7話 翼竜討伐
「は?またボイコットされたのか、あの馬鹿妖精に!」
「そうなんだよ…今はいつものような魔法は使えないんだ」
自律式魔道具『妖精』
エルフが古代の魔法と独自の技術で作ったとされる人工生命、
エルフと人族の戦争で猛威を振るった魔道具である。
本来なら感情を持たせる必要はないのだが、育て方により感情的になる妖精もいる。
魔力を注ぐことにより、魔法とはまた違う効果を発揮できる。
また魔道具とは魔法とは違い無詠唱で使うことができる。
『妖精』は戦争終結後には製造の禁止が発表され数少ない存在と今はなっている、エルフの国に行くとたまに見かけるぐらいにはいてるようだが、他の国ではまったく見ることはないだろう。
「明日は妖精探しをするか」
「そう言ってくれて嬉しいよありがとうゴッチェ」
「すまんなハイネコこいつの奇行を許せとは言わんが多めに見てやってほしい」
「ゴッチェが言うなら分かった」
「ちょうど暁の酒場にもう一人いるから会ってくれ」
とりあえず酒場にいるビアーの元に戻った。
「遅いのじゃ、二人とも…って、そいつ誰じゃ?」
急に現れた金髪の男に、何より無数の腕に着けられた傷がよりいっそう驚く要因になった。
「こいつが俺のパーティーから唯一抜けなかった、アルプ・アルフヘイムだ」
「よろしくボクのことはアルプと呼んでくれ」
「我はビアー・アルタウスじゃ、才能ない奴に興味ないよろしくなのじゃ」
アルプは初見でこの少女とは反りが合わないと言うことに、むしろあのボイコット妖精と気が合いそうだと嫌な感じをしていた。
「アルプ、こいつには反応しないんだな」
「ボクはやっぱりハイネコちゃんかな」
「いや、ハイネコ男だぞ?」
アルプは思った長年培ったボクの目に狂いはない、
そんなわけがないこの綺麗な顔立ち、胸はなくても、感覚で分かる。絶対に女の子だと。
「いや、それはないねボクの審美眼が言ってるから」
数百年、沢山の女の子を見てきたボクが間違えるわけないと本気で思っていたのだ。
「マジか?ハイネコ?」
「ゴッチェ、騙してて悪いな、ただ年齢は事実だ」
灰猫が、本当の性別を明かしたのはゴッチェ達を信用してきたからである。
あんな強大な力があり、自分に優しくしてくれ、妹みたく接するゴッチェのことを、
少し嫌な所はあるが、師匠面するビアーのことを、
こっちの世界に来て灰猫はまた、人と関わって行こうと思えたのだ。
「理由があるんだな?どっちでも俺の仲間に変わりはない、これからも変わらずよろしくな」
「あぁ」
「いや〜よかったのじゃ、男3人になるパーティーなら本当に抜けようかと思ってたとこじゃ」
流石にこんな子供っぽい体型を狙うやつはいないとビアーは考えていたのだが、やはり不安は大きかったのだ。
次の日になり、四人は妖精を探し森に入っていた。
「ここに本当にいるのか?」
「ボクの見立ててではね、ハイネコちゃん」
「キモイ、無理」
「ん~!最高だよ!」
本気で気持ちの悪いやつが入ってきたと、早くこいつ消えないかなと、灰猫は考えた。
「前もこの辺にいたしな」
「そうなんじゃな」
森の奥に進んでいくとそこには、
小さな声で、ゴッチェは言う。
「おい、お前ら止まれ」
アルプは、凄く申し訳なさそうに、
「すまない」
ビアーは余裕そうに、
「腕がなるのじゃ」
灰猫は目を輝かせて、
「ドラゴンだ!」
飛竜は寝ており丸くなっているが、それでもかなり大きかった、茶色の鱗を全身に纏っており、鳥とトカゲのハーフみたいである。
下には暗めの青色をした長い髪、背中には透き通っている綺麗な羽が四枚ついており、子供が遊ぶような人形が飛竜の横に転がっていた。
「どうする?」
「戦うのじゃ!」
「ボクは待つことをおすすめするよ」
「一回逃げよう」
三者三様に意見が分かれる、
ただ、ゴッチェの意見は決まっていた、
「少し待とう、夕方までに飛び立たなかったら戦おう」
三人はその意見に同意し待つことに、
「どう倒そうと思ったんだビアー」
「まず我が闇魔法で動きを封じるじゃろ、ゴッチェが斬るそれで終わりじゃ」
灰猫はそれだけでいけるのかと疑問でしかたなかった。
1時間ぐらいして、飛竜の翼が動きはじめる。
飛竜の後ろ側にいるというのに、首を木陰に向け四人と目をあわせた。
「バレた!」
「すべては我の思いのまま掌握し拘束せよ、セルウァンダ」
見えない重りが飛竜を襲った。
普通の生き物がくらえばたちまち重力に負け、地面に這いつくばることになるだろうが、
しかし、ビアーの実戦経験の甘さが出た。
飛竜を舐めていたのだ。
「飛んだのじゃ?!闇の位10の魔法じゃぞ!」
翼を思いっきり広げて、口からは火の粉が溢れていた。
「ビアー頼んだ」
もう自分のアイデンティティなんかを捨て去り本気で挑むことにしたビアー、
竜の口からカチッと言う音と共に、火の雨が降ってくる。
「氷塊の壁」
「ボクなんもできなくてごめんねぇ!」
「飛竜を落とせばいい?ゴッチェ?」
「できるのか?灰猫?」
「無理じゃ!重力にすら抗う翼じゃぞ!」
こういうのは私の役目ではないのにと灰猫は思ったが、もしかしたら行けるかもしれないと、竜を見た時から思っていた。
火の雨が、止み次第、
「ウェントゥス」
風魔法を使い自分の体を空に向かって飛ばした。
5m
10m
どんどん飛んでいる飛竜に近づいて行く。
15m
20m
もう目の前に竜の翼があった。
「ここ、弱点でしょ?」
唯一竜の鱗が薄い場所、それは翼の裏側である。
魔法は魔力を減らすことで弱くなる、逆に増やすとどうなるのか、
灰猫のウェントゥスは轟音を鳴らしていた。
下にいる3人にもはっきり聞こえるぐらい、
風を圧縮させたら無数の刃がひしめいているようである。
「ウェントゥス」
竜の目は鋭くなった。
一撃では傷のつかない竜の翼は、何度も何度も風で切り裂れることによって小さな穴が生まれる、そこからは一瞬で穴は広がっていた。
飛んで逃げる暇もなく、竜の片翼はボロボロになった、落下する竜と一緒に落ちていく灰猫、竜は常に灰猫を睨んでいた。
「ざまぁ」
八重歯を見せ笑顔で小さく呟いた灰猫。
「ウィンドウ!」
ビアーが風魔法で灰猫を受け止める。
「なんじゃ!今の魔法!」
「魔力を貯めただけだ」
魔法というものは魔力を減らして威力を弱める使い方しかできないはず、ビアーの知らない魔法の使い方をしていたので問い詰めるのは確定であった。
「後で詳しくみっちり教えるのじゃ!」
「分かった」
飛竜が落ちてきて、当たり一面砂埃が舞っている。
「妖精に魔力注入できたかぁ?!」
「ゴッチェ!無事できたよ!」
人形の少女は動き出す。
「ん〜!メープルちゃん!再起動!」
元気よく空中で大の字になり伸びをする。
「あれ?ここは?メープルちゃんまさか捨てられた?!」
「ボクの顔を見てよく言えるね」
「マジ怒り顔〜」
「はやく!魔法使って!竜はすぐ動くんだから」
「はいはいメープルマジわかり」
「魔法をかけるよ〜!メープルちゃん特製魔力上昇!筋力上昇!最後にとっておき!運気上昇!」
「助かってるぞいつも」
ゴッチェは竜に向かって走る。
剣を抜き、首を狙う。
「ビアー!竜の頭に闇魔法を!」
「セルウァンダ!」
竜の頭が地面を舐める。
竜の瞳に剣が反射した。
オークの腹を一太刀で斬った剣は、竜の首をも一太刀でねじ伏せた。
4人は歓声をあげる!
「本当にボクのメープルがご迷惑をおかけしました」
「迎えに来るの遅いんですけど!」
「メープルが勝手に出ていくからだろ!」
無言で小さなナイフをアルプの腕に刺すメープル
「それ辞めろって、何度も言ってるのに」
もう半ば諦めていた、メープルの刺し癖である。