8話 『妖精』と忌み子
「御三方にはご迷惑をおかけして申し訳ございません、自律式魔道具『妖精』のメープルと言います!気軽にメープルかメープルちゃんと呼んでください!」
「こいつに刺されないよう気をつけてね」
「メープルが刺すのはご主人だけだから」
メープルとアルプ、産まれた時からずっと一緒の仲である。
幼なじみというよりは、家族に近いとアルプは考えていた。
だが、メープルは違っていたのだ。
アルプに好意を抱いていた。
メープルがアルプに対して好意を抱くことになったのは、アルプがウイルド文字を使いメープルに感情を持たせてからだった。
それと同時にアルプが忌み子として扱われるようになった時でもある。
エルフはウイルド文字という文字を魔法として使う技術を持っているのだ。
魔力を通すだけで魔法が発動する不思議な文字として、名をはせている。
それを使いアルプは考えたのだ、どうやったらメープルと仲良くなれるのか、そのときのメープルはまだ魔導具として機能しており、感情を育む時間はなかったのだが、アルプはやってしまった。
ウイルド文字を使いメープルに感情というものを与えるのだ。
本来『妖精』は人と遜色ない感情を持つことはない。
せいぜい笑いかけることができるくらいだ。
だが、アルプは『妖精』に人としての感情を持たせてしまう。
これは、人族との戦後以前から禁忌とされていた行為であり道具に感情を与えるのは許されなかった。
そこからだ。村ではアルプとメープルを処分するようにと大きな話になっていた。毎日忌み子として相応な態度で接されるようになった。
「メープルは死ぬの怖いかい?」
「メープルは生きたいです」
「ボクはもういいよ、メープルならここの隙間から逃げれるだろ?ボクを置いて逃げな」
「ごめんな、メープル。ボクが君に感情を与えなければ」
「痛い、急になにするんだメープル」
アルプは急に小さなナイフで刺してきたメープルに驚いた。
「痛いと言うのは生きたいってこと、それに感情を与えてくれなかったらメープルはメープルじゃなかったです」
「でもボクはあいつらにやられても痛くなかった」
「ならメープルと生きたいってことです!」
「そうなのか、ありがとうメープル、じゃあ一緒に生きてみようか」
生きたいと決意した二人は森を抜け出して、エルフの森から逃げ出すことに成功した。
そこからは苦難の連続であった。
奴隷として売り捌かれそうになったり、
森の中で魔物に襲われて命からがら逃げたりしていた。
これからどうやって生きて行こうと思っていた矢先である。
ゴッチェという男に出会う。
こんな森の深い場所になぜ人がと思っていたアルプであった。
「嘘だろ…こんなところに人がいるなんて」
それはこちらのセリフだと、アルプは言いたかった。ただそんな体力はなく人に会えたことの方が奇跡だと今はありがたく感じることしかできなかった。
「なぁ、俺の冒険者メンバーになってくれ!」
開口一番、仲間に誘ってきてなんだこの馬鹿はとアルプは思っていたのだが、メープルも自分も魔力切れでどうしようもなく、
「ボクは…」
「嫌なら無理にとは言わん町まで送ろう」
ゴッチェは無理だろうと意気消沈していた。いつも元気なゴッチェでも先程仲間と意見がすれ違い別れたばかりであったからだ。
「ボク達を助けてくれるかい?」
「もちろんだできる限り助けよう!」
アルプはこいつしかいない、こんなお人好し馬鹿に頼るしかないと思い、仲間になった。
二人は酒を飲み、話を交わして、1からフォルテスをまた作り直して行くのだった。
ゴッチェとの3人旅パーティーランクAをあげるのはそこまで難しくなかった。
一人でも強いゴッチェにメープルの強大な援護が入りまさに鬼に金棒であった。
この二人と『妖精』の1番の難関は、よくアルプが治安局に捕まっていたことである。昔の大戦の時に使われていた古代兵器を持ち歩いていたのだから当たり前ではあったのだが、大昔の存在で希少ということもあり、この国で知っているものが少ないというのが不幸中の幸いであった。
それでも一部の治安局にはバレていたのであったのだ。
始めはなぜ治安局の一部に追いかけられているのか分からない二人であったが、いざアルプが捕まると理由がはっきりしてきた。
「それ、『妖精』ですよね」
「ボクの家族です」
「なんか悪いこと考えていない?」
「いえ、まったく」
治安局はアルプがこの国でなにか良からぬことを考えていると思っていたのだ。
「メープルはそんなことしません!」
「えっ?そんな人みたいに喋れるの『妖精』って」
文献に載っていた情報と違い治安局のおじさんはびっくりであった。
時には三日ぐらい、話を聞かれることもあったが、特になにも起こらずじまいさらに賄賂を渡していたので解放されることが多かった。
「ゴッチェここの国は大変だよ」
「そんなメープルはヤバイんだな」
「メープルはヤバくありません!」
1年程冒険者を一緒にして、アルプはゴッチェの強さに気がついてしまった。
「ゴッチェって剣だけでSランクいったのか?」
「あぁ、英雄になるための一歩でしかないがな!」
こんな強い人がいるなんてそして自分ではゴッチェの強さに釣り合わないと、
このままでは、足を引っ張るだけではないのか、
アルプは本気でゴッチェが英雄になると思っていたのだった。
ゴッチェには申し訳ないと思いつつ1年ほどしたらまた戻ってくるとゴッチェに言って出て行ったのである。
「メープルは二人で強くなればいいと思うんだけど」
「ボクが納得いかないんだ英雄の隣に立つ相応しい人間になりたい」
「付いていくよメープルちゃんわ」
ゴッチェは信じて待つことにした。
ただ、本当に1年も待たされるとは思っていなかったであった。
だからもう嫌気がさして離れて行ったのではとゴッチェは考えていたのだった。
アルプは程なくして1年が経過しようとしていたとき、たまたま冒険者カードに目が入った。
2つの名前が入っていたのだ。
1年ほどたったアルプは強くはなっていなかったのだが、約束なので1度戻ることを決意する。
ただ戻った矢先に、治安局に捕まってしまったのだ。
1年に1回治安局の入れ替わりがあることを、アルプは知らなかったのだ。
そこからまたいろいろありメープルと喧嘩してしまったのだ。
「やっぱりもっと強くなってからボクは会いたい」
「だから!考えすぎゴッチェはご主人に強さを求めていないのはわかるでしょ」
「いやでもー」
「馬鹿主人頭冷やせ!」
「メ、メープル?」
そのまますごい速さで空に消えていったメープル。
メープルを探している行き着いた先は暁の酒場の路地裏であった。
腹は減り、メープルは消えてしまい路地裏で潰れていたのだったが、
そこにたまたま通りかかったのが灰猫であった。
灰猫に踏まれて痛いと感じたアルプは思い出したのだ。痛みを与えてくれる人は大切な人だと、
間違っていると分かってはいたが、頭の回っていないアルプは変なことを言い始めた。
「君みたいな少女にボクは会いたかったんだよ!」
さらに追いかけもした。
まさかアルプは思っていなかったこの子がゴッチェの新しい仲間だったとは、
灰猫を追いかけているうちに懐かしい顔に会うことになったゴッチェである。
これが二人の再開までの物語である。
冒険者カード
名前 アルプ・アルフヘイム
パーティー フォルテス
パーティーランク A
メンバー ゴッチェ・『 』・インペリアル
アルプ・アルフヘイム
ハイネコ
ビアー・アルタウス
役職 魔具師
個人ランク B
魔力量 700
適正魔法
火 5
水 5
風 3
岩 5
闇 4
光 6