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ep.20

「なんで俺は助かってる?」

「はい?」


昨日の事を清算してギフテッドの事も教えてくれたラズさんは一転してよくわからないことを言い始めた。

ラズさんがこれから話す”さっきの事”は、たしか喉を詰まらせたラズさんに水を飲ませた件だったはずだが、それがどうしてその問いになるのだろうか。


「はぁ...んじゃ、ここで魔法のお勉強会を始めます」

「えっと...よっ!...?」


おかしな事を言ったと思ったら次は唐突にお勉強会を始めるらしい。

どう反応したらいいかわからずイマイチなリアクションをする私を見てラズさんは吹き出して笑っている。

暫く笑っていたが、私ができうる限り感情を殺した目でじっと見ていると、こほんとわざとらしい咳ばらいをして話始めた。


「もうめんどくさくなってきたし結論から言っちゃうわ」

「はい」

「魔法で作った水で喉を潤すことはできません。よってお前のソレは確実に魔法じゃないです」

「そんなぁ」


先ほどの話で私の能力が魔法でないことはほぼ確定事項だったし、その事実も自分で飲み込んでいたからダメージはない。

しかし”魔法で作った水”云々はどういう事なのだろうか。魔法で作ったとて水は水だし、水なのだから喉を潤せないという事もないはずだ。少なくとも私の常識ではそうだった。

口だけで残念がると、ラズさんは一転して真剣な雰囲気を纏いながら口を開く。


「魔法で生み出される物は実在してるわけじゃない。あくまでも術者の根源的な願いを現世に表現した仮想の物体なんだ。例えば炎魔法は、術者が対象を”燃やしたい”と思う事でそれが願いとして受理されて、魔力を通して魔法となって現実世界に顕現する。その実体化した魔法はあくまで”対象”を燃やしたいって願いから生まれた魔法だから、本物の炎みたいにほかに燃え広がったりはしないんだよ」

「なるほど」


魔法で生み出される物はいわば”魔法的実体”というか、物質的な質量はもたないらしい。

ただこの話だと私がしたことは何もおかしくないのではないだろうか。

私はあの時”師匠ののどに詰まったものを流す”という目的で水魔法を生成して飲ませたのだ。魔法の原理を考えれば、あの水はラズさんの喉を潤したり、お腹に溜まったりしたわけではないが、喉に詰まったものを流すことだけはしたのではないか。


「あの、私はのどに詰まったものを流そうと思って魔法を使ったので、それが願いとして魔法になったのでは?」

「まぁ、そうなるわな」


そういってラズさんは手元から一口大の水球を出して「口、開けて」と言う。

分かりやすく実践しよう、という事だろう。

流れ的に、ラズさんは”喉を潤す”という願いで魔法を作り私に飲ませようとしている。これで私の喉が潤えば、私のしたことは何らおかしくはない事になるのだが。

ラズさんに言われるがままに「あー」と口を開けた。

そのまま口の中に放り込まれるかと思いきや、水球は私の口元で止まった。自分で飲めるようにしてくれたのだろう。こういった気遣いができるのがラズさんである。

ぱくりと一口で口に含んで飲み込むと、水を飲んだはずなのに喉も潤わなければお腹に溜まった感覚もない。喉も、飲み込む動作こそしたものの、のど越しの『の』の字すらなかった。


「潤ったか?」

「微塵も潤いませんね」

「だろ?」

「一応確認ですけど、師匠は喉を潤すっていう目的で魔法を出したんですよね?」

「...あー、そうでもない」

「それじゃあ意味ないじゃないですか!」


待ってほしい。

そもそもこれは願いを変えればそれに対応した魔法が作れることの実験ではないか。端からそうしてないのなら私の喉が潤わないのも当然である。

詰め寄ろうとした私の眉間に人差し指を立てて距離をきっちり取っているラズさんは「まぁ聞けや」と言った。


「そもそも、魔法を発動させるときのイメージは固定なんだよ」

「えぇぇ」

「こっからは魔法心理学や魔法歴史学の範囲を掠るけど、魔法の祖ってのがいてな?”セラフ”って言う女性らしいんだが、セラフは魔法を戦いのために生み出したとされてるんだ。魔法を使うときの願いやイメージは極限まで分解されて最終的に攻撃的なものしか残らないらしい。考古学の観点からも古代から魔法は攻撃に使用された跡は見つかるものの生活に活用された形跡は一切ないんだとよ。俺がいくら『渇きをいやしたい』と願って水魔法を使っても、その願いは分解されて攻撃的なもの、ここだと『相手を流し去りたい』みたいなものに改変される」

「そんな無茶苦茶な」

「お前が言うのか」


魔法の創設者は、そもそも魔法を攻撃手段としか考えなかったらしい。

そこから進化したのが現代魔法というのなら根っこはやはり攻撃にあり、その因果からは逃れられないという事か。

となると魔法の幅が極端に狭くならないだろうか。


「師匠、私がさっきやった、物を温める魔法ってできますか?」


しかしこの話はどこか抜け道があるような気がする。

さっきラズさんは、私が物を温めたのを見て関心こそすれど驚いてはなかった。私の仮定があっていて、もしラズさんが電子振動を扱えるのなら水魔法を飲料にすることもできるはずだ。


「あぁ。原理まで一緒かはわからんが同じことは出来るな」

「詳しく聞いても?」

「俺が原子単位で魔力操作とか物質操作できるって話はしただろ?魔法で仮原子を作ってあっためたい物の原子と原子の間に突っ込んで動かす」

「あー」


案外力技でやってるようだ。これが炎魔法の範疇としてやっていたなら発展の余地があったのだがやはり厳しいのだろうか。


「それ炎魔法としてやることできますか?『発熱させて爆発させたい』みたいな感じで」

「それ爆発するよね?」

「それはうまーく調整してもらって?」


私の言葉を聞くなり不安そうに顔を引きつらせているが、ラズさんから聞く限り現代魔法の限界を超えるためにはこれが最も効果的なはずだ。

つまるところ、分解された攻撃的な願いの部分を変更することで魔法の方向性に多様性を生み出すのだ。

案外、日常に危険は潜んでいる物である。

現代魔法を生活を豊かにするために使うとなれば、日常の”死のリスク”を相手に押し付ける様に魔法を使い、その出力を調整すればいい。

私は席を立ってキッチンからコップを持ってきた。ラズさんの席の前に置いたコップを水魔法で満たし「ほらほら」と急かすと、ラズさんも吹っ切れたのか、いそいそと水に集中し始めた。

ふわりと魔力の流れを感じた次の瞬間、水の端からふつふつと泡が立った。


「師匠!成功じゃないですか!」

「ばっ...かたれ...!」


仮説が正しかったことが嬉しくて、横で見ていた私はラズさんの腕に飛びついた。

途端に均一だった魔力が大きく揺れて、次の瞬間にはコップの中は空っぽになり部屋の湿度が上がった。

そういえば魔法は物凄く集中しなければ使えないし失敗するとラズさんが言っていた気がする。


「...おい」

「すみません」


ラズさんがすごく苦い顔をしている。これは本当にミスというか、なんというか。


―だって嬉しかったんだもん


「まぁ、今回はなんもなかったしいい機会だな。...弟子」

「ハイ」

「魔法は非常に繊細です。集中を乱したりしないように」

「ハイ」

「反省したならよし。お前もこっちの魔法を使うときには集中を乱したりしないようにな」

「了解です」


怒られたというよりは釘を刺された感じだろうか。

ラズさんは余り声を荒げたり必要以上に詰め寄ったりはしないようだ。指導者の鏡ではないか。

なぜ今まで弟子を取らなかっ―

考えずとも『めんどくさい』と言っているラズさんが想像できた。


「師匠、イメージはどんな感じでした?」

「お前に言われた通りにやっただけだぞ。てかこれは何の実験?」

「根本のイメージを変えれば師匠が使う魔法も普段使いできるかも大作戦です」

「そういわれると身も蓋もなさそう」


きっぱりと胸を張って答えた私に残念な子を見るような目を向けてくるラズさん。

待って欲しい。今回ばかりは頑張ったと思うの。


「多分ですけど、普段使いしたい魔法を”大げさにやった場合の危険”から調整する方法だとかなり幅が広がるかと思います」

「なるほど?」

「飲料水の件だと、そうですね...『溺れさせたい』みたいな願いでどうです?なんというか身も蓋もない願いですが」

「やってみるわ」


そういうなり先ほどと同じように口元に魔力が集まってきた。

よく見るとわかるが、ラズさんは魔法の起動スピードが速すぎる。私など比べ物にもならないほどに滑らかに一瞬で魔力を集めてしまうのだから己の未熟さが目に染みるったらない。

たちまち一口大の水球ができたので口に含もうと口を開けると「待て」と制止された。


「ふぇ?」

「なんか悪い予感がする。魔法を構築してる段階で安全に飲めるイメージにならなかった。俺が飲む」

「えぇと、りょ、了解です」


普段のゆるっとというか、だぼっとした雰囲気から一転、スーツを着たようなキリリとした雰囲気に変化したラズさんは、言葉の曖昧さとは裏腹に、肩まで押して水球から距離を取らせてきた。その緊迫感たるや爆弾解除のそれである。

私を水球から十分に離した後、恐る恐ると言った様子でラズさんがそれを口に含んだ。

何故かこちらもラズさんがそれを飲むのに合わせてゴクリと喉を動かしてしまうのは緊張ゆえだろう。


「げはっ...!」

「師匠!?」


水球を飲み込んだ途端ラズさんは体を屈ませてむせ始めた。それこそ水が気道に入ってしまった時のように―

あぁ。何故こうなる前に気づかなかったのだろうか。ラズさんは私の言った通り『溺れさせたい』と願って魔法を起動したはずだ。その願いが受理されたのならば、作られた水が食道に入るわけがない。飲み込んだが最後、その全てが気道から肺に流れる地獄の水が出来上がるに決まっている。


「師匠!大丈夫ですか!」


膝を立てて尚もむせこんでいるラズさんに駆け寄って、それでも何もできずにただ背中をさする。

いや、待て。ほとんどが気道に入ったとはいえ、たかが一口大の水にしては苦しみが長すぎる。むせるペースもだんだんと落ちていかなければおかしいはずだが一向に良くなっている気がしない。

この水は魔法でできた代物で魔法の根源は攻撃的思想。

今回は『溺れさせたい』と願って魔法を構築したはず。ならばその水は少量でも飲めば対象者が溺れるまで肺で暴れる様な性質があるかもしれない。

そもそも本物の水ではないのだ。どれだけ足掻こうと体に吸収されず目的を遂行しようとそこに居続ける可能性の方が高い。

そこまで考えた私の脳は冴えていた。極限状態でこそ冷静になるのは昔からだ。

私は私の口元に一口大の水球を準備した。これはいつも作る本物の水ではなく、ラズさんが飲んでしまったものと同じ、気道にしか入らない水だ。

ラズさんに追い打ちをかけるわけでも、自分で飲み、同じ目に合う事で罪を償うわけでもない。これは魔法による特異性を完全に打ち消す効果が付与されたものだ。

ラズさんの口のすぐ前まで持っていって、「飲み込んでください」と言うと、ラズさんはくらいつくように水球を飲んだ。当然、肺に入りラズさんの呼吸は一時的に激しく悪化したが、これは単に池で溺れた時のようなものになってくれたはずなので時間が解決してくれるだろう。

事実むせるペースは段々と落ち着いていって、苦しそうながらも呼吸は出来ているようだ。

今度こそ背中を擦るくらいしかやることがなくなったので、できる限り優しく背中を擦り続けていると、ようやく落ち着いてきたのかラズさんの呼吸が安定してきた。


「大丈夫ですか?」

「...なんとか」


体を起こしたラズさんはどこかぐったりとした表情を浮かべている。


「師匠、ごめんなさい、私が変なこと言うから...」

「いや、本当に謝らないでくれ。可能性を試すんなら危険は付きものだからな。俺の方こそ悪かった。危うくお前を危険に晒すところだった」

「なんで師匠が謝るんですか!今回に関しては、悪いのはぜっっったいに私です」

「なるほどね。譲歩するつもりはないわけだ......じゃあ、救ってくれた礼くらいは受け取ってくれ」

「い、いえいえ......というかそれも結局私が発端なわけで......私は師匠が無事なだけで嬉しいので、それ以上は」

「......わかった。覚悟しといてくれ。何かで必ず返す」

「待ってください待ってください!」


これはまずい。非常にまずい。

何もなくともじゃぶじゃぶお金を使うラズさんの事だ。今回の事で何かとなると本当に家とか買ってきそうで怖い。


「わかりました。私欲しい物あります!!」

「なんでも言ってくれ、ホントに」

「オズのケーキ一日一個食べられる券欲しいです!ないなら作ってください!」

「わかった。......その、ありがとな。多分死んでた」


そう、それでいいのだ。

ケーキ食べ放題もなかなかに魅力的だがラズさんからの感謝に勝るものなんてない。「ありがとう」とその一言で私はなんだって許してしまうかもしれない。

私は何も考えずにありのままの表情で「どういたしまして」と答えた。

多分これでも、複雑に絡んだ様々な感情は十分に伝わると思うから。

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