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クローバーには「裏」がある  作者: せつな
第二幕 素敵なあの子も『裏』がある 1〜
18/25

第二幕 5話 高貴なレディには『裏』がある 《続》


 その大木は近くに寄れば寄るほど堂々とした立ち振る舞いを見せていた。


 木に身を委ねて根元に腰を下ろしたのちに、月城が木を挟んで反対側にいることに気がついた。


 「お名前、なんて言うんですか」


 木の向こう側から、そんな声だけが聞こえてくる。


 「好きに呼べばいいよ、殺人鬼でも、化け物でも」


 「それじゃあ黒い狐さんで、いいですか」


 随分と人殺しには似合わない可愛い名前だな、とキラキラ輝く星々を見ながら思った。今日はどうやら雲ひとつ無い、澄み切った夜空のようだ。三日月がよく見える。


 「黒い狐、分かりやすくて助かるよ」


 カレーパンの袋を開けながら返事を返す。袋の開いた隙間からほのかなカレーの匂いが溢れていた。


 「黒い狐さんにはご両親や兄弟はいらっしゃいますか」


 「居たよ」


 その返答を聞いて、何か駄目な事を聞いてしまったのを察したかのような様子で、黙り込んでしまった。


 「今は居ないけど確かに昔は居た、俺に優しく接してくれた父さんと兄さんがね。その事を確かに憶えていれば、それは本当の『死』にはならない。あの優しさも、温もりも、心の中で生きているから」


 「なんて、ただの戯言に過ぎないんだけどね」と付け足してから、まだ袋の中に入っているカレーパンをそっと側に置く。


 「……黒い狐さんは、家族が好きですか」


 いつもよりか細くて、弱々しい声色で、月城は聞いてくる。


 「勿論好きだよ、月城は?」


 「……私、は」そう言って、深く悩みこんでしまった。月城家はかなりの上流階級だから、特殊な悩みがあるのかもしれない。


 「分かりません。私が家族のことを好きなのか、それとも嫌いなのか」


 「それが、家出した理由?」


 ギクッと月城の声が溢れる。やはり図星だったようだ。


 「どうして分かったんですか?」


 クスッと微かに笑ったような声が聞こえてきた。その声色は少し明るいものになった気がする。


 「秘密」


 そう言い終えてようやくカレーパンに手を出そうとした所で、月城の話に続きがある事を知り手を引っ込めた。……俺とカレーパンの距離が近いようで果てしなく遠く感じた。


 「新しい友達が出来た事を、お父様に話したのがキッカケでした。」


 カレーパン、どうやら君を食べれるのは随分後になってしまいそうだ。


 「今日。お父様はいつもより早く帰っていて、私に最近の学園生活はどうか、といい機会だと思って新しい友達の事を紹介したんです」


 お父様?言い方が少々上品過ぎないか?確かに俺も父さんの事を尊敬してたけど、それでも「父さん」って呼んでいたのだが


 ……ふむ。俺と月城は別次元の存在だと言う事を改めて再確認した。


「お父様は、『けしからん!!お前がそこら辺の低俗な男達と親しくするなど良い訳ないだろ!!お前はただでさえ推しに弱いのだから何かされる可能性も、』と。……それで、折角友達になれた人達を()()だなんて言われたのが、ショックで、無我夢中で家を出てしまって」


 その友達とは俺と怜の事を指しているのだろうか、だとしたら……低、俗?仮に百歩譲って俺が低俗だと言うのは、分かる。確かに高貴な人々からしたら俺と言う存在は低俗な人間なのかも知れない。


 怜が……低、俗?こういう事を心中でつぶやいてしまうから低俗認定されるのかも知れないが一つ、言わせて欲しい。


 頭に花でも咲いてんのか


 まぁ誰にでも勘違いの一つや二つあるものだ。一旦、元の話題に戻そう。


 「多分、それはね……親バカって奴だね」


 「そうなん、ですか?」


 「うん、間違いない。黒い狐が保証しよう」


 俺が知っている親バカと言うのは、子がほんの僅かにでも危険に晒されると必死に守ろうとする様子の事だ。


 あれは俺が五歳くらいの頃だったか、何か父さんの手伝いをしようと思って料理をした事がある。その時フライパンの油が弾けてちょっとした火傷を右手に負ってしまった。


 そしたら父さんが濡らした冷たいタオル片手に慌てて駆けつけてきて右手にこれでもかとタオルをグルグル巻きにしたんだっけ。


 その様子を見てて「親バカだな〜」って思った事がある。


 「これからどうするのが正解なのか、私には分かりません」


 立ち上がって「正解、ねぇ?」と呟きながら大木のみきに手を当てながら反対側に向かう。


 そこには、膝を抱えて背を丸くした月城の姿があった。


 月城の頭にポンッと軽くて手を乗せる。こういう時どう言うのが()()なのか、今はまだ分からない……だから、俺が言いたい事を言わせて貰おう。


 「なにが正解で、なにが不正解なのか。そんな事を必死になって考えた所で答え(アンサー)は出てこないし、現実に疲れてしまう」


 「だからこそ、分からなくていい。自分がやりたい事をして、言いたい事を言えたなら合格点だ」


 月城はどうしたい?、と問いかけると少し悩んだ末に答えを出した。


 「お父様に、もっと、ちゃんと友達がどう言う方達なのかを説明したいです」


 そう言った月城の姿は、月夜に照らされて一段美しさが増していた。


 何処からか高そうな車が来て公園前に止まる。アレはロールスロイス、と言う奴だろうか。車種なんて俺には知らない次元過ぎてまるで分からない。


 「なら、頑張れ」


 月城の背中を押して車の方に促す。


 「今日はありがとうございました。それと、おにぎり美味しかったです。」


 それじゃ、と言って車に乗せられて行ってしまった。


 ……よくおにぎり食べながらあんなに滑舌良く話せたな。素直に感心してしまった。


 『零、囲まれている。6、7人くらいだ』


 今度は俺が獲物になってしまったらしい。急な展開というよりは、途中からその気配には気づいていたので分かりきったことだった。


 大方、誘拐して臓器ごとに体をバラバラにして闇市で売るんだろう。……この世界での夜の散歩を素人にオススメしないのは、必ずこう言う目に遭ってしまうからである。


 あらかじめ濡れた手拭きで拭いておいた焼き鳥の串を獲物にして、右手で構える。


 「それじゃあ、始めようか」



 ――獲物の逆転劇を――



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