ep.7
「ごめんくださーい」
風邪を気合いと点滴(一対九)で治した私は、病院から飛び出すなり紙に書いてある住所に突撃した。
意識が醒めてまず驚いたのが魔法使いの数だ。
魔力検知には数えきれないほどの魔力が反応しているし、それらすべてが人間の持つものだった。
ここまででも旅をしていたころの私ならばひっくり返っているところだが、驚くべきことに、この町は魔力検知の反応しない場所には人がいないのだ。
何を意味するかなど簡単なことだろう。
―この町は全員が魔法使いである。
あれだけ探し回って見つからなくて、挙句絶望までしたというのに、なんだったのかと聞きたくなるような状況に内心複雑だったものの、まぁ悪い事でもないしいいかと切り替えるまでそう時間はかからなかった。
何せその状況はかつて自分が望んだ事そのままであったし、そんな場所に連れて来てくれた王子様につながる道も一枚の紙きれによって担保されている。
むしろ何を不満に思えというのか。
ドアの前で待っていると「はーい」という少し気だるげな声と供にキィとドアが控えめに開かれる。
「どちら様で......あぁ、治ったのか」
「あ、はい。先日は助けていただいてありがとうございました。私はマリエルと言います。えっと、住所の書かれた紙を置いていかれたのでそれを見てここにきました」
待ちに待った王子様は何というか、”勿体ない”という印象を受ける出で立ちで私を迎えた。
珍しく一分のムラもない漆黒の髪に、切れ長でやや鋭い目元、女性が見たらもれなく羨むような染み一つない白皙を持ち、私の旅をしてきた人生の中で間違いなく一番の美貌であるところを、頭のところどころで遊んでいる寝ぐせと目元の隈、機嫌の悪そうな口元がすべてをぶち壊していて、総評としては勿体ないになってしまっている。
ただその中でも光を失わないものが一つあった。それは眠そうに私を映している瞳だ。
私の持つどのような言葉を使ってもこの瞳の色とその美しさを表現することはできないと思わされる。色自体は髪と同じく黒...なんだろう。ただそこに強制的に青を滲ませたような。黒に何色を混ぜても黒になるはずなのに、瞳に混ぜられた青は漆黒の中にいても”青色”という輝きを失わずにそこに存在している。だからと言って青が極限まで黒に近づいたいたものではないのだ。あくまで先にあるのは黒であって青はその上から混ざっている。...やはり言葉を尽くしてもこれを表現するのは難しい。
ただ、外見を除いた要素で、すでに私はこの人にかなりの好印象があった。
私は彼の”声”を聴いた瞬間から動悸が露骨に早くなっていた。
なんとか表面には出さないように気を付けていると、彼は少し眠たそうに口を開く。
「あー、お互いに話したいことあるだろうし場所変えてゆっくり話すか。近場にカフェがあるからそこでどうだ?」
「分かりました。ひとまずここで待ってればいいですか?」
「いや、身支度したり色々準備するから先に行って待っててくれ。左に進んでいったら大通りにぶつかるから、渡って右にちょっと行くと左手に”オズ”って店がある。そこで待ってろ」
そう言うなり彼は玄関の靴入れらしき箱の上に散乱していた硬貨をいくらか渡してくる。
「あの...これは...?」
「オズは喫茶店なんだけど、ケーキも取り扱ってるんだよ。ショーケースの中から選んでジジィに言うとその場で切り分けてくれるんだ。ただそれ先払いだから俺が着いてからじゃ遅いと思って」
「いえ、悪いですよ。私も持ち合わせはありますし」
「ガキと話するってんのに会計分けるバカどこにいんだよ。気にしなくていいから行け。俺もすぐ行くから」
「は、はぁ」
どうやら、というかまたもやいい人と出会ったらしい。




