ep.14
服屋でラズさんが選んでくれたローブと、ちゃかり普段着まで買ってもらってしまった私は、くまの両肩に荷物を下げて、それごと浮かしながら帰路についていた。
「あー......弟子」
「なんでしょう?」
「当たり前のようにやってるが...その...浮遊魔法ってめちゃめちゃに高位の魔法だぞ」
「え?」
非常に言いにくそうにラズさんは言う。
店内や道端で突き刺さる視線はあまりに大きいぬいぐるみではなく浮遊魔法に向いていたらしい。
「家に帰ったら...いや今日はもう疲れたし明日だな、明日魔法の基礎について教えるけど、ぶっちゃけお前、高位の魔法ガンガン使ってるからな」
「えっと...例えば?」
「魔力探知とか浮遊魔法、意外かもだけど、氷の魔法も高位中の高位魔法だな」
「氷魔法がですか?」
「あぁ。氷魔法は炎魔法を極めてないと使えないし、極めてたとしても適性がないと使えない」
「そうなんですか...」
魔力検知が高位魔法というのもなかなかに驚きだが、それよりも氷魔法についての衝撃が大きい。
氷魔法は魔獣狩りをする際に好んで使用していた。
他の魔法に比べて燃費がいい気がするし、何より発動地点が離れている場合でも発動しやすく、周囲への影響が少ないため私のスタイルとマッチしていたからである。
炎魔法は発動距離が開いていても問題なく行使できるものの、如何せん戦っている場所は森であるため一歩間違えば焼け野原になってしまう。風魔法は周囲への影響こそ少ないものの発動距離が開いていると制御が難しく威力も落ちる。一番酷いのは水魔法で、そもそも威力が弱いのに加えて、風魔法と違い液体であるため加工するのが難しく、魔獣を殺すためにはそれなりの集中力と魔力が必要になる。
液体というのが一番厄介で、風魔法のようにテンションで使うと形を保てず殺傷力が落ちるし、氷魔法のように一度加工してしまえばいいわけではなく、形をキープさせるために意識を集中させ続けなければいけない。
水魔法は飲料水にしたり洗濯に使ったりと、汎用性が高く普段使いできる代わりに狩りには向かない、というのが長年の研究で私が出した答えだ。
一方で、氷魔法は一度整形してしまえば形が変わってしまうことがないし、鋭くつづらのように尖らせてしまえば少量の魔力でも十分な殺傷力を誇るので戦闘向きなイメージがある。それに固形であるため、比較的安定していて個人的には簡単な部類の魔法だと思っていたのだが、聞く限り全くそうではないらしい。
難しい魔法だというのは、まぁ...各々の感覚の違いもあるだろう。ただ一つラズさんの話と明らかに異なる点がある。
「あの、私、炎魔法を極めた記憶はないんですが...なんなら氷魔法や水魔法の方が使いやすいし、効率もいい気がします」
「なるほどなぁ...。まぁ氷魔法の適正は水魔法が得意なやつが持ってる場合が多いのは確かなんだよな。ただ水魔法を得意としながら炎魔法を極めなきゃいけないから難しいんだよ。氷魔法が高位に分類されてる一番の理由はここだろうな」
「それは...何というか、理不尽というか...」
要するに自分の畑で戦うことができないから難しいのだろう。
「炎魔法は苦手なのか?」
苦手かと言われればそうでもない。というか魔法の属性に得意不得意を感じることが少ない。使用用途に応じて使いやすいか否かがあるくらいで、自分の魔法で特に優れていると思う物も特に劣っていると思う物もない。
「いえ...苦手というわけではないですが」
「ならその程度の属性でも一般的には極めたの領域に入ってるか、また別ルートで開拓したかの二択だな」
「流石に極めたというのは無理があるかと」
一般的な基準をまるきり知らないため何とも言い難いが、極めたと言えるかと問われれば答えは否である。かといって別ルートで開拓というのも考えにくい。
首をかしげて考え込む私の横で同じようにしていたラズさんは、疲れたのか飽きたのか、投げやりな声で言った。
「まぁそれも含めて明日だな」
「明日...明日ですね!」
今日だけで同じ言葉を何度か聞いていたが、鮮やかな樺色の空が悪さをしたのかもしれない。
明日という言葉に、思わず口角が上がった。
明日もラズさんといられる。
明日こそ魔法の事を知れる。
明日からは一人じゃない。
―頬を温める幸せには暫く慣れそうになかった。




