第一幕 10話 消えゆく世界に僅かな希望を
……瞼を警戒しながら開ける。辺りを見回しても何もない。その言葉通り何一つも見当たらない。……地平線が終わらなく続いていた。
倒れた体をゆっくりと動かして立ち上がって、気づいた。
「水……面……?」
足元をもう一度見直す。……どうやら俺は浅い水面に立っているようだ。それなら地平線ではなく水平線と呼ぶべきかもしれない。
それなら、此処は夢の中とでも言うのだろうか。いや間違いなく夢の中だと、得体の知れない確信が浮き出てくる。
ただそんな事が分かったとしても依然として立ち尽くす事くらいしかできなかった。此処は穏やかで、落ち着く、ずっと此処にいたい。そう思わせる程に。
雲ひとつない透き通った青い空が水面に美しく反射する。きっと、天国と言うものがあるならまさに此処のことなのではないか、と感じさせるほどだった。
「どうして俺はこんな夢を見ているんだろうか」
俺には新たな目的が出来たんだ。怜と月城のそばにいても良い存在だと周りに認めさせると言う、前の目的とは打って変わって素晴らしい目的が。だからこそ一刻も早く現実に戻らなければいけない。
「それはきっと、キミが目的を塗り替えてしまったからだよ。そのせいで、ボクの目的は行き場を見失ってしまった……キミの心の底に沈んでしまった。ボクのね」
急にそんな幼い男の子の声が真後ろから聞こえてくる。でも少し喋り方は大人びていて不気味さすら感じてしまった。いつからそこに居たんだ、と言うか、誰だコイツは?振り返って姿を見ようとした瞬間、体が指一つ全く動かない事に気づいてしまった。
焦った心情を読み取られたのか、それを嘲笑うかのように高らかに笑いだした。……取り敢えず今は此処から出る方法を見つけないと、嫌な予感がする。
「へぇ〜。そんなにキミは今の目的を果たしたいんだ?そうやって過去から逃げたいんだ?」
ケラケラと笑っていた少年の気配は急に、殺意と狂気、底知れなく固まった決意なるものに変わった。
「逃がさないよ?」
その殺意の籠った声色が発せられると同時に、浅かった水面は裏切るように、底が深くなっていき体は沈んで行った。
知っている。身に覚えがある。あの全てに殺意を向けた声色に、あの底知れなく固まった決意の正体に……
***
水滴がポツリ、と落ちた音がしてようやく目を覚ます。ただ、目を覚ました場所は学園ではなく……懐かしい場所だった。
ボロアパート。……玄関はやたら狭く、靴が散乱していて、壁はヒビだらけ、部屋は六畳一間で、畳は擦り切れ、安い布団とちゃぶ台が置かれていた。
キッチンは極端に小さく、錆びた流しとやたらうるさい換気扇があるだけだった。
「零〜!もうすぐ飯が出来るから楸と皿の用意しときな」
何処からか、父に呼ばれる。だが、キッチンを見ても父はいない
「零、俺が皿の用意しておくから先に席ついといて」
優しい声色で兄に促される。だが、……何処にも兄の姿は見えない。
それでも、この和やかな雰囲気が昔に戻ったみたいで、心地よくて、暖かかった。
「……父、さん」
これが夢で、現実じゃない事は理解している。……でも、だとしても!これだけは聞きたい!!
「僕はこれから、どう生きていけば良い?」
そう言った直後、世界が突然、暗転して――




