第一幕 11話 消えゆく世界に膨大な絶望を
そこは、今を生きている人から忘れ去られた死者が集まる墓場。此処に墓参りしに来ている人がいつも俺たった一人という事実が、それを裏付けいた。
「……父さん、兄さん」
目の前にある二つの墓は、現実の物より随分廃れている様子だった。
「キミは、本当に目的を捨てるのかい?」
何の気配も感じなかった。いきなり幼い声が背後から聞こえて、それと同時に体は言う事を聞かなくなって指一つ動かなくなる。
「捨てるよ。もう、いいんじゃないかと思っているから」
それに、と付け足して
「俺には新しい目的が出来たんだ。昔の目的とは打って変わって素敵なね。」
「ふ〜んそう。ところで、キミはいつもお墓にクローバーを添えてるよね?それは兄さんと父さんが最後に四つ葉のクローバーをくれたからだよね?」
「あぁ、そうだけど……何が言いたい?」
新しい目的の事については、全く興味を示さない様子だった。コイツが、何故こんな事をするのか未だ理解できなかった。……四つ葉のクローバーと言うものは、中々見れない希少なものでもあり……俺の中では確かに父さんと兄さんからの最後の貰い物だからとても思い入れのある物だった。
「キミは四つ葉のクローバーの花言葉を知っているかい?」
「……幸福、だろ?」
こう答えると待っていたかと言わんばかりにケラケラと気味悪く笑い出した。
「大正解!!四つ葉のクローバーの表の花言葉は《幸福》だね」
コイツに全て、考えている事が見透かされているかのような感覚に陥る。
ハハハッっという無邪気な笑い声がした後にふと気がついて自分の手を動かす。どうやら、ようやく体が動くようになった。
それなら、後ろを振り返った瞬間。その異様さに唖然としてしまった。
そこには紺の袴を着ており、全体がマットな黒色で、耳の内側と目元、口元に赤や金、白の彩色が施された狐の仮面を被っている少年が居た。
狐の仮面は、ちゃんとした木で出来ているみたいでどこか不気味だった。
「きっと、『四葉のクローバー』の本来の姿をこの世に生きている人間で知っている人はもう居ないだろうね……そうだ、キミにヒントを教えてあげるよ」
ごくり……と唾を飲み込む音が、やけに騒がしく感じる。
「《クローバーには『裏』がある》」
辺りの木々が、その言葉に呼応するようにざわめきだした。
「……『裏』って言うのは花言葉のことか?」
「その通り。そして、その花言葉は……」
「「 黙れ 」」
狐面の少年が花言葉を言うことを阻止するかのように、圧倒的な殺意がこの世界に突如として現れる。
それと同時に、兄さんの墓石を背にして立っていた狐面の少年の心臓部辺りに刀が貫かれていた。
「ックハ……中々、来るのが早かったね。まあ、成果はあったかな」
そう言うと狐面の少年の体はガラスのようになって割れ始めた。
「また日を改める事にするよ、じゃあね希望を見出したボクよ」
そう、意味が分からない言葉を残す。
「今度零に近づいたら……存在ごと消してやる」
パリンッ……と言う音と共に狐面の少年は姿を消した。
「そろそろ帰るよ、元の世界へ」
そう言って手を伸ばした青年は、帯が赤黒の配色をした白い着物を着て、黒い羽織りを重ね着していた。……年は今の俺より少し高いように見えた。
さっきの少年とは打って変わって白地に赤と黒の鮮やかな絵付けが施されており、赤く揺れる房が付いている狐の仮面を被っていた。
……綺麗な銀髪、この優しい声色と言い。
「似ている」
「……へぇ〜、……誰とだろうな」
言葉が喉まで湧き上がってくるが、それは言ってはいけないと押し堪えた。もし兄さんだとしても、ここは夢の世界なのだから。
「お前は何も考えなくていい。新しい目的が出来たんだろ?なら、それに尽くせ」
「うん、そうさせてもらうよ」
そう言い終わるとポン、と頭の上に手が乗せられる。
「…… 今のお前、いい顔してる。少し前のお前とは別人かと見間違うほどに。」
その言葉、何処かで……
そう思った直後、視界が暗転するのだった。




