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第7話:力の奔流、その代償

『――ストレージ(収納改・対象削除)』!!

心の底からの叫びと共に、俺の右手から奔流のような力が溢れ出す。それはもはや、俺の意思で制御できるものではなかった。ただ、目の前の異形――バグ・キメラの存在を『削除』したいという、強烈なイメージだけが俺を突き動かす。


瞬間、世界が真っ白な光に包まれた。

耳をつんざくような音も、空間が軋むような振動も、全てがその絶対的な光の中に飲み込まれていく。まるで、世界の法則そのものが、一瞬だけリセットされるかのような感覚。


どれくらいの時間が経ったのか。

光がゆっくりと収まっていくと、俺は立っていることすらできず、その場に膝から崩れ落ちた。

「はあっ……はあっ……はあっ……!」

全身の力が抜けきり、呼吸をするだけで精一杯だ。頭が割れるように痛み、視界がチカチカと明滅している。スキルを使った代償は、想像以上に大きかった。


「ノア! 大丈夫!?」

エリシアが真っ先に駆け寄り、俺の体を支えてくれる。彼女の声が、少し遠くに聞こえた。


「……キメラは……?」

俺は掠れた声で尋ねる。


エリシアは息を呑み、俺たちがいた通路の奥――先ほどまでバグ・キメラがいた場所を指差した。

そこには……何もなかった。

あの巨大で異様な怪物の姿は、影も形も残っていない。まるで、最初から存在しなかったかのように、完全に消滅していたのだ。

それだけではない。キメラの出現と共に発生していた空間の歪みや、壁や床に見られたモザイク状のノイズも、今は嘘のように収まり、元の静かな遺跡の通路に戻っている。


「……消えた……? いや……『削除』された……?」

エリシアは信じられないものを見るように呟き、そして俺に向き直った。その瞳には、驚きと、畏れと、そして強い懸念の色が浮かんでいた。

「今の……一体、何をしたの、ノア……? あれは、ただのスキルじゃない……何か、もっと根源的な……」


俺には、エリシアの言葉に答える力も残っていなかった。ただ、自分の右手が、まるで自分の物ではないかのように微かに震えているのを感じていた。


その異常な光景を、勇者パーティーの三人も目の当たりにしていた。

ゴードンとセリアは、恐怖に顔を引きつらせ、腰が抜けたようにその場にへたり込んでいる。

カイトだけが、憎々しげに、そして信じられないという表情で、俺を睨みつけていた。


「……ありえない……。なんだ、今の光は……。あの化け物が、一瞬で……?」

彼は言葉を失い、ただ目の前で起きた現実を受け入れられないでいるようだった。そして、その矛先を俺に向ける。

「ノアッ!! 何をしたんだ、貴様ッ! その力はなんだ! 俺たちの知ってる【収納】じゃないぞ! いつからそんな力を隠していた!?」


カイトが怒鳴りながら詰め寄ってくる。その剣幕に、俺は身を竦ませた。

隠していた? 違う。俺だって、こんな力があるなんて知らなかった。それに……。


(昔から……俺のスキルは、何も変わってないはずなのに……)


駆け出しの頃、まだ皆が弱かった時代。あの頃は、無限にアイテムを運べるだけでも、パーティーにとって必要だったはずだ。それがいつからか、戦闘能力ばかりが重視され、俺は「ハズレ」になった。俺は変わっていない。変わったのは、周りの状況と、彼らの俺を見る目だ。


「やめなよ!」

エリシアが、俺を庇うようにカイトの前に立ちふさがった。

「ノアは今、消耗してるの! それに、彼が何をしたにせよ、あなたたちが原因でしょ!? あの化け物は、あなたたちが何かしたせいで現れたんじゃないの!?」


エリシアはカイトたちを鋭く睨みつける。彼女の毅然とした態度に、カイトは一瞬怯んだように見えた。

「なっ……俺たちのせいだと!? ふざけるな! あれは、この遺跡の罠だ!」

「そうよ! 私たちは悪くないわ! あの変な石版が……!」

セリアがヒステリックに叫び、ゴードンも「そうだそうだ」と頷く。見苦しい責任のなすりつけ合いが始まった。


どうやら、やはり彼らが遺跡の奥で発見した「石版」が原因らしい。おそらく、古代の強力な封印か、あるいは危険な装置の制御版のようなものだったのだろう。それを知識もなしに、功名心か何かで起動しようとして失敗し、バグとキメラを呼び出してしまった、というところか。


「……もういいです」

俺は、か細い声で呟いた。エリシアが心配そうにこちらを見る。

「今は、言い争ってる場合じゃ……」


「その通りだね」

エリシアは俺の言葉を引き継ぎ、ため息をついた。

「あなたたちが原因なのは明らかだけど、今はそれを詰めてる時間はない。この先のバグがどうなってるか分からないし、何よりノアを休ませないと」


彼女はそう言うと、改めて周囲を見渡し、そしてカイトたちに向き直った。

「私たちは、この遺跡のさらに奥にある転送装置を目指す。あなたたちはどうするの? ここで待ってる? それとも、自分たちで出口を探す?」


エリシアの言葉に、勇者たちは顔を見合わせる。

出口を探す? この危険な遺跡の深部で、ボロボロの状態で? それは無謀だろう。かといって、俺たちについてくる? 追放した相手に?

彼らのプライドがそれを許すとは思えなかったが、現状、他に選択肢はなさそうだった。


カイトは苦虫を噛み潰したような顔で、しばらく黙り込んでいたが、やがて決意したように口を開いた。

「……ふん。お前たちだけで行かせるわけにはいかんだろう。その得体の知れない力も気になるしな。俺たちも、ついていかせてもらう」


それは、協力の申し出というよりは、監視宣言に近い響きだった。エリシアは少し眉をひそめたが、今は彼らを追い返すわけにもいかないと判断したようだ。

「……分かった。ただし、足手まといになるようなら、置いていくからね」

「誰が足手まといだ!」


カイトが反論しかけたが、エリシアの冷たい視線に言葉を呑んだ。

こうして、奇妙な同行が決定した。追放した側と、された側。そして、世界のバグを追う研究者。歪なパーティーが、遺跡の奥深くへと進むことになったのだ。


「ノア、立てる? 少し休んだ方が……」

エリシアが俺を気遣ってくれる。俺は頷こうとしたが、その瞬間、急激な脱力感と目眩に襲われた。

「うっ……!」

体がぐらりと傾ぎ、エリシアに支えられる。

「ノア!?」


どうやら、先ほどのスキルの暴走は、俺の体に思った以上の負荷をかけていたらしい。意識は保っているものの、立っているのもやっとな状態だった。

「まずいな……これは、すぐには動けないかも……」

エリシアが俺の顔色を見て、深刻な表情になる。


キメラの脅威は去ったかもしれない。だが、俺自身の状態と、そして、胡散臭い同行者たちという、新たな問題が目の前に横たわっていた。

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