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ep.16

意識がゆっくりと浮上してきて、布団の温かさと落ち着く匂いをまどろみながら堪能していると、何やら大きくて重いものがゆっくりと置かれたような音が聞こえてきた。

音というより振動に近いそれは気遣いの色に満ち満ちている。

私は幼いころから聴覚過敏だった。

幼いころは家の前を通る馬車の音や、家族が階段を上る音なんかに過剰に反応して中々寝付けなかったらしい。特に同じような音の繰り返しが苦手で、ずっと聞いていると責められているような気分になって気持ち悪くなる。

加えて私は共感覚というものを持っていた。

物心ついた時からそうだったので、それが当たり前だと思っていたのだが、文章に色がついて見えるのは普通ではないらしく、書斎にあった本によれば、これは共感覚というらしい。

何の因果か、この聴覚過敏と共感覚が結びついてしまったらしく、私には”色が聞こえる”という風変わりな特性があった。

人が発する音に色が乗って聞こえるのだ。これによってその人がどのような感情を持っているのかザックリわかるし、大方良い人か悪い人かもわかる。そもそも聴覚過敏で聞こえる範囲が広いため、悪い音を発する人はあらかじめ避けることもできる。

私の人生に悪い人はほとんどいないというのは全くもって嘘ではないが、その実、私が端からふるいにかけていた節はある。

そんなわけで色々とわかってしまう私だが、恐らくラズさんが私の事を気遣ってくれているであろう音が聞こえてきて、朝からにまにましていた。

初めて会った時からびびっと来るものがあったのだが、一日行動を共にしてみるとそれが間違っていないことがよくよく分かった。

ラズさんの音はいつだって気遣いに満ちているし、浅慮な部分がほとんどない。周りをよく見る視野の広さとそれについて考える思慮深さのどちらも備えていなければあのような色にはならないのだ。

その癖表面上の言動はつっけんどんな所があるので、なんというか、深い、というのだろうか。味のある人間だなと思う。

ラズさんの事を考えていると余計に口角が上がっていくのだが、このままにまにまし続けるわけにもいかないので、名残惜しいもののズルズルとベットから這い出る。

今日は早めに起きて師匠に朝ごはんを作ろうと思っていたのだがどうやら出遅れたようだ。昼ご飯こそは腕によりをかけて作ろうと、そこまで考えたところで、果たしてラズさんの冷蔵庫には調理できるようなものが入っているのか、という問題に突き当たった。

ないなら買いに行かなきゃと思い、音のした部屋をのぞくと、ラズさんが浮遊魔法を使って家具を配置しているところだった。


「起きたか」

「おはようございます」

「ん、おはよう」


足音を殺してこっそり行ったつもりだったが筒抜けだったらしく、ラズさんは肩越しにこちらを見て挨拶してきた。

案外几帳面に配置された家具や、ラズさんによってふわふわと浮かされている家具はやはり家具屋で私が目を奪われてたもので、どれも可愛い。

昨日こそ突然のカミングアウトで詰め寄ってしまったが、私は何か施されたら基本的には素直に喜ぶようにしている。相手は善意でしてくれているのだから、それは素直に受け取り、その善意にはまた別の形で返すのが私の流儀だ。


「家具、本当にどれも可愛いです。ありがとうございます」

「おう。...俺は女子が好きなものに明るくないけど、お前は顔に出てて助かる」


―ラズさんは素直じゃないみたいです。


むくれていると「そういうところだぞ」とラズさんはけらけら笑う。なんともいたたまれなくなって、私は「今、何時ですか?」と話を逸らした。


「あー、二時頃だと思うが」

「えっと...お昼ご飯は?」

「作業してたら時間感覚吹っ飛んでたわ」


昨日は比較的早く寝たというのに、もうお昼の時間を回ってしまっているようだ。どうやら一日のうち四分の三ほど寝ていたらしい。

当たり前のようにご飯を食べていないラズさんだが想定の範囲内である。

この人の生活力のなさは情けない程雄弁に垂れ流されているため、どうせそんなことだろうと思っていた。ただ自分の過眠症がここまでとは思わず不覚にも二食抜かしてしまったのが悔しい所だ。

自分が来たからには不摂生はさせないと誓ったのだが、現実はそううまくいかないらしい。


「今からでも食べますか?今日は私が寝坊したのも悪いので師匠に任せます」

「ん-、軽食だけってできるか?夕飯までの時間、魔法教えたいから、その間ぶっ倒れないぐらいのがいいかな」

「わかりました」


どうやら早速魔法を教えてくれるらしい。確かに魔法を教わるなら私も軽食くらいは食べておきたい所である。

少し考えた後に提案したラズさんに、了承を伝えると「助かる」と少し笑った後、思い出したように声を上げた。


「そういえば、食料は適当に買っといたから冷蔵庫の中に入ってるもの好きに使ってくれ」

「わかりました。嫌いなものはありますか?」

「んー、パンが得意じゃないのと、野菜も味が濃かったり煮込まれてたりしないとちょっと嫌」

「了解です」


そう言って私はキッチンに向かった。


「......ナニコレ」


キッチンに入り冷蔵庫を開けると、真ん中の棚にでかでかと一つの肉塊が置かれていた。よく見ると、乗っているトレーに『わいばーん』と書いてある。


―もしかするとここでの料理というものはとても難しい事なのかもしれない

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