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ep.10

「弟子...ですか」


願ってもない、というか元々弟子にして欲しいと頼み込むつもりだったので、申し出自体は好ましい。

ただこちらから申し出るならまだしも、向こうからというのは何か理由があるのだろうか。

少しの間考えているとおじいさんが注文の品を持ってきたようだ。


「お待ちどうさま。カフェラテのミルク多めね」

「どーも」


ラズさんは小さくお礼を言って、カップに添えてあるスプーンをくるりと回した。優雅にカップを口元まで持っていき、一口飲んで元に戻す。一連の動作はかなり洗練されていて、動きの一つ一つがなんだか遅く見えてしまう程だった。

ラズさんはカップの前で手を組み、少し考える素振りを見せた。


「嫌なら全然構わないんだけど、お互いにメリットはあるとは思う」

「あの...私としては願ってもない話なんです。ただこちらとしても聞きたいことが山ほどあるというか...それを聞いてから答えを出してもいいですか?」

「いいもなにもこっちから提案してるんだ、今すぐじゃなくても構わないぞ。...で、何を聞きたいんだ」


ラズさんは回答を急いているわけではないらしい。

コーヒーを啜ってのどを潤しつつ、頭の中で聞きたいことをざっとまとめる。


「なぜラズさんはあの場に居たのですか?」


一番気になるのはそこだろう。

探しても探してもいなかったのに突如として現れた魔法使い。

村の長い歴史にも一度しか現れない存在が何故あのタイミングであそこにいたんだろうか。

それにラズさんの話では以南地域と以北地域で魔法使いとそれ以外はハッキリと分断されているらしいのでなおのこと何故ラズさんがあの場に居たのか分からない。


「あー...コレここだけのハナシな?」

「は、はい」

「俺は個人的に以南地域についてあれやこれやしてるんだけど、以南地域で膨大な魔力が検出されたってんで大事(おおごと)になる前に調べに行ったんだ。調べてくうちにフラっと村に来ては近隣の魔獣を一掃してどこかに消える旅人ってのにあたってな」

「...な、なるほど」

「お前にしてみれば赤子の手を捻るようなもんかもしれんが、魔獣ってのは本来鍛え上げた大人が何人もかかっていってようやく一匹殺せるようなもんで、何匹も村に襲い掛かってきた時点でそれは天災みたなもんなんだ。それをまぁ易々とやっちまうんだから末恐ろしいというかなんというか」

「その大人っていうのは魔法は使えない人の事ですよね?魔法を使える方だとどうなるんです?」


ラズさんは呆れたような視線になりながらコーヒーを飲み、はーっと大きくため息をついた。


「魔法使いでさえ魔獣を二桁以上同時に相手取るのは無理がある。それこそ高位の魔法使いにはお前みたいな出鱈目なやつもいるにはいるが大概はそうじゃない」

「そうなんですね」

「それに...」

「それに?」


少し言いにくそうに眉を寄せながら言う。


「以北地域の連中は以南地域の人間を何とも思っちゃいない。お前みたいな膨大なものでなくとも魔法使いとして魔獣を狩れる力は持っているというのに、以南地域で起きている防げる天災に見て見ぬふりをしてる。...まぁ俺もある意味じゃそのゴミどもと同類なんだけどな」


自分のことをゴミだと言った声は苦渋にまみれていた。

自己嫌悪と罪悪感、無力感に押しつぶされて、今にも折れてしまいそうな、そんな音がした。”ある意味”が何を指しているのかは見当もつかないが、ラズさんにとってそれは相当深刻なもので、出会って間もない私が踏み込むわけにはいかない事だけは確かだ。

本当ならそんなことないと言いたかった。実際、ここで上辺だけで、口だけで、否定してしまうのは簡単だろう。

だがそれをするにはあまりに私は無知すぎた。ラズさんの事も、世界の事も。

よく分からない事をわかったような口であれこれ言うのは好きではない。しかし、己の主義を横にやってでも今だけは何か言ってあげたくて私は口を開く。


「...ラズさんは悪い人なんですか」

「あぁ。すごく悪い奴だな」

「そうは見えません」

「そうか。なら、騙されてるな」

「乗り掛かった舟です。騙されていても、私は信じます」

「...勝手にしろ」

「はい」


知らないなら知ればいい。ラズさんにラズさん自身の事や世界の事についてじっくり教えてもらえば万事解決だ。

それに知らないなら知らないなりに判断してしまえばいい。

私の持つ全てがラズさんは自分で言うような人間ではないと訴えている。

もし万万が一騙されていたとしても、これまでの人生で騙されることなんてなかった訳で、それはそれで経験だろう。

尤も、そんなことにはならないと半ば確信しているのだが。

ラズさんは頭痛を訴えるかのようにこめかみを抑えながら残っていたコーヒーを一気に煽った。

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