第二幕 6話 私生活には『裏』がある
『そう言えば良かったのか、』
「良かった……て、なにが?」
昨日の件で疲弊していた俺にそんな声が降りかかる。懐中時計の時刻は、午前の8時を差していた。
『昨日普通に「月城はどうしたい?」って聞いてたもんだから……ほら?本当に初対面なら名前知らないはずだろ?なのに月城って呼んでたら、俺はてっきり正体を隠したいと思っていたものかと』
「……え?」
言ったっけ?……いや、言ったね、俺。
どうしよう、終わった。……人殺しだとバレてしまった。
『その表情、故意的に言ったんじゃなかったんだな』
「……今から誤解、解けるかな」
『気づいていないに、賭けるしかないだろうな』
ですよね〜。
『まぁ元気出せよ、気づいていない可能性も無きにしも非ずだからさ』
「今回は相手が悪過ぎるよ、その可能性に気づかない可能性0%だ。なんせ頭が良すぎる」
明日からどうやって顔を出せばいいってんだ。
「俺が殺人者だと知ったら月城、警察呼んで捕まえるかなぁ」
『紗白の性格からしてそれは無いだろ。多分』
「その多分ってのが怖いよ」
今からでも、作戦とか立てたほうがいいかな。
いや、まずは先にやる事ができたな。
ドンドンと玄関の扉をノックする音が聞こえる。そーっと扉を開けると、親の顔より見た光景が目に映ってしまった。
「零ちゃん!!また今月の家賃払ってないでしょうー!!」
「本っ当にすいません!!」
このピンク髪のパーマ頭でオカンみたいな人はうちのアパートの大家さんであり、俺の生活事情を知っている数少ない人の一人である。
「午後にちゃんと渡せるんで待っててくれませんか」
「まったアンタあの仕事しに行くの!?やめときなさい!!危ないんだから!!」
「大丈夫ですよ、それに……大家さんの様な人が危ない目に遭わない為にも、やっておいた方が得なんですよ。一石二鳥って奴です」
「確かにアンタのお陰でアタシ達は割と平和に過ごせてるのは確かだけどねぇ」
少し困ったように腕を組んで考えた後に、大家さんの大きな手が頭に乗せられる。
「アタシはそれでもアンタが心配だよ」
その大きな手で無造作に荒っぽく頭を掻き回される。ただそこにある優しさはしっかりと伝わってくる。
「そんじゃ、頑張りなね!!」
去っていく大家さんに愛想よく手を振る。本当に優しい人だよなぁ、としみじみ思う。
ガチャリと扉を閉めたあと、本部と呼ばれる所から支給されているスマートフォンをポケットから取り出す。
『また行くのか』
行かないとお金が無いんだよ、と内心思いつつスマートフォンを起動してとあるアプリを立ち上げる。アプリから指紋認証を要求されたのでそれに従う。
そのアプリを開くと同時に、画面が埋まる程の文字の羅列が並べられる。
そこには任務と左側の欄に書かれており、右側にはそれぞれの基本的死亡リスクと言う文字と共にパーセントが記されていた。
この仕事が何か?答えは簡単。殺し屋と言う奴だ。
ただこの組織は少し他の物とは違い、上から支持されて任務をこなすのでは無い。
自分でやりたい時にこのアプリに表示されているリストの中から仕事を好きに選んで、こなして、報酬を受け取ると言った自主性の高い独自の方法が使われている。
そして、ここのリストに入っている人間の9割は表の社会で裁けなかった者や平和を故意的に乱している奴らだ。
一般的にこの組織のリストアップの方法は個人、または団体からの殺害依頼を頼まれて、そこから組織側がリストに入れるか否かを判断する。
組織側はこの世が不平等にならない事を目的としていて、言ってしまえば法で裁くことが出来ない奴らを武力で裁いてしまうと言う事だ。
『少し、暴力的過ぎないか?』
「その感性は人それぞれだと思う。事実、俺はこのやり方は好きだ」
リストを一つ一つ見渡す。右側に書いている基本的死亡リスクが高い物を選んでいけば、それ相応の報酬が貰える。それこそ高い奴は数千、数億とか。
俺はその多くを被害者の遺族達に寄付しているから手元にはほぼ残らないようにしている。人殺しで金持ちっていうのは違う気がするし、……父さんや兄さんはそんな事しないと思うから
「これにしよう、集団強盗殺人」
依頼受注のボタンを押す。依頼は途中でキャンセル出来ることもあるがそれをし過ぎると組織からの信頼は右肩下がりで落ちていき、表示される依頼も少なくなる。
『その依頼の死亡リスクは?』
その依頼の詳細には基本的死亡リスクと複数人時死亡リスクの二つに分かれていた。俺は複数人で依頼を受けないので基本的死亡リスクに分類される。
複数人時死亡リスク、34%
基本的死亡リスク……
……87%




