第二幕 4話 高貴なレディには『裏』がある
「あっ、すいません。人違いでした」
月城は、そう謝りながらもどこか腑に落ちないような様子だった。おそらく、家の中から持ってきた黒い狐面を被っていたから俺だとは気づけなかったのだろう。
夜中に外出する時はよくこの仮面を持ち歩いている。……まさにこういう場面に出くわした時に顔を覚えられたくないからだ。
「先程は、危ないところを助けていただき、ありがとうございました」
そう言って、礼儀正しくとお礼をした後になにかを思いついたかのような素振りをする。
「もし宜しければ、時間がある時に何かお返しさせてください。」
「いや、気持ちだけで十分だよ……そう言うのは見知らぬ人にする様な事じゃないしね。この世界には怖い人達が腐るほど居るからさ。」
違和感。いつも学園で話している時より一挙手一動がお嬢様らしいと言うのか、クールと言うのか。
「……そう、ですよね。私もいつもだったらこんな事言ったりしないんですけど、何故か」
気恥ずかしそうに笑顔を浮かべた月城の髪が風にそっとなびいていた。
「貴方になら、変なことされないんじゃないかなって思ってしまって。似てるんです、私の友達と」
う、うぐっ。そりゃ似てますよ、なんせ貴方の友達本人ですからね?……言ったほうがいいのか。い、いや目の前の狐面を被った人殺しの正体が友達だったと知られたら間違いなく幻滅されるよな。
そんな事を考えている俺は随分と混乱している様子を顔に出してしまっていたが仮面のおかげで全く気づかれていなかった。
思考を極限まで働かさせても正解がまったく分からない。
「人殺しなんてこの世界じゃ稀なもんでも無いんだし正体を明かしてもキット大丈夫だぜェ?ブラザー」と俺の中の悪魔っぽい奴が囁く。
「折角仲良くなった友達が狐面を被って人殺しを行ったヤバい人だなんて知ったらあの子、キットこれから誰一人として信じられなくなってしまうと思うよ?」と俺の中の天使っぽい奴が諭す。
この二体の共通点はどちらもキット、であり明確な確証が全く持って有りはしないと言う事である。
そんな事を考えていたらお腹が大三戦力としてクゥー、と言う音を掻き立てながら仮想のゴングへと乱入してきたー!!
「とりあえず、俺は公園の木の根元で食事をとる。」
そう言って遊具もベンチもない公園の、中央に生えた大木を指差す。地面から這い出た木の根が、良い感じに座り心地の良さそうなものになっていた。
そして、第一回戦。最終試合を制したのは食欲だー!!腹が減っては戦はできぬと武士も言っていた事だし。俺は今何と戦っているんだ。……ふぅ。
「月……お前は出来るだけ早く帰りなよ。親が心配していると思う」
危なかった、普通に月城って呼ぶ所だった。コレが巧妙なトラップっていう奴か。
「まだ、あと少しだけ。家に帰りたくないんです。無茶なお願いだとは、自分でも分かっているんです」
蒼玲学園で過ごしている時には一度たりとも周りに見せたことの無いどこか悲しげに表情をこわばらせていた。
見せたことが無かったのか、それとも見せないように演じていたのか。どちらにしろ、俺にはさっぱり分からない。「これだから女心の分からない奴は〜、」と自分自身に対して甘く叱る。
自分に優しく、他人に優しくが俺の心得だ。
「……おにぎり要る?」
「……え」
何故か少し戸惑った様子を見せたが、最終的に月城の顔色は元に戻っていき、表情を緩めていった。
どうやら俺が言った問い掛けは、この状況で適切だったらしい。
クックック、先ほどの女心が分からない人間発言は撤回させて貰おうか。
『大不適切だよ』




