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第9話:揺らぐ遺跡と新たな道


エリシアは厳しい表情で顔を上げた。

「……まずい。奥で、また何か起きてるみたいだ。さっきとは違う……もっと大規模で、不安定なエネルギー反応が……!」


ゴゴゴゴゴゴ……!


彼女の言葉を裏付けるかのように、遺跡の奥深くから伝わってきた地鳴りのような低い振動は、急速にその勢いを増していく。足元の床がガタガタと揺れ、天井からはパラパラと砂塵が舞い落ちてきた。


「な、なんだぁ!? 地震か!?」

ゴードンが狼狽した声を上げる。


「違う! これは単なる揺れじゃない!」

エリシアが解析ツールを睨みつけながら叫んだ。

「遺跡内部のエネルギーラインが暴走してる! それに呼応して、空間情報が……『バグ』が自己増殖してるんだ! このままだと、通路ごと崩壊するかもしれない!」


彼女の言葉通り、周囲の景色がぐにゃりぐにゃりと歪み始めた。壁に描かれていた古代の模様が、まるで生き物のように蠢き、床の一部が不自然に隆起したり陥没したりする。通路の奥からは、ゴウッ!と風が逆巻くような音と共に、目に見えないエネルギーの波のようなものが迫ってくるのを感じた。それは、先ほどのバグ・キメラとは違う、もっと抗いようのない、環境そのものが牙を剥くような脅威だった。


「くそっ! あの石版のせいか!?」

カイトが悪態をつくが、原因を特定している暇はない。


「こっち! この先に分岐路があったはず!」

エリシアは即座に判断し、先導して走り出した。俺も、まだ完全ではない体に鞭打って、彼女の後に続く。勇者たちも、文句を言う余裕もなく、慌ててついてきた。


ズドドドドッ! バリバリッ!


背後で、通路の天井や壁が崩落する音が響き渡る。迫りくるエネルギーの波が、遺跡の構造そのものを破壊しているのだ。


「きゃあああっ!」

セリアが悲鳴を上げた。俺たちが通り過ぎたばかりの場所の天井が、巨大な岩塊となって落下してきたのだ。


(まずい!)


このままでは、いずれ崩落に巻き込まれる。俺は咄嗟に右手を崩れてくる瓦礫に向けた。

(イメージは……受け止める、じゃない。『収納』するんだ!)


収納ストレージ!』


強く念じると、右手の先に再びあの抵抗感が走る。だが、今度はキメラの時とは少し違う。対象が明確な「物」であるためか、あるいは切羽詰まった状況がそうさせるのか、崩れ落ちてくる瓦礫の一部が、まるで吸い込まれるように、ノイズを発しながら空間の裂け目のような場所に消えていく!


「お、おい、今……」

ゴードンが驚愕の声を上げる。


だが、代償は大きい。スキルを使った瞬間、再び激しい疲労感と頭痛が俺を襲う。

「ぐっ……!」

足がもつれ、倒れそうになるのを、隣を走っていたエリシアが支えてくれた。


「ノア! 無理しちゃダメだって!」

「で、でも……!」


「今は進むのが最優先! 私が援護する!」

エリシアは杖を構え、前方から迫る空間の歪みや、新たに崩れてくる壁の一部に向けて光弾を放つ。直接的な破壊力はなくても、エネルギー的な干渉で、歪みをわずかに抑えたり、崩落のタイミングをずらしたりしているようだった。

カイトも、舌打ちしながらも聖剣を抜き放ち、飛んでくる大きな瓦礫を斬り払っている。ゴードンとセリアも、必死に走りながら、それぞれ防御魔法や牽制で続く。


皮肉なことに、絶対的な危機を前にして、俺たちの間には一時的な、歪な連携が生まれていた。


「見えた! あそこだ!」

エリシアが前方の分岐路を指差す。本道から外れた、狭い脇道だ。


俺たちはなだれ込むように脇道へと飛び込んだ。直後、背後で本通路が完全に崩落する、凄まじい轟音が響き渡った。間一髪だった。


脇道に入ると、不思議なことに地鳴りや空間の歪みは幾分か収まっていた。どうやら、この区画は本通路のエネルギーラインから外れているか、あるいは何らかの防御機構が働いているのかもしれない。

俺たちは、ぜえぜえと荒い息をつきながら、通路の奥へと進む。


やがて、一つの石扉の前にたどり着いた。扉は重く閉ざされているが、隙間から内部の様子がわずかに窺える。比較的損傷が少なく、安定した空間のようだ。


「……ここなら、少しは安全かもしれない」

エリシアは解析ツールで周囲の安全を確認すると、扉に手をかけた。古代の仕掛けが施されているのか、少し手間取ったが、やがてゴゴゴ…と重い音を立てて扉が開く。


中は、広々とした円形の部屋だった。壁にはやはり複雑な紋様が刻まれており、中央には祭壇のような石の台座が置かれている。外の喧騒が嘘のように静かで、ひんやりとした空気が漂っていた。


「……助かった……のか?」

ゴードンがへたり込む。セリアも壁に手をつき、消耗しきった様子だ。カイトは、苦々しげに周囲を見回している。

俺も、ようやく人心地つき、壁にもたれかかった。さっき無理にスキルを使ったせいで、頭痛が酷くなっている。


「……完全に安全とは言えないけど、ひとまず、あのエネルギーの奔流からは逃れられたみたいだね」

エリシアは息をつきながらも、すぐに研究者の顔に戻り、部屋の壁に刻まれた紋様を調べ始めた。

「この紋様……さっきの通路にあったものとは少し違う……これは、何かの制御システム? それとも……」


彼女が解析ツールを壁にかざすと、ツールがこれまでとは違う、複雑な反応を示した。

「……! このエネルギーパターン……! まさか……転送装置だわ!」

エリシアが驚きの声を上げる。


「え? じゃあ、これが……?」

俺が尋ねると、彼女は興奮気味に頷いた。


「うん! たぶん、この部屋自体が転送装置の一部、あるいは、転送装置のある場所へと繋がるための制御室なのかもしれない! 壁のこの古代文字……解読できれば、起動方法や転送先が分かるかも!」


希望の光が見えてきた。この部屋が、俺たちの目的地への鍵となるかもしれないのだ。

だが、エリシアが古代文字の解析を始めようとした、その時だった。


カイトが、おもむろに俺の前に立ちふさがった。

「……ノア。少し、話がある」

その瞳には、先ほどまでの疑念や嫉妬とは違う、何か別の……探るような色が浮かんでいた。

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