼には相応しい
この女の特殊体質は何か?その答えへと導くピースは今、完全に埋まった。
なかなか男が振りかぶっていたはずの長斧が、頭上に落ちてこない事を確認して瞼を開ける。
そこには長斧を頭ギリギリまで振りかざした状態で動かなくなった男の姿があった。その姿を確認した後に、女のいる方に顔を向ける。
「貴方の特殊体質は、死体を生きた屍として操る事が出来ると言うモノ……ただし操れる時間には制限がある。大方こんな感じですかね」
女はさっきより更に顔を青ざめて唖然としてしまっていた。図星だったらしい。
「ま、まだだ!!私は負けてない!!」
尻もちをついた後、壁にナイフが突き刺さってるのを見つけると、死に物狂いで床を這いつくばった。
そんな女に向かって俺は歩き出す。短剣を右手にしっかり持って。
「……く、来るなぁああーー!!!」
壁から抜かれた一本のナイフが、真っ直ぐ飛んでくる。この女の強みは、圧倒的なナイフの量が永遠と顔目掛けて飛んでくると言う所だった。
顔面に目掛けて飛んできた一本のナイフを、人差し指と中指の間で挟んで、地面に投げ捨てる。その光景を目の前で目撃した女の眼には、一欠片の希望も残ってない様に見えた。
「……まだ、私は……負けて」
「タイムアウト」
女の眼前まで来て、そこでようやく足を止める。
今、この女から見た俺はどの様に映っているのだろう。 地獄に連れて行こうとする悪鬼? 食事を始めようとする夜叉? いやどれも違う、その眼に反射した俺の姿はそんな生ぬるいモノには見えなかった。
「……死、神?」
死神……死を司る、あるいは魂を冥府へ導くとされる超自然的な存在のこと。
そんな姿を連想したんだ、それなら……死神みたく一振りで全てを終わらそう。
短剣をいつもより大きく振りかぶる。
「タイムアウト、ゲームオーバーです」
その言葉と共に、短剣を勢い良く女の首元に振りかぶった。死神が命を刈り取る時と同じ様に──
『お前ってこう言う危ない戦闘をしてる時、楽しそうだよな……そんな戦闘狂だったか?』
「……違うよ、こうしてる時は過去の事とか何も考えなくて良いから楽」
『人質の場所は、吐かせなくてよかったのか?』
「……あ」
……そう言うことは先に言ってよ。
持てるだけ火薬を懐に入れて、俺はその場を後にした。
火薬庫の屋上で、ようやく一息ついてからスマートフォンを開く。
ターゲットリストの欄でさっきの男と女を探す。
あっ、いたいた。
鬼塚剛斧38歳、罪状 連続殺人
組織地位 代表執行役
代表執行役って、この組織の方だと高い方なのか?
相沢恒一子39歳、罪状 連続殺人他多数、組織地位 幹部
……うん、そこら辺の手駒が持ってはいけない特殊体質だったからね。そんな感じだと思ってたよ。
「幹部がボスと言う訳でもなさそうだし、やっぱりあの廃倉庫にボスも人質もいるのかな」
『慎重に進もう』
次が今回の正念場になりそうだ。
そう思いながら、別の建造物の屋根に飛び乗るのだった。




