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24 モブ、旅人の追放を断るⅡ

 イングラシウスの時にガンギマリショタに言い渡された十日に渡る軍務を終え、オレはクタクタだった。あのやろう、妖精の森につっこませやがって。


『(_ _ ;;)スミマセン、タイヘンナ迷惑ヲオカケシマシタ』


「いや、イングラシウスはいいんだ。上官としてメンバーの心が病んでいたことに気づけなかった責がオレにはあるからな」


 己のせいだからとオレにくっついてきたイングラシウスが頭をペコペコさげている。こうして軍務を手伝ってくれただけでも嬉しいのだが。


 というか、それよりも気になることがオレにはあった。


 サリウス教のシンボルはカップで、牧師は黄金でできたそれを胸もとにさげているのが常である。イングラシウスもこれまではそうだったのだが、今は違っていた。


「そのペンダントにはいったいなにを入れているんだ。妖精と三日三晩戦っている時もずっと握りしめていたが」


『(^^;)イエ、タイシタモノデハ……』


 なぜか焦った顔をしたイングラシウスにすさまじく嫌な気がしたオレは、すっとペンダントをとりあげた。


 死にもの狂いでとりかえそうとしてくるイングラシウスをかわしながら、オレはペンダントをひらく。


 そこに入っていたのは、糸でくくられた黒の髪の毛であった。


「おい、イングラシウス」


 ちなみにオレも黒髪である。ちょっと鳥肌がたった。


 そういえばオグダネル城跡では兵はほかの人に頼んで髪をきってもらうことになっているのだが、その時そばにイングラシウスがいたような。


 さすがのオレもちょっとこれには絶句する。イングラシウスはというと首から頭のてっぺんまで顔を赤くして震えていた。


『(  ゜ ▽ ゜ ;)ビ、ビックリデス。ゴミガ紛レコンダノカナ』


「そ、そうだな。これはたまたま、たまたまなんだよな」


 どう考えてもイングラシウスが断りなしに手に入れたオレの髪である。というか、なにをどうしたら髪の毛がひとりでに糸でくくられてペンダントに入りこむのだ。


 だが、オレはそこまで踏みこむ勇気がなかった。


 イングラシウスの口にしたわかりきっている嘘を信じるふりをする。今にも死にそうな顔をしているイングラシウスにとってもオレにとってもこれが最善だ。


 『(;´∀`)ソレデハ失礼シマス』


 ぴゅーっと風のように逃げていくイングラシウスが去ってから、オレは深いため息をついた。おいおい、ほんとにどうするんだよ。


 あまりにもの驚きで壁にもたれかかって頭をかかえる。


 今後のイングラシウスとのつきあいでひどい頭痛に苦しめられているその時、ふと花の甘ったるい香りがした気がした。


 ばっと、いきなりのびてきた腕に背後の一室にひきずりこまれる。暗がりにつれこまれたオレは扉がそっと閉じていくのをみつめるほかなかった。



 ◆◆◆◆◆



「まったく君はひどいなぁ。僕と目と鼻の先であんなにイチャつかれたら悲しくなってしまうよ」


「あれがイチャついているようにみえるのなら、軍医にかかることを考えてみてもよいのではないか。なあ、モルグレイド」


 オレをさらった犯人のモルグレイドが、うなじに顔を埋めてくる。病気が治ったと思ったのにまだ甘えてきている、オレはため息をついた。


「なんだ、また熱がぶりかえしたか。さっさとベッドに潜りこんでおけ」


「うわ、ひどっ。僕は君が軍を辞めるのを手伝ってあげてるっていうのに、そんなことを言っちゃうんだ。ほんとうに女の子の敵だね」


 またあの話か、オレは眉をひそめた。


 果実を土産にみまったあの日から、モルグレイドはずっとオレを追放してやると言って聞かない。昔のオレなら喜んだかもしれないが、今はできるとは思えなかった。


 イスファーナやアルハンゼン先生、恐らくはイングラシウスまで。


 オレが軍を辞めるとすれば困ったことにひっついてくるだろう。というか、ああいう風に話をつけたのだからつれていかなければオレがひどい目にあわされる。


 そのことを考えた時、どうしてもオレはアグラシュタインが頷くとは思えない。


 オレひとりならまだなんとかなったかもしれないが、いくら謎めいていてなんでもできそうなモルグレイドと言えども追放は夢のまた夢としか思えなかった。


「だからその話はもういいと言っているだろう。どうせアグラシュタインを説きふせることなどできない」


「でも、叶ったら嬉しいんだろう」


 モルグレイドの瞳がまっすぐにオレをつきさす。オレは思わず頷いてしまった。


「それは、そうだが」


「なら話はそれできまりだ」


 にぱっと笑ったモルグレイドがまたオレに抱きついてくる。いいかげん甘えんぼうモードは終わりにして欲しいとモルグレイドをひきはがそうとした時だった。


「いいじゃないか、君が軍を辞めたら僕とはもう会えない。それに、アグラシュタインを説くのは僕でも骨が折れたよ」


 どこか泣きそうな口調で、モルグレイドが耳もとにささやいてくる。初めて耳にするようなモルグレイドに、オレは思わず固まってしまった。


「だから、だから僕もすこしはいい思いをしたっていいんじゃないかな」


 そのままモルグレイドはオレにしだれかかってくる。


 そのゾッとするほど冷たい肌がペタリとはりついて、オレはなにも言えなくなった。モルグレイドはそのまま痛いぐらいにオレを抱きしめる。


 そうしてしばらく、モルグレイドはオレからはなれようとしなかった。



 ◆◆◆◆◆



「ミッカネン、貴官に辞令をくだす。王都にて軍大学の教官になれ」


「はい、了承いたしまし、は?」


 敬礼をしようともちあげた腕が、宙でとまる。今耳にしたことが信じられず、オレはまるで幽霊でもみたかのようにアグラシュタインに目をこらした。


 人類が勝つためにはいくらでも死人の山を築こうとするあのガンギマリショタが、狩人を銃後にさがらせることを許した、だと。


 書類に目を落としたまま、アグラシュタインはつまらなそうに口をひらいた。


「聞こえなかったか、ならばいくらでも言ってやる。あさってのトロッコに乗って王都の軍大学にいけ、これで本官が貴官にくだす命も終わりだ」


 頬をつねってみても痛い。ということは、これは夢ではないらしい。


「ちなみに、イスファーナとイングラシウスも貴官とともに軍学校で教官を務めてもらうことになる。アルハンゼンは王都のラボに栄転だ」


 さらに続けるアグラシュタインに、もうオレは疑問と驚きで頭がはちきれそうだった。まさか、オレだけでなくほぼパーティーすべてを戦地から去らせるというのか。


 ありえない、よりにもよってあのガンギマリショタがこれを許すはずがない。


「な、なぜいきなり……。この戦地ではいくら狩人がいたとしても困りはしないと常々口にされていたではないですか」


「ミッカネン」


 問いかけが口をつき続けるオレを、アグラシュタインがじっとみつめる。


「これは貴官が望んでいたことなのだろう、すくなくとも本官はモルグレイドからそのように聞いているぞ。ならば喜べばよいだろう」


 モルグレイド、その名にオレはつい先ほどのことを思いだした。軍務終わりのオレを一室にひきずりこんで甘えてきたあのモルグレイドのことを。


 だから言ったじゃないか、僕が軍から追放してあげるって。


 どこかから、ニヤニヤしたモルグレイドの笑いが聞こえてくるような気がした。ではどうやってモルグレイドはこのガンギマリショタを説きふせたというのか。


「モルグレイドからいったいなにを言われたのですか」


「黙秘する、このことを貴官に話すことは軍略に背く。わかったならさっさと荷をまとめて王都に飛べ」


 まるで話をうちきるかのように、アグラシュタインは大きな音をたてて読んでいた書類へのサインを始めた。そのままオレに目もくれない。


「し、失礼しました」


 沈黙をこらえかねて、オレは敬礼して扉に手をかけた。


 もちろん頭のなかを数えきれないほどの疑問が飛んでいる。だが、心のどこかで戦地から遠ざかれることを狂喜する己もいた。


「……どうせ、モルグレイドがいくら心を砕いたとて貴官は帰ってくると思うがな」


 扉が閉じかけたその時、ぼそりとアグラシュタインが呟く。オレがふりむいたその鼻先で鋼鉄の扉はアグラシュタインの姿を隠した。

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