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ep.21

一悶着の余韻を引き連れて、なんだかお互いに口を開きづらい空気になってしまったため、気分転換としてコーヒーを淹れて一口飲んでからお勉強会は再開となった。


「んで、三つ目の事なんだけど、もう話しちゃったわ」

「式云々ですか?」

「それもそうだし、実際には存在しないってことも基本だからな」

「なるほど」


確かにその二つならもう聞いたし、完全ではないもののある程度は理解した。

となると急にやる事がなくなったわけだが、思えばラズさんの家に来てからは何かすることがあるか寝ているかだったので何もない時間というのがなんともいたたまれない。

こればかりは時間が解決すると思うのだが、そもそもぼけっと家にいるのが好きな性分ではないので何とも言えない。


「んでだな」


そわそわしだした私を見かねてか、それとも最初からその気だったのかは分からないが、ラズさんはそう切り出した。


「魔法の勉強するにも俺が一から教えられるわけじゃないし個人のやり方ってのもあるから、まずは一般的な魔法を覚えたほうがいい」

「はい」

「そこで必要になってくるのが参考書なわけだけど、これも参考書によって好き気嫌いあるから一緒に見に行こうと思ってるんだけど」

「お出かけですか!」

「うん。まぁ―」

「行きます!!」


確かに参考書によっての好き嫌いは多少あるだろうが、昔から大量に本を読んでいるおかげで、思い切り稚拙でない限りはどんな書き方の物でも大差なく読めるようになっていた。

しかし若干はあるし、何よりラズさんとお出かけできるなら断る理由などない。たとえ断る理由があったとしても、そんなもの吹っ飛ばして付いていく自信がある。

ラズさんは呆れながらもどこか安心したような顔をして「じゃあ準備してこい」と言った。




ラズさんと一緒に来たのは以前ぬいぐるみを買って貰った()()ショッピングモールである。

道中、ラズさんの容姿が目に惹いたのか、ご機嫌すぎる私が目に惹いたのか、非常に視線を感じたがあまり悪い気はしなかった。


「本屋に行くんですよね?」

「その予定だけど他に行きたいところある?」


魔法使い用のローブが服屋に売っていたことから、魔法関係の物でも専門店があるというわけではなく、あくまで一分野の一ジャンルとして扱われていることが分かったため、恐らく本屋に行くのだろうと思ってラズさんに確認すると、予想があっている事と、行きたい所を聞かれた。

行きたい所と言われてもここに何があるのか詳しく知らないため出てこない。


「んー、ここに何があるかわかんないです」

「じゃあ適当に回ってみるか?気になる店があったら入る感じで」

「いいですねそれ!」


何ともいい提案をするものである。もしかしたら掘り出し物的な店を発見するかもしれないし、ラズさんの事だからここでも美味しい食事処を知っているのかもしれない。

俄然楽しみになってきて、隠そうともせず満面の笑みで歩いていると、横から「ご機嫌だな」と突っ込みを入れられた。

だって楽しくて仕方がないんだもん。




本屋に到着した私達は、まずお目当ての物から済ませようと魔法の参考書のコーナーに来ていた。

なかなかに大きな本屋だがその三分の一程が魔法関連の物のコーナーらしく、その大きさたるやラズ邸の庭とトントンである。

棚には薄い『楽しく学ぶ魔法学』と書かれた恐らく子供向けの教科書や、持つだけでも疲れそうな厚みの『魔法学応用』と書かれたいかにもな参考書まで置いてある。

昔から本は読んでいるので、簡単に書かれたものでなくとも読める自信はあるが、『魔法学応用』レベルまでいくとどうかわからない。参考書全般に言えることだが、言い回しが難しかったり自分に合っていないものを買ってしまうと、そちらの理解に精一杯になってしまい、内容の理解が疎かになる場合がある。背伸びせず自分に合ったものを使うのが一番なのだ。

とは言うものの、自分のレベルは知っておくに越したことはない。レベルを調べるためには上限と下限から調べるのが効率的である。というわけで私は『魔法学応用』を手に取った。


「ずっと気になってたんだが、お前の教養レベル高すぎない?」

「実家にそこそこ大きな書斎があったのでそこにある事ならわかります。それ以外はなーんにも知らないですよ?箱入り娘なので」

「そもそも以南地域の辺境にそんだけの情報があるのが驚きだわ」

「お父さんがあっちこっち仕事に行っては興味深いと思った本を買って帰ってくるので、もしかすると以南地域中の情報があるかもしれませんね」

「あー...それなら以北地域から下ろされた書籍も随分あるだろうな。...なるほどね。納得」


恐らく私の言葉遣いや理解力を見て思ったのだろう。

小さなころから本に囲まれて生活してきたお陰で語彙力も理解力も相当鍛えられた。

実際、同世代の人と話すときは多分に気を使っていたし、医学やら薬草学やら金勘定やら、書斎の本を片っ端から読んだ弊害で使わない知識も無駄に持っている。

しかし私の知識なぞ所詮紙上のものでしかないし、書斎にこの世の全てがあったわけでもなかったのでたかが知れている。

ラズさんに返答しながら本を開くと、上から下までびっしりと書かれた小さい文字が重々しく私を迎えた。

一ページ分ざっくり流し読むと、書き方自体は全くもって分からないものではないものの、単純に私と相性が合わなさそうな印象を受ける。

この本でこのイメージなら語彙力不足で読めない本はなかなか無いと思って良さそうだ。

そう思って先ほどから気になっていた、見た目が可愛い参考書を手に取った。

その本は、しっとりした革の表紙に細い金の糸でタイトルと飾り縫いがしてあるもので、持った時の手のひらに来る質感と、腕に来る質量感がまさに参考書然としていて親しみやすい。

表紙をめくるとこれまた小さな文字でびっしりと文字が書かれているが、書き口も相性は悪くなさそうでとても好印象だ。

もう一ページ捲ると、一枚一枚が比較的薄めで軽いことがわかる。しっかりした紙質の物は捲るときの音が気持ち悪いので好きになれない身として、これは非常にありがたい。


「これがいいです」

「いいじゃん、おしゃれだし」

「私もそこは気にしましたけど、参考書を買いに来たんですから内容を聞いた方がいいのでは?」

「いいんだよ。勉強なんてめんどくさいもんなんだから、参考書がおしゃれだのペンが使いやすいだので自分のモチベーション保っていけるならそれに越したことはないしな」

「一理どころか十理ぐらいありますね、それ」

「筋張ってるだろ?」

「中々」


全くその通りである。

本を趣味の範囲で読んで身に着けるのと、教養になるよう、勉強として身に着けるのではその重さが全く違う。

勉強するとなると、どうしても面白くないところまで覚えなければいけないし、心構えが重くなりすぎて楽しめない。

そこでラズさんの言っている事である。その憂鬱な気分をたかが参考書の見た目程度で緩和できるならしておくに越したことはない。勉強は自分との闘いなんて言うが、率先して辛い思いをしにいっても最終的には非効率になるだけなので、モチベーションを保つためならある程度の非効率は甘受していいのだ。



「ありがとうございましたーー」

「どーも」


本当は他の本も見る予定だったが、お気に入りの参考書を見つけられて満足したのでさっさと会計してもらって本屋を後にした。


「それ便利ですね」


今回も前の家具屋の時と同じく魔法カードで会計をしていた。何度見ても便利な代物である。


「いいっしょ?」

「私のも作れないんです?」


得意げに眉を上げたラズさんにそう聞くと「未成年は作れませーん」と若干煽ったような返事をされた。

まぁ、信用問題周りでそうなってるんだろう。何なら作れてしまう方がおかしな話だ。


「ナルホド。あ、聞いてなかったですけど、師匠って何歳なんです?」

「いくつに見えるよ?」


正直、かなり若そうではある。私の見立てだと二十歳に届いてるか届いてないかぐらいだと思う。


「一九、二十ぐらいじゃないですか?」

「お!おしいねぇ。正解は十八」


いや、確かにそのぐらいだと予想はしていたけれど、実際こう聞いてみると若いなと思わざるを得ない。

実際、相手が十八歳でも私が普通にしゃべると理解に苦しまれる時があったので、ラズさんは相当賢い部類かもしれない。

尤も、以北地域の教育ではこれが当たり前なのかもしれないが。


「あ、そうだ」


もしかすると少し不敬なことを考えていると、ラズさんが急に思い出したかのように言った。


「魔石の装飾品の事完全に忘れてたわ」

「あぁ、ありましたね、そんなの」


そういえばラズさんにあった日にそれらしいことを聞いた覚えがある。

魔石をうまく作れるかは未だに心配ではあるものの、まぁラズさんが出来ると言うのなら出来るのだろう。


「家で魔石作ってからでもいいけど、どうせ俺もお前も魔石作りに大した時間かからないだろうし装飾品の店行ってそこで作っちゃうか」

「えぇ...できなかったらどうするんです?」


急に事態が変わってきた。

家で作ろうとしてできないならまだしも、店に入って『すぐできます』と言って作れなかった日には少なくとも金輪際その店には入れなくなってしまう。

若干の不安を顔に滲ませるながら聞くと、ラズさんは「だーいじょーぶだいじょうぶ」と他人事だと思って何とも楽観的に答えた。

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