第二幕 8話 強盗集団には『裏』がある《序局》
入り組んだ森を進んでいると、遠くから炎の灯りが見えてきた。
鉄骨に錆びたトタン張りの使われなくなった廃倉庫を拠点にして、その周りには大量に積まれた箱と車、いくつもある焚き火、見張りの人影が多数いる。
それを確認して、万が一見つからない様に木の影に潜む。
「此処で合ってるみたいだ」
『絶対集団強盗以外にもやってるだろうな』
「間違いない……これは長くなりそうだ」
直後スマートフォンが振動する。何事かと思い開くと、その中身の内容に唖然としてしまった。
只今、貴方様が受注された任務に新たな情報が入りました。
任務 ターゲットに当たる対象全ての殲滅
強盗集団全体罪状 強盗致死罪
複数人時死亡リスク34% 基本的死亡リスク87%
訂正
任務 ターゲットに当たる対象全ての殲滅、及び捉えられた人質の救出。
組織全体の罪状 強盗致死罪、覚せい剤取締法違反、誘拐罪、殺人罪等
複数人時死亡リスク56% 基本的死亡リスク91%
尚、今回の任務は我々に不手際がありましたので依頼取り消しをした際のペナルティは発生しません。
「91%……」
殲滅規模が余りにも大き過ぎる所為だろうか。いや、だとしても高すぎだ。
これ程にまで死亡リスクが高い任務は今まで数年に一度起きるか否かくらいのものだったのに。
『零、どうやら変更されたのは任務内容だけじゃないらしい』
その言葉を聞いて俺は再度、資料に目を通す。
そこで、俺はとんでもない変更点を見つけてしまった。
特殊体質を持つ人間、別名異能力者。
ごく稀に遺伝や突然変異によって特殊な固有能力を持つ体質になってしまった人間のことを指す呼び名だ。
厄介なのはこの異能力を事前に知る術が無い事と、相手の手の内がどれ程あるのかまるで分からない点だ。
つまり異能力者を一人相手にするだけでかなり骨を折るという事、なのにこの資料には途轍もない内容が記されていた。
「ターゲットにあたる対象全員が特殊体質持ちで構成されている可能性大……か」
『今回は運が悪かった。さっさと依頼取り消しをして大家のおばちゃんに家賃の延期をお願いしに行くぞ、きっとおばちゃんならこっちの事情も分かってくれるだろ』
運が悪かった……その言葉がしっかりと来た。早く帰らないと大家さんを心配させてしまうかもしれない。スマートフォンを下へスクロールしていって依頼取り消しのボタンと、もう一つの資料が目に映ってしまう。
……捉えられている可能性のある人質リストと書かれた資料
そこには大勢の人の顔と名前がそれぞれ記されていた。
この人達の中には、まだ生きてあそこに捉えられている者も居るのか。
父さんだったらどうするのだろう。自分が殺されると理解していても全員を助け出そうとする姿が脳裏をよぎる。
兄さんだったらどう行動するのだろう……きっと一度計画を練り直してから、再度来て救える範囲の人間を華麗に救い出していくのだろう。
それじゃあ、俺は?父さんの様な圧倒的な力も、兄さんの様に戦略的な戦い方も出来ない、それなら
「……もし、今から依頼を完遂しに行くと言ったら、お前はどうする?」
しばらく考えた後に頭の奥から返答が返ってくる。
『全力で止める……と言いたいところだが粗方人質を救い出したいと思ったんだろうな、最初からお前がそういう思考になるのは想定済みだ。』
なんせ俺の自慢の弟だからな、といつも通りのセリフを付け足した。
「なら、俺と共に死んでくれ」
『背後は俺に任せろ、お前はやりたい様にやれ。全力でサポートする』
その言葉を聞き終えた後、懐にしまっていたマガジンを拳銃に装填してスライドを少し後ろに引き、スライドストップの固定を解除する。
スライドを離すと同時にカチッという音が森の静寂を破る。
「……あ?なんだこの音は、誰か潜んでんのか?」
見張りが一人その音に気づいて近づいて来ていた。
「見慣れねェ足跡……まさか侵入者か!?」
周りの連中に侵入者の存在を知らせる為に叫ぼうとした見張りの男の背後に回り口を手で押さえて短剣を首元に当てる。
戸惑った様子を見せたその男は状況を理解したのか懐にしまわれていたナイフと背にかけていた小銃をゆっくりと地面に置いて両手を上げた。
「人質をどこに捉えているのか、教えて下さい」
男の首元に当てた短剣に少し力を入れながら聞く。
「し、知らない!そう言うのは俺らなんかの下っ端が知れる品物じゃねェよ!」
「本当に知らないんですか?」
圧をかけた口調でもう一度問いただしたが、首を縦に振るだけだった。
「では人質がいる場所を知っている方は何処にいますか?」
「ア、アジトの中にいる奴なら知ってるハズだ!俺は知らねェよ!」
震えた指で大きな廃倉庫のある方向を指した。……良かった、情報が少しでも聞けて。
「もう……良いだろ?な?言える事は全て言った!もう答えられる事はない!」
「何か犯した罪があるなら、今の内に教えてください。無いなら解放します」
「……ねェよ!俺はまだ何もしちゃいねェ」
短剣を首元に押し当てたまま、空いている左手でスマートフォンを開きターゲットリストを確認する。その中から一人、それらしき人物を見つけた。
鈴木恒一、年齢32歳、金髪で耳と舌にピアス、チャラい顔立ちといい見た目の特徴は完全に一致している……罪状は、
「……鈴木恒一さんで合っていますね?」
「なんで俺の名前を……」
刹那、この男の首筋を短剣が裂いて行った。
鈴木恒一、罪状……不同意性交等殺人罪。別名強姦殺人。
『こう言う奴ばっかりだよな』
「……アジト内部にある周りの構造物の屋根を伝って廃倉庫に侵入することしよう」
足に力を入れて近くにあった構造物の屋根に飛び移る。ひとまずアジト内部への侵入は成功、あとは廃倉庫に見つからない様にして向かえば良い。
「こんなに火薬を保管してどうするっつーんだ」
屋根の下から男の声が聞こえてくる。この構造物は火薬庫だったらしい。
「そんなこと言ったって仕方ないでしょう?あの方のご命令なんだから、ほらさっさと行きましょう」
今度は女の声が聞こえる。あの方、とは誰の事か気になる。
「なぁ待て待て、さっきからアジトじゃ嗅いだことのねェ人間の匂いがするんだよ」
「……あんたの体質便利ね、侵入者かしら?」
「う〜ん、上だな……なあ!!聞こえてるんだろ!!」
叫び声が耳をつんざく。恐ろしく人間離れした嗅覚、どうやら異能力者のご登場らしい。
『どうする?俺はこの場を離れることをおすすめする』
「……火薬が少量欲しい」
『火薬?そんなの使っていったい……取り敢えず今は目の前の事優先か』
二対一はコッチの分が悪い、と言う事は相手が油断している可能性があるとも取れる。
『俺がいるから二対二で対等だ』
「確かに、ならサポートを頼む」
俺は拳銃をしまって短剣を掴み直す。室内戦なら銃より短剣の方が長けていると思ったからだ。
周りに気づかれないように屋根から飛び降りて火薬庫の入り口に着地し、その二人と立ち合うのだった。




