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王子様になりたい私、勇者候補になりました!?  作者: ユメミ


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エピソードZERO 3.追跡開始


 「ちッ………逃がした」


「あれは匂いからしてもう手遅れだよ。地元警察に任そうよ」


「『正規ルート』をお望みなら何故あの方は我らを遣わしたんだ」


狼の喉から唸り声混じりに絶対零度の氷のような冷ややかさを帯びて空気がぴりついた。


「警察の法律難しい。草臥れ損だね?ヴォルグ君」


梟は落ち着く優しい声色をだす。狼の背を白い翼は擦った。まるで労わるように。


「上から『泳がせろ』とお達しだ」


「あのお方は………。民間人の被害拡大とか考えないで『大義』をとるお方だからな……」


「僕らも暇じゃないのにね」と穏やかなテノールはため息交じりだ。

 狼と梟はいつのまに姿を消していた。代わりに姿を表したのは二人の男だった。


 黒と白の男だ。


 黒髪の男は胸ポケットから葉巻を取り出す。

白い男の指先がパチンと鳴るとさこから火花が飛んだ。

葉巻の先を牙でねじ切って加え直したタイミングで火がついた。紫色の煙がくゆりだした。


 黒い男は青いメッシュが光る長い髪を後ろに撫でつけている。眉間は険しいが灰色の瞳の中の黄金の虹彩が美しい男だ。

 狼の毛色と同じ黒一色の詰め襟に群青色のローブを着込んでいる。

身長は190ほどで平均的な日本人を見下ろせる背丈だ。


 氷のように鋭い隙のない美貌の持ち主だった。


「何故持たざるもの(・・・・・・)の世界の警察はこうも仕事ができんのだろうな。慎一郎」


 慎一郎と呼ばれた白い出で立ちの男は銀色の短髪だ。前髪だけは長めで表情は隠れている。切れ間からは垂れ目の瞳が覗く。翡翠色の大きめな瞳だ。

 風貌はマスクで隠されている。

 ヴォルグの隣でため息をつきながら太めの首を鳴らす。隣と対をなすような白いロングコートは二メートルを有に超える。ただでさえ大きな身体をより大きく見せていた。

 

 彼は巨体を丸めるように屈んだ。

地面のひきずった痕を撫でだした。それをしげしげと観察している。

彼の指先は青く発光した。

幾何学な紋様が回転しながら唸る。


「この唸り方なら確かに「咎物」だね」


 そう呟きながら指先をハンカチでふいて空に放る。

ハンカチはみるみるうちに燃え尽きた。



「人間はまず嗅覚が君とは違う。魔術もないし効率は悪いさ」


「だから!!劣等種と言うんだ!」


「違うよ。持っていないことは罪じゃない。知ろうとしないことは罪だけどね」


 マスクで覆われている口元を擦りながら慎一郎は男が逃げた方角を見やる。


 あの方向は事前に聞いていた警察のパトロールの管轄だった。



「ヴォルグ君って優しいよね」

「あぁ?」


 クスクス笑う白銀の梟を狼は睨みつけるとそっぽをむいた。

その目線は光溢れる路地裏の終わりを見つめている。


「やつらの仕事は信用ならん。行くぞ」

「追い込み漁をアシストしたけど、心配だからサポートだね?了解」


「あぁ?違うわ」


 梟が狼の肩をつつく。

胡散臭げに腕を組み睨む狼とニコニコする梟は並んで歩き出した。



「ヴォルグ君先行って。心配性の君のサポートのために応援よんどく」


 二匹は男の後を追った。

繁華街の明るさに溶けきれなかった暗闇に紛れながら。


「あの方は『なにを』を探しているんだろうな」


「『だれを』探しているか教えてくれないんだよね」


 空は深い群青色から爽やかな蒼い色に変わりかけていた。

明星の月が白く薄く輝いていた。

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