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第5話:再会と厄災の足音

通路の奥から響き渡る轟音と、聞き覚えのある声。

俺とエリシアは、咄嗟に通路脇の崩れた瓦礫の陰に身を隠し、息を潜めて奥の様子を窺った。心臓が早鐘のように打っている。あの声……間違いなく、俺を追放した勇者カイトたちのものだ。


「まさか……あの人たちか……!?」

俺の呟きに、エリシアも険しい表情で頷く。

「みたいだね……。しかも、かなりまずい状況に陥ってるっぽい」


彼女の言う通りだった。

轟音と叫び声は徐々にこちらへ近づいてくる。そして、通路の曲がり角から、見知った顔ぶれが転がり込むように姿を現した。


先頭を切って走ってくるのは、勇者カイト。かつての自信に満ちた表情は見る影もなく、鎧は傷つき、息を切らして必死の形相だ。

「くそっ、くそっ! なんなんだ、あいつは! なんでついてくる!」

悪態をつきながらも、その目には明らかな恐怖の色が浮かんでいる。


続いて、魔法使いのセリアと戦士のゴードンも現れた。セリアはローブの裾を泥で汚し、髪を振り乱して半狂乱に近い様子だ。

「だから言ったじゃない! あの怪しい石版に触るからよ!」

「うるせえ! 誰のせいだとか言ってる場合か!」

ゴードンも大剣を杖代わりにしながら、肩で大きく息をしている。その体には新しい傷がいくつも刻まれていた。


彼らは間違いなく、何かから逃げていた。そして、その「何か」は、彼ら勇者パーティーですら手に負えない、恐ろしいものであることを、その狼狽ぶりがありありと示していた。


彼らが走り抜けていった通路の奥から、ズシン……ズシン……と、地響きのような重い足音が近づいてくる。そして、それに伴って、周囲の空間が奇妙に歪み始めた。壁の模様がぐにゃりと溶けたように見えたり、床の一部が蜃気楼のように揺らいだりしている。エリシアが言っていた『バグ』――空間情報が乱れている証拠だ。


「ひどいバグだ……。存在しないはずの経路が生成されたり、物理法則が局所的に書き換わったりしてる……。それに、あの足音……ただの魔物じゃないね」

エリシアは解析ツールをかざしながら、冷静に、しかし厳しい声で呟く。


俺は、瓦礫の隙間から、逃げていく彼らの背中を見ていた。

俺を役立たずだと罵り、ゴミのように捨てた連中。彼らが今、窮地に陥っている。正直に言えば、心のどこかで「いい気味だ」と思う気持ちがないわけではなかった。

だが、それと同時に、彼らの恐怖に満ちた表情や、ボロボロになった姿を見ると、複雑な感情が湧き上がってくる。彼らは確かに傲慢で、俺に対して酷い仕打ちをした。それでも、ついこの間まで一緒に旅をしていた仲間(と俺は思っていた)だったのだ。


(……見捨てるのか? 俺も、彼らと同じように?)


あの時、俺がゴーレムの前に飛び出した時の気持ちが蘇る。見殺しには、したくない。たとえ、相手が誰であろうとも。


ズシン!!


ひときわ大きな地響きと共に、通路の奥から巨大な影が姿を現した。

それは、これまでに見たどんな魔物とも違う、異様な存在だった。

まるで、複数の魔物が無理やり融合させられたかのような、歪で不安定なフォルム。体の一部は岩石のように硬質化しているかと思えば、別の部分は粘液のようにどろりと溶け、さらに別の箇所からは機械のような金属質の触手が蠢いている。そして、その全身が、先ほど見た壁や床のように、ノイズが走ったモザイク画のように明滅し、その輪郭すら曖昧に見えた。


「な……なんだ、あれは……!?」

俺は思わず息を呑む。


「……『バグ』の影響で変質・融合したキメラ……いや、それだけじゃない。古代遺跡の防衛機構の一部も取り込んでるみたいだ。厄介すぎる……!」

エリシアが解析結果を読み上げ、苦々しげに顔を歪める。


その異形の怪物は、逃げる勇者パーティーをゆっくりと、しかし確実に追っていた。時折、金属質の触手を伸ばして攻撃を仕掛け、カイトたちが悲鳴を上げながらそれを回避する。


「このままじゃ、追いつかれるぞ!」

「セリア! 何か魔法は!?」

「もう魔力がほとんど残ってないのよ!」

「くそっ、あの時、変な石版さえ起動させなければ……!」


彼らの会話の断片から、状況が把握できてきた。どうやら、彼らが遺跡の奥で発見した何らかの石版(おそらく古代遺物)に不用意に触れたか、あるいは起動に失敗した結果、この異常事態――『バグ』の発生と、異形の怪物の出現――を引き起こしてしまったらしい。


(自業自得、なのかもしれない。けど……)


異形の怪物の動きは鈍重に見えるが、その体から放たれるプレッシャーは凄まじい。そして、周囲の空間を歪ませる『バグ』の影響も、徐々に広がってきているようだった。俺たちが隠れている場所の近くの壁も、ぐにゃりと歪み始めている。


「ノア、まずいよ! このままじゃ、私たちもあのバグに巻き込まれる!」

エリシアが警告する。

「それに、あの怪物を放置したら、バグがさらに拡大して、遺跡全体……いや、外の世界にまで影響が出るかもしれない!」


エリシアの言葉は、俺に決断を迫っていた。

隠れてやり過ごすか? それとも……。


「ノアのスキルなら……あの歪んだ空間に干渉できるかもしれない!」

エリシアが俺の目を見て言った。

「さっき、空間を固定したり、歪ませたりできたでしょ? もし、あの怪物の動きを一瞬でも止められたら……あるいは、バグで不安定になってるあいつの『情報』を、あなたの【収納】で一部でも削り取れたら……!」


可能性は低いかもしれない。俺のスキルはまだ不安定で、制御もできない。

でも、試してみる価値はある。俺がここで何もしなければ、勇者たちはもちろん、俺たち自身も危ない。そして、エリシアの言う通り、もっと大きな被害が出るかもしれない。


(やるしかない……!)


俺は短剣を握りしめ、覚悟を決めた。

追放された俺が、彼らを助ける義理はないのかもしれない。だが、これは彼らのためだけじゃない。俺自身と、隣にいるエリシアのために。そして、この世界の『異常』を正すために。


「……エリシアさん。やりましょう」

俺の言葉に、エリシアは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに力強く頷いた。

「うん! やってみよう、ノア! 私も全力でサポートする!」


俺たちは瓦礫の陰から飛び出すタイミングを計る。勇者たちがこちらに気づかれないように、そして、怪物の注意を引けるように。


「今だ!」


エリシアの合図で、俺たちは通路に飛び出した。


「なっ……!?」

「誰だ!?」

突然現れた俺たちに、勇者パーティーの面々が驚きの声を上げる。特にカイトは、信じられないものを見たかのように目を見開いていた。

「の……ノア!? なぜお前がこんなところに!?」


だが、彼らの驚きに構っている暇はない。俺は、迫り来る異形の怪物――『バグ・キメラ』とでも呼ぶべき存在に意識を集中し、右手を突き出した。


収納ストレージ』!!


狙うは、あの不安定に揺らめく空間そのもの。あるいは、バグによって構成されたキメラの存在情報。

さっきの実験のように、空間を歪ませるイメージを、全力で叩きつける!

ご覧いただきありがとうございます!

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