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第24話:新たな始まり

ここから第2部の開幕です。


柔らかな日差しが、瞼を通して意識を呼び覚ます。

ゆっくりと目を開けると、見慣れない木の天井が視界に入った。清潔なシーツの感触と、微かに薬草のような匂いがする。


「……ん……」


体を起こそうとすると、まだ全身に重い倦怠感が残っていたが、あの遺跡の中で感じていた限界的な疲労や、割れるような頭痛はだいぶ和らいでいた。


「あ、ノア! 目が覚めたんだね!」


すぐそばから、明るい声が聞こえた。見ると、ベッドの脇の椅子にエリシアが座って、心配そうにこちらを覗き込んでいた。彼女の顔にもまだ疲労の色は残っているものの、少しだけ血色が戻っているように見えた。


「エリシアさん……俺、どれくらい……」


「丸一日半、ってところかな。ギルドの人たちが運んでくれた後、ほとんど眠り通しだったよ。無理もないけどね。本当に、よく頑張ったんだから」

エリシアはそう言って、安心したように微笑んだ。


俺は周囲を見回す。どうやら、ここはギルドが用意してくれた簡易的な宿泊施設の個室のようだ。遺跡入り口の喧騒はなく、静かで落ち着いた環境だった。


「助かったんですね……本当に……」

改めて生還した実感が湧き上がり、安堵の息が漏れる。あの崩壊する空間、カイトの最後の姿……悪夢のような出来事が、少しずつ現実味を帯びて蘇ってくる。


「うん。私たちを保護してくれたのは、遺跡の異常を調査に来ていたギルドの捜索隊だったみたい。あの後、すぐに遺跡の入り口はギルドによって一時的に封鎖されたって」


「そう、ですか……」

封鎖されたということは、カイトの安否を確認することも、今はできないということか……。俺の表情に何かを読み取ったのか、エリシアが少しだけ悲しげな顔で続けた。


「……カイトさん達のこと?」

彼女の視線の先、部屋の隅にある別の簡易ベッドに、二人の姿があった。ゴードンは壁に向かって座り込み、大きな背中を丸めている。セリアは毛布にくるまり、顔を伏せていた。どちらも、俺が目を覚ましたことに気づいているのかいないのか、反応はない。


カイトを失った衝撃は、彼らにとって計り知れないものだろう。パーティーが事実上壊滅し、今後の当てもない。その絶望感は、想像に難くない。

そして、その原因の一端が自分たちにあること、そして、自分たちが見下していた俺の力によって助けられたという複雑な現実も、彼らを苦しめているのかもしれない。


「……俺の、スキル……」

俺は自分の右手を見つめながら呟いた。あの力の奔流、そして代償。

「あれは、一体なんなんでしょうか……? 俺は、あの時、何を……」


「……正直、私にもまだ分からないことが多い」

エリシアは真剣な表情で答えた。

「でも、一つだけ確かなのは、ノアの【収納】スキルは、ただの収納じゃないってこと。空間に干渉し、情報にアクセスし、そして……おそらくは、情報を『変換』することすらできる。それは、古代技術にも匹敵する、あるいはそれを超えるかもしれない、とんでもない力だよ」


「でも、危険すぎる……。俺、あの時、自分が自分でなくなるような感覚が……」

スキルを使った時の恐怖が蘇る。制御できなければ、周りも、そして自分自身も破滅させかねない。


「うん、リスクは大きいと思う。だからこそ、ちゃんと向き合わないと」

エリシアは俺の手をそっと握った。

「焦る必要はないよ。今はまず体を休めて。それから、一緒に調べていこう? あなたの力のことを。そして、この世界の『バグ』のことも」

彼女の温かい言葉と、真っ直ぐな瞳に、俺は少しだけ救われたような気がした。一人じゃない。エリシアがいてくれる。


コンコン、と控えめなノックの音がして、部屋の扉が開いた。

入ってきたのは、俺たちを保護してくれたギルドの捜索隊のリーダーと思しき、屈強な男だった。彼は部屋の中を見渡し、俺が目を覚ましたことに気づくと、少しだけ表情を和らげた。


「目が覚めたか、坊主。体調はどうだ?」

「は、はい……だいぶ……」


「そうか、それは良かった」

男は頷くと、すぐに真剣な表情に戻った。

「少し落ち着いたところで悪いが……聞かせてもらわねばならんことがある。君たちが、あの遺跡で何を見て、何があったのか。そして……勇者カイト殿のことについてもだ」


彼の言葉に、部屋の空気が再び張り詰める。ゴードンとセリアの肩がびくりと震えた。

ギルドへの報告。それは、避けられないことだった。

だが、どこまで話すべきなのか? 俺のスキルのことは? バグのことは? そして、カイトの最後のことを……。


俺は、エリシアと、そして部屋の隅の二人と、無言で視線を交わした。

俺たちの、遺跡の外での最初の試練が始まろうとしていた。

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