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ep.101

(単独...それも対単体か......)


魔法院からもらう仕事にはいくつか種類があり、一息に魔獣の討伐といってもその内容は様々だ。一匹では大したことのない魔獣の群れを纏めて討伐する場合もあれば、階級が低い魔法使いでは手に余る程の危険な魔獣を一匹討伐することもある。あるいは、広範囲に散らばっていることもあるし、そもそも生息域の断定ができておらず、漠然と指定された範囲から探し出して討伐することもある。

一般的には、対複数のほうが対単体よりも安全とされている。何故なら、数の把握さえできてしまえば、魔法院がその危険度に見合った人材を派遣するため、事故が起きにくいからである。対して、対単体は”個体の強さ”という曖昧なものが指標になるため、魔導士を除く一級以下の魔法使いで事故率が高いのは専ら対単体になっている。対複数も、あんまりにも度が過ぎる場合は、それこそギフテッドであるラズさんが出動する事態になったり、あるいは、ラズさんがセギリアによって倒れていた時期は、私やガブエラさん、セシリアさんが合同で対応に向かう時もあったので一概には言えないが、魔法院から仕事の通知が来て、それが対単体だと少し気を引き締めるというのは魔法使いなら誰しもが経験のあることだろう。

加えて、単独で依頼をこなすとなると、その事故率は跳ね上がる。そのため、単独且つ対単体の任務がくるというのは魔法院からの評価が高いことの裏返しでもある。


(......んだけど...)


あちらこちらとたらい回された結果、最終的に行き着いた魔法院の案内で示された森に向かうと、なにやら首の後ろがチリリと痺れるような特有の緊張感が走った。歳でいえばまだまだ若輩も若輩だが、魔獣を狩ってきた年数で言えば案外長い私の経験が、この森に潜む魔獣は危険だといってやまなかった。

私は浮遊魔法で空高く飛び上がり、おおよその状況を確認し始めた。前方に、轟音とともに火花を散らす飛竜が小さく見える。その下には、目視こそできないが、ドラゴンの火球を難なくいなしている人間が一人。今日、私が祭りの疲れでやや重たくなった足に鞭を打って会いに来たその人だろう。

彼女の実力は疑うまでもないのだが、あそこまで大きいドラゴンともなると、何かあってもおかしくない。私は、少しヒヤヒヤしながら戦闘の一部始終を観察していたのだが、終幕は案外あっさりと訪れた。

息を吐く暇もない三連撃の火球、左翼から放たれる風刃、次に右翼から、と続くところを、見事な氷魔法が遮った。付け根から美しく切り取られた右翼はずるりと胴から落ち、ドラゴンの咆哮がけたたましく響いたところで、続くもう一陣の氷の刃が首を両断する。空中で物言わぬ骸となったドラゴンは、そのまま地に落ち、大きな衝撃音が、私の不安は完全に杞憂だったことを知らせた。

私は心の中でぱちぱちと手を叩いて賛辞を送りながら、魔力検知を用いて目的の場所へと飛んで行った。


「お疲れ様です。フェリア」


着地と同時に声をかけると、フェリアはくるりと振り返ってすこし唇を尖らせた。


「せっかくなら手伝ってくれてもよかったのに」

「手伝おうと思ったらフェリアが終わらせちゃったんですよ」

「ホントかなぁ...魔法の起こりすら感じなかったけど」

「そりゃまだ使おうとしてませんもん。...まぁ、危なくなるようなら手伝おうとは思ってましたよ?」

「ほーら。やっぱり見てる気だったんじゃん。こんなので危なくなんてならないよ」

「む...。こんなの?」


ほどよく慢心しているようなので、ここは師匠らしく諫めておくべき、と、私は指の背でこつんとフェリアの額を小突いた。


「こら。忘れたんですか?どれだけの格下が相手でも魔法を扱う以上些細な事故で命を落としかねないんですよ。どれだけ魔法を使えても、体はか弱いままだということを忘れないように」


少し低い声で言うと、フェリアは肩をきゅっと縮こまらせて眉をㇵの時に曲げた。


「ご、ごめんなさい」

「わかったのならよろしいです」


私は空気を切り替えるためにぱちんと手を叩いた。


「フェリア。この後予定は?」

「ないよ。なにかあった?」

「いえ、少し相談、というか」

「相談?」

「はい。まぁ、まずは場所を変えましょうか。カフェにでも」





「うーん......そうだなぁ...」


二人連れたって入ったカフェのバルコニーで、フェリアは注文したレモンティーのストローに噛り付きながら外を見やった。

物は試しとフェリアにオズの件を話してみたのだが、返ってきたのは想像したよりも強い難色の色だ。


「あの、全然無理にとは言わないので...そこの店主さんも半分諦めてたとこがありますから」

「いやぁ、なんていえばいいんだろね」


今度はストローで中の氷をコロコロと回しながら、フェリアは言う。


「今、結構宙ぶらりんな時期でさ。ほら、学校も卒業したし、かといってどこかに勤めてるわけじゃないし、家の仕事も今のところ継ぐ気はないし」


どこか退廃的な溜息で一呼吸おいてから、へらりと笑って続ける。


「今、選択肢がありすぎて困ってるんだよ。多分ね。このまま魔法院からの依頼をこなし続けても日銭には困らないだろうし、もっと言えば、きっと何もしなくたってお父さんが養ってくれるだろうから、なにかする必要があるかすら怪しいの。むしろ選択肢が一つしかなかったら『これだ!』って飛びつけるのかもしれないけどさ。そんなわけで、今は絶賛将来悩み中」

「なるほど」

「これといってやりたいこともないんだよねぇ。なんか、最近燃え尽きちゃったのかな。なんだろ。」


気持ちは少しだけ分かった。私も、念願叶った今、同じような心境にいる。一つ違うのは、私にはまだ成し遂げていない目標があるということだろうか。まぁ、これは成し遂げると言っていいのかわからないが。


「魔法は好きですか?」

「好きだよ?勿論。でも料理も好きだし、読書も好きだし、編み物も好き。なんだかひとつに定まらなくって。なんだろうね、熱中?できないんだよね」


一瞬、オズのことは一旦棚に上げて、魔導士を目指してみてはどうかと聞こうかとも思ったが、この様子だと問題はそう単純ではないらしい。

ぐでっと机に被さったフェリアは、「マリエルはー?」と、足をパタパタ振りながら聞いてきた。

私は...まず第一にラズさんとの関係が進むことだろうか。しかし、これを言ってもフエリアには好きな人もいなければ、むしろ縁談を破竹の勢いで蹴っているとのことなので参考にならないだろう。次に来るとするならば......


「私は...以南地域の諸々を解決したいです」

「あー...そういえば、以南地域出身なんだもんね」


極北のことが明るみになった時、それと同時に以南地域への誤解がかなり減ったとはいえ、まだまだ共生しているとは言い難いのが現状だ。私が以南地域出身であるという事実は以北地域の人たちにとってかなり大きな情報だったようで、イレギュラーと以南地域という言葉が結びつき初めてようやく人々の認識も変わりつつある。以南地域と以北地域を隔てる石壁は無くなったものの、その先にはまだ深い森林が横たわっているため、実質的にはまだ物理的な障壁が残っているままだし、これは私が魔法で無理矢理森をなくしたとしても解決できるようなことではない。


「まぁ、私はマリエルが以南地域出身って聞いてもあんまり驚かなかったし、そもそも以南地域を見下してるのってお家柄的に古い価値観の人だったり、その...あんまり学がないような人たちが多いからさ、差別的な発言してると極北なんて言われちゃう世の中だし、マリエルが思ってるほど現状は酷くないかもよ?」


フェリアが言いたいこともわかる。現状がそこまで酷くないからこそ、この停滞が生れているわけだから、その停滞をもどかしく思う身として、フェリアの言い分には納得できる部分も大きい。けれど、実際に共生するとなった場合、どう足掻いても、魔法を使えない以南地域の人々は魔獣の駆除という一点において以北地域の人々に頼りきりになってしまう。そしてそれはフェリアに忠告した通り、命に係わる非常に危険なものだ。施されてばかりの関係もやはり共生とは言い難い。しかし、以南地域の人々は、一体何を差し出せばそれとみあうというのだろうか。


「以北地域の人々が皆フェリアのように無私なら私も楽観視できたのかもしれないですけど」

「ん?私、無私に見える?」

「はい。だって、私にあれだけの時間と労力をかけてくれたのに、フェリアがその見返りを求めたことが一度でもありましたか?」

「見返りなら今貰ってるよ」

「え...なんでしょう...?」

「こうして一緒にお茶会してる」

「...釣り合ってないです」

「それはマリエルが決められることじゃないよ」


強い語気とは裏腹に、フェリアは私の顔を覗き込んで優しく笑った。


「あんまり頭硬くならずにさ。ほら、私みたいになーんにも考えてない人だっているんだから、もっとほわほわぁーっと、ね?」

「ほわほわ、ですか...」

「そ。丁度マリエルがギフテッド様のこと考えるときみたくさ」

「な!?」


ぼんっと顔を真っ赤にする私を尻目に、フェリアは残っていたレモンティーを飲み切って、じろっと目を眇めた。


「なーに以南地域の話なんて出してごまかしてんのさ。そっちはどうなの?」

「ど、どうって...」

「ちゃんと進展してるのってこと。まさか、ずっと睨み合いなんてことないよね?」

「い、いや...それがですね」

「うん」


私は手を組んだり組みなおしたりして玩びながら、視線をそらして言った。


「私の実家に挨拶に来ることになりまして」

「え!?」

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