ep.22
「いらっしゃいませ」
ラズさんに連れられて来た装飾品店は”上品”を体現したような雰囲気で、根っから庶民の私は少々どころか大々気後れしながらも、なんとかラズさんの背中に隠れる形で中に入った。
飾られている装飾品は華美ではないが、一目見て高級品という事がわかる程上品なもので、店内の大きさこそそこまでではないものの、それすら高級感の演出に一役買ってそうである。
「魔石の装飾品を買いに来たんですけど、魔石忘れたんでここで作ってもいいですか?」
「えっと...はい、構いませんが...」
ラズさんの話によると魔石はそこそこ時間をかけて作るものらしいので今ここで作るなんてことはそもそも想定されてないのだろう。
店員さん側から見れば意味の分からないことを聞いたラズさんに、それらしく微妙な反応をした店員さんは「ご希望の形状はありますか?」と聞いた。
”装飾品”としか指定されていないのなら指輪でもブレスレッドでも選び放題というわけだが、実はこの町に来てから気になっている装飾品が一つあった。
「あの、師匠」
「んー?」
ラズさんの背中に隠れていた私は、ラズさんのローブの袖をくいと引っ張って小さく呼ぶと、それでもちゃんと気づいてくれたらしく、ラズさんは振り返った。
装飾品のお店で名称がわからないのがなんとなく恥ずかしかったので、私は口の前に手筒を作ってこっそり耳打ちすることにした。
「あの、皆が耳に着けてるやつがいいです」
「耳...ピアスか?でもあれ耳に穴開けなきゃいけないぞ?」
「あな...!!」
なるほど。
耳にぶら下がっているのを見て、耳たぶを金具か何かで挟んで固定しているのだと思っていたのだが、耳たぶに穴を開けてそこに金具を通して固定しているらしい。
正直言って、自分の体に穴を開けるというのは抵抗があるが、オシャレの一環でいつか絶対に開ける気がするので遅かれ早かれかもしれない。それに痛い思いをするなら早く終わらせておきたい性分なので、今回の件で開けてしまうことにした。
「どうせ開けると思うので、開けるなら早めがいいです」
「おっけ。そんなに痛くはないけど、人によっちゃ腫れたりするから覚悟しとけよ」
少し考えてからまた耳打ちすると、ラズさんはニヤッと笑った後に頭をぽんと撫でた。
「ピアス型のやつで願いします。魔石作っちゃうんで、いい感じの奴見繕ってもらえますか?予算は一旦無視で」
「承りました」
店員さんは恭しく一礼した後、裏に下がっていった。
「よし、したら魔石作っちゃうか」
「あのぉ、コツとかって?」
「とにかくギュってする」
「ナルホド」
ラズさんからの有難い助言はとにかくギュっとらしいので、半分諦めながらもそれだけ考えて魔力を練っていく。というかこのまま魔力を集め続けたらブラックホールが出来てしまうわけだがどうするのだろうか。
「あの、どうやって石にするんです?ブラックホールになっちゃいません?」
「ブラックホール作るときはただ集めるって感じだろ?石にするときは集めるっていうより圧縮するってイメージ。極々小さな範囲に魔力を詰めていく感じでやってみ?」
「なるほど。...っていうかコツあるじゃないですか!最初からそう言ってくださいよ!」
「言っただろ?ギュッとだって」
ギュッとの四文字にそのイメージが詰め込まれているなら是非最初から詳しく教えて欲しいものである。
作ってもらうのがピアスという事で、小さく小さく圧縮していくイメージで魔力を固めていく。三十秒ほどそれを続けていると、あっけなくそれは形になった。
色は淡いピンクで透明度がすごく高い。初めてにしては中々綺麗にできたのではないだろうか。
ラズさんが作った石で即上書きされる気がしているが、少なくとも現時点では、今まで見た中で一番きれいな石である。
装飾品にあしらう石はお互いの物を交換するはずだが、この出来ならば渡しても問題なさそうで安心した。
「師匠、できました」
「おお、想定してたけどやっぱ早いな。...うん、綺麗にできてる。初めてでこれなら練習すれば小遣い稼ぎもできるかもな」
「ありがとうございます。師匠のは...凄いです。なんというか、こう、純度が高いというか」
「ガキの頃にずっと練習してたんでな。そこそこ自信あんだよ」
「綺麗です」
ラズさんが作った魔石はラズさんの目と同じ色をしていた。私が作った魔石と違い、ラズさんの魔石は向こう側を一切通さない。
予想通り一瞬で歴代一位が更新されたわけだが、なんといってもこの石は私が身に着けるものなので嬉しい以外の何物でもない。
暫くラズさんの魔石を眺めていると、店員さんが三つのピアスを持ってきた。
一つはシンプルな銀のフレームのもので、魔石をそこに嵌める型のようだ。二つ目は小さな台座のような形をしている。恐らくその上に魔石を固定するのだろう。色は白に近い銀のものと漆黒のものの二種で、お互いの髪の色になっている。三つ目は二つ目と同じ形状で、色がお互いの瞳の色と同じものだ。
「お待たせいたしました。こちらが―」
戻ってきた店員さんは一つずつ説明を始めた。
最初のものはこの店で一番人気のあるものらしく、シンプルで好き嫌いの分かれない形から色々な目的で買われるらしい。二つ目と三つ目は師弟や恋人、家族間での贈り物によく使われるとの事。三つ目は色を逆にして使うのが普通らしく、対して二つ目は魔石とフレームのどちらも相手の色にするも良し、フレームは自分の髪の色で、魔石だけ相手の色にするのも良しと、好みで変わるらしい。
「だってよ、どれがいい?」
ラズさんは全面的に任せてくれるらしく、丸投げ状態である。
個人的には一つ目か三つ目で悩んでいた。
一つ目は特別感こそ薄いものの、一番人気というだけあって非常に出来がいい。シンプルなデザインが魔石の綺麗さをより引き立ててくれそうなのも高得点だ。
三つ目は折角渡し合うのだし特別感を求めた結果である。
デザイン自体は一つ目の方に軍配が上がるが、髪の色と瞳の色で別々にするという方法を聞いてからは、正直それをしたくて堪らなくなっている。
暫く悩んだ後、私は三つ目のピアスにしてもらうことにした。
決め手はやはり”折角だから”だ。一つ目の物は今度別の機会に渡すこともできるが、こちらのおそろいのピアスはこの機会でなければ渡すのは少々躊躇らわれる。
「完成するまで一週間程頂いてますが、ご予定はいかがでしょう?」
「あー......八日後で」
「かしこまりました。お待ちしております」
どうやら魔石を台座に固定するのにある程度の時間がかかるようだ。といっても、余裕を持ったスケジュールだろうし、他の注文を処理している時間もあるだろうから、作るのに丸一週間というわけではないだろう。
ラズさんは少し考える素振りを見せた後、もう一日空けた日で注文した。恐らくは七日後に予定があるのだろう。
夕飯をどうするか訊いておかねば、と頭の中のやる事リストに書き込みながら店を出ると、ラズさんがぐいっと伸びをしてからポケットに手を突っ込んだ。
「さて、と。どうする?時間も時間だし飯でも食いに行くか?」
「お腹すきました!」
店を出ると、ラズさんは一旦食事に行くことを提案してきたので、二つ返事で了承した。
魔石をうまく作れるかが心配で、さっきまでは些か緊張気味だったが、不安要素も杞憂で終わり、解放された私はだいぶお腹がすいていた。
広場に設置された時計を見ると、針は一時半を指している。
時間がお昼時だと分かると一層空腹感が強くなってきて、腹筋に力を入れていないとお腹が情けない音を出してしまいそうだ。
「ここらだと...うっまいパスタがあったな」
「いいですねぇ、パスタ」
「お、乗り気?行くか」
「行きましょ行きましょ!」
「うまい」にしっかりとタメがあったのでそこも期待してよさそうである。もとよりラズさんの味覚と良い店を見つける嗅覚は半ば妄信的に信用しているのだが。
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