第二幕 1話 時の流れには『裏』がある
『起きろ零〜?』
その言葉を聞いて、俺はようやく現実世界で目を覚ます。辺りはすっかり暗くなり、コオロギ達の美しい音色だけが響いていた。
「此処は……旧校舎裏か。てっきり怜信者達が待ち構えているとかと思ったけど」
随分呆気ないものだな、と思ったとき右手に違和感を覚える。
「手錠?」
そこには右手と校舎にがっしりと繋がれた強固な手錠があった。
『どうやら、殺意はあるようだな』
……さて、どうしたものか。時間はとっくに0時を過ぎているだろう。旧校舎の裏ともなればどれだけ叫んでも周りに聞こえない。
『このままじゃ共倒れになるぞ』
「左腕の主導権を今だけ貸す」
『まったく。毎度毎度、俺は道具じゃなくて兄さんだぞ!?』
ハイハイと適当にあしらうと、左手の主導権だけが一時的に代わり移る。
その左手は俺の意思とは関係なく手刀のように再度構え直して、それを鎖にあてる。
キィイーーン、と言う耳をつんざく音と共に、一つの閃光が手錠を真っ二つに割って行った。
「……お見事」
『それじゃ、もうお役目御免だな。』
そう言うと左手の感覚が元に戻る。……コイツは本当に何が目的なのだろうか。この体を奪いたいなら左手の主導権を返す訳がわからない……それとも、主導権を変える工程で俺が提示した条件は、守らないといけないのだろうか。
もしそうならコイツは左手の主導権を返さざるおえなかったのかも知れない。
どのみち、今考えても埒があかない。
「帰るか」
『そうした方がいい』
……そう言い合って錆びた旧校門から、誰もいなくなった薄暗い道路に出て、ようやく下校を果たしたのだった。
***
『良かったな、今日が土曜で』
硬い床に薄い白のシートを敷いてグダッと倒れ込んでいる俺はそう喋りかけられた。
「どうやら今は運が味方してくれているようだ」
あれから家に帰り着いた頃にはとっくに4時を過ぎてしまっていた……父さんと兄さんの墓地に寄らなければもう少し早く帰られたかも知れないが。
「アレは毎日のルーティーンだからな、しょうがない」
『気味の悪いルーティーンだな』
これの良さをコイツに伝えても、どうせ理解できないだろうから言わない方が得だ。
『今、俺を馬鹿にしただろ』
「してない」
『してた!』
「してない」
『してた!!』
「してない」
『嘘だ!!!』
「嘘に決まっているだろ!!!!」
『へ?』
まったく、朝っぱらから何でこんな騒がないといけないんだ。
溜め息をこぼしてから黒い懐中時計で今が何時か確認する。
「へ?」
思わず呆気に取られる。
「この時計、壊れてたっけ?」
『いーや正常だ……それよりお前の睡眠時間の方が異常だろ。』
「そんな、バカ、な」
だって……その時計は……午後の9時を容赦なく示していたのだから……




