河童[RIVER BOY]
【免責事項】本作品は[原作名]の同人創作であり、すべてのキャラクター、世界観、背景設定は[原作者/著作権者]のものである。『ハリーポッター』はJ.K.ローリングやワーナーブラザーズのものである。 この物語はフィクションであり、公式のシナリオとは関係なく、ビジネス用途には使用されていません。 創作は個人の趣味であり、権利侵害の意図はなく、内容と公式設定を混同しないでください。
港のレストランに漂う朝もやの中、アトリは海に向かって鼻歌を歌っていた。指先は波のリズムに合わせてテーブルを軽く叩く。グラスの縁に結んだ水滴に、突然四人の揺れる影が映った。
「おっ、アトリじゃねーか!」東方仗助の声は芝居がかった驚きに満ちていた。片手をポケットに突っ込んだままテーブルに立つ彼のモヒカン頭には、丁度よく朝日が金縁を施している。「こんなとこでサボってたのかよ?」
虹村億泰が仗助の背中から首を覗かせた。「わっ!その青い飲み物カッケー!ガソリン?飲めるの?」
「バカ、明らかにバタフライピーティーだろ」広瀬康一は苦笑いしながら訂正した。彼の腕には『日本妖怪志異』が抱えられている。
雪風が三人の間から突然割り込んできた。「ふん!邪魔だぞこの路駐...まあ、せっかく止まったことだし」彼女はアトリをチラリと見て、「仕方ない、話くらい聞いてやる」
アトリは頬を手のひらで包んだ。「みんなでお話しましょう~!ちょうど面白い話を思い付いたんです!」
仗助は即座に椅子を引いた。「おっ?俺の新ヘアスタイルより面白いのか?」
億泰はもうアトリの飲み物にストローを突っ込んでいた。「ズルズル――で、どんな話?UFO?巨大ロボ?」
「伝統的な怪談です」康一は本を丁寧に置きながら、「でも億泰さん、他人の飲み物を勝手に...」
雪風はしっぽの先でこっそり椅子を引き寄せていた。「どうせ子供騙しの...」
「人声を真似る河童の話です~」アトリは突然声を落とした。「深い霧に包まれた村で、毎夜真夜中に――」
「待てよ!」億泰がカップを置いた。「河童って田植え手伝う良い妖怪じゃねーの?親父が言ってた!」
仗助は額に手を当てた。「お前の親父、完全に混同してる...」
康一は素早くページをめくった。「実際、地方によって伝承が大きく異なり、中には確かに――」
「ザァーン!」
いつの間にかアトリにぴったりくっついていた雪風は、突然の波音にビクッと震えた。「潮、潮の満ち引きだ!別に怖くないんだから!」
アトリは億泰の背後を指差して笑った。「でも...あの池からさっき手が出てましたよ?」
「マジで!?」億泰は興奮して振り返った。「ペットにしよう!」
仗助と康一が同時に額を押さえた。「そっちかよ...」
新世界14年5月7日・夜
提灯に照らされた夏の川岸は昼のように明るく、焼きイカの香りとリンゴ飴の甘い匂いが漂っていた。アトリは綿菓子屋の前でつま先立ちになり、水色の浴衣の裾が夜風に軽く揺れていた。
「アトリにピンクの綿菓子ください!」両手を合わせた彼女の目はキラキラと輝いている。ふわふわのピンクの雲が手渡されると、思わず「わあ」と小さく声を漏らし、慎重に舌先で触れた。「甘い!」
綿菓子に夢中になっていた時、突然ふわふわとした何かがふくらはぎに触れた。下を見ると、見覚えのある黄色い電気ネズミがまん丸い目でこちらを見上げている。
「ピカチュ!?」アトリは驚きしゃがみ込み、綿菓子を落としそうになった。慌てて空いた手でピカチュの頭を撫でた。「どうしてここにいるの?」
「ピカ!ピカピ!」ピカチュは興奮してその場で一回転し、頬の電気袋が細かい火花を散らした。突然アトリの浴衣の裾を引っ張り、人混みの方へと誘導する。
「待ってピカチュ!アトリの綿菓子が落ちちゃう!」
人ごみをかき分けると、赤いキャップを被った少年が金魚すくいの屋台前で、破れたポイを呆然と握っているのが見えた。
「サトシ!」
振り向いた少年の帽子の下の目がぱっと輝いた。「アトリ!?」彼は三歩飛ばして駆け寄った。「まさかここで会えるなんて!」
ピカチュは器用にサトシの肩に飛び乗り、自慢げに「ピカピカ」と鳴いた。旧友を見つけたことを誇っているようだ。
「アトリも祭りに来てたのか?」サトシは額の汗を拭いながら、まだ滴る金魚網を手にしていた。
「ええ!アトリ、今夜はたくさん灯籠流しがあるって聞いて!」楽しそうにくるりと回った彼女は、ふとサトシの破れた網に気付いて指差した。「サトシ、金魚すくいしてたの?」
サトシは照れくさそうに頭をかいた。「もう三つも破っちゃって...ピカチュの方が焦ってるみたい」
「ピカ...」電気ネズミは耳を垂らして悔しそうな顔をした。
アトリは屋台を見回し、突然目を輝かせた。「アトリにやらせて!」綿菓子をサトシに慎重に渡す。「ちょっと持っててね」
新しいポイを受け取ると、アトリは水槽に集中した。機械の瞳が焦点を微調整し、泳ぐ金魚を捉える。手首が正確な角度で水面に切り込み、ポイが軽くすくい上げる――
「やった!」サトシが叫んだ。
「ピカチュ!」電気ネズミは興奮してアトリの肩に飛び乗った。
屋台のおじいさんは笑みを浮かべて金魚の入った袋を渡した。「お嬢さん、上手だね」
アトリは嬉しそうに戦利品を受け取り、サトシに向き直った。「アトリのシステムなら金魚の泳ぐ軌道が計算できます...あ!」彼女は何かに気付き、サトシの手を指差した。「サトシの綿菓子...」
サトシは初めて、見入りすぎて自分の頬にピンクの綿菓子を擦り付けていたことに気付いた。二人は顔を見合わせ、思わず笑い出した。
夜風が笑い声を運び去る中、川面からはどこか遠くの笛の音が聞こえてくる。ピカチュの耳がぴんと立ち、小さな前足で川の中ほどを指した。「ピカ!」
視線を向けると、無数の灯籠が流れ下り、川全体が光の帯に変わっていた。
「きれい...」アトリはため息をついた。
サトシは突然提案した。「ボート借りない?川の真ん中から灯籠が見られるよ」
「ピカピカ!」ピカチュは即座に賛成のジェスチャー。
アトリの目は星のように輝いた。「アトリ、ボートに乗ったことない!」ふと手の中の金魚に気付き、慌てて見回した。「でも金魚は...」
「一旦屋台のおじいさんに預けよう」サトシは笑った。「帰りに受け取ればいい」
こうして三人は船着き場へと走り出した。アトリの浴衣の袖は夜風に翻り、青い翼のようだった。ピカチュは先頭を走り、しっぽの電気が闇に明るい軌跡を描いた。
船が川心へと進む中、アトリは舷側に身を乗り出していた。冷たい川水が指先を撫でるたび、機械の瞳には水流のデータが映し出される。
「水温23.4度、流速0.8メートル毎秒...」
「相変わらず風景まで数値化するんだな」サトシの笑い声が割って入った。彼はピカチュの乱れた毛並みを整えていた。
「だってアトリは...」
突然、船体が激しく傾いた。波しぶきが上がり、バランスを崩したアトリは後ろへ倒れ込む――しかしそこでふわりと薔薇の香りに包まれた。
「危ない」
冷たい声が頭上に響く。見上げると、月明かりに浮かぶ金色の巻毛が銀縁を帯び、緑の瞳には灯籠の影が揺れていた。少年の胸元の金色のてんとう虫ブローチが額に触れ、夜露のように冷たい。
「ピカチュッ!?」逆立った電気ネズミがサトシの肩へ飛び移る。
「ジョルノ!?いつから...」
「揺れが酷かった」ジョルノ・ジョバァーナはアトリを扶けながら袖口を整えた。「君たちの平衡感覚は鍛えた方がいい」
アトリの冷却ファンが突然高速回転を始め、頬が微かに熱を帯びた。「あ、ありがとう!アトリの平衡システムは最新型なのに...」
ゴールド・エクスペリエンスの残像がジョルノの背後でちらつき、壊れた船板を修復する。サトシは納得したように頷いた:「やっぱりスタンド能力で来たのか」
「ピカ...」警戒するピカチュの顎を、ジョルノがそっと撫でた。
「動物は昔から私を好く」
川面に静寂が戻ると、アトリは遠くの孔明灯を指差した:「満月の夜、この川では不思議なことが起きるって聞きました...」
「例えば?」ジョルノの金髪が夜風に揺れる。
「例えば...」アトリは声を潜めた。「灯籠が星になって飛んでいくとか...」
サトシが吹き出した:「それってピカチュの10まんボルトでしょ!」
「ピカピ!」頬を膨らませる電気ネズミ。
ジョルノは星空を見上げ静かに言った:「イタリアでは、星は亡き人の瞳だと言う」
三人の間に流れる沈黙を、川のせせらぎだけが埋めた。アトリの機械の瞳に流星が捉えられた。
「アトリは...」囁くような声。「星たちが何かを伝えたくて光ってる気がする」
突然アトリが浴衣の帯を解き始めた。
「ちょ、待てよ!」サトシは慌てて背を向け耳まで赤らめた。「何する気だ!?」
「アトリ、潜水します!」浴衣をすっと脱ぐと、下には水色の水着が着られていた。
ピカチュが興味深そうに水着の素材を嗅ぐ。ジョルノは衣服を観察しながら:「夜間潜水は危険だ」
「大丈夫!アトリの水中探査システムは高性能です!」彼女は防水ライトをくわえ、親指を立てた。「川底を見てきます!」
ほとんど水しぶきも上げず、アトリは美しい飛び込みで水中へ消えた。
船内に残された三人。ピカチュが舷側に張り付き、耳を水面に押し当てる。サトシはアトリの浴衣を丁寧に畛みながら:「いっつも唐突だな...」
ガタンと船が震えた。
「ピカ?」
「おかしいな...」サトシが簾を開ける。「船が動かない」
ジョルノが立ち上がると――櫓は水中に突き刺さったまま、それを握るべき船頭の姿はない。舳先にはアトリの整然と畳まれた浴衣と、びしょ濡れの蓑が残されているだけだった。
川面は不気味に静まり返っている。サトシとジョルノが顔を見合わせ、同時に暗黒の水面を見下ろす。その深奥には何も――
「ザブン!」
アトリが水面に飛び出した。濡れた髪が頬に貼りつき、機械の瞳が月光に煌めく。「光る石を見つけました!ほら...」
声が途切れた。
サトシの顔面が血の気を失い、ピカチュの体毛が総立ちになっている。ジョルノが凝視する先には――
蓑を着た船夫の死体が、アトリのわずか1メートル先に浮かんでいた。首には三本の深い爪痕が刻まれ、まだ血がにじんでいる。
「きゃああああ――!!」
少女の悲鳴が夜を引き裂く。アトリの瞳孔が収縮し、冷却ファンが甲高い音を立てた。必死に後退しようとする彼女の周囲に水しぶきが上がる。
水面が爆ぜた!
漆黒の影が船底から躍り出る。濡れた黒毛に覆われた異形の肢体、魚のような丸い目、耳元まで裂けた口――
「ピカチュ!10まんボルト!!」
黄色い閃光が飛び降りる――しかし水猿は敏速に潜水し、電流は水面で散るだけだった。
「ピカ――!」
泳げないピカチュがばしゃんと水に落ちる。
「ピカチュ!」サトシが身を乗り出す。
その瞬間、アトリの横で水面が無音で割れた――
水猿の蒼白い顔が、鼻先まで迫っていた。腐敗臭のある息がアトリの顔にかかる...
パッと水猿の動作が凍りつく。
その瞳孔に映ったのは――
ジョルノ・ジョバァーナが空中に浮かび、黄金の巻毛が月輪を背に輝いている姿だった。背後には「ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム」が神々しい光を放ち、時間そのものが凝固した。
「君は真実に到達できない」
水猿の金切り声が響く。轉身して潜ろうとするその背中に、黄金の流星群が降り注いだ。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄――!!!!!」
各打撃ごとに黒毛が舞い、血霧が上がる。水猿の絶叫は次第に弱まり、最後は消え入るような嗚咽となった。
最期の一撃が炸裂すると、水猿の亡骸は猩々たる水しぶきを上げて川底へ沈んでいった。
夜明け時、ようやく水猿の遺骸を岸へ引き上げた。
朝日に照らされたその異形――黒毛に覆われた皮膚、鱗状の組織、指間の水かき。首輪には「実験体7号」の刻印が。
「人間が作った生物か...」サトシが呟く。
「違法な遺伝子実験の犠牲だ」ジョルノの声は平静だが、眉間に怒りの影が浮かぶ。
集まった村人たちの中から白髪の老人が進み出た:「これが...わしらの川を荒らした化け物か」
アトリは鉄環を指差した:「でもこれも...被害者なんです」
火葬の炎が上がる中、アトリは燃え盛る炎を見つめた。「もし改造されてなかったら...」
サトシが肩を叩く:「アトリのせいじゃない」
ジョルノは川面を見つめながら:「運命とは最初から決まっているものだ」
ピカチュがアトリの頬にそっと寄り添う。三人と電気ネズミの背後で、長年村を覆っていた霧が晴れていった。
スタジオの照明が灯る。背景には「神秘生物ファイル」の巨大ロゴが輝く。
「本日は美食四天王のアブさんをお迎えしました」眼鏡をかけたミュルシエンスが微笑む。「先日起きた水猿事件を解析していただきます」
画面が切り替わり、丸焼きの猪を頬張るアブが映る。「うまい!...あ、始まってた?」
「アブさん!まずは標本のご説明を...」
「これだ!」突然取り出したホルマリン漬けの水猿。「十人前の特製BBQと交換した!」
ミュルシエンスがたじろぐ:「番組準備の品じゃ...!」
「食えば旨いんじゃね?」アブは真剣な顔で標本をひねる。「DNA解析より舌で確かめるのが...」
「アブさん!」
エンドロールが流れ始めても、スタジオではまだミュルシエンスの怒声とアブの笑い声が響いていた――
(完)
作者はとても疲れている(-_-)zzz